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プリンセス・サーバンツ 〜スローライフ希望だったのに魔族の姫として働かされてます〜  作者: みずほたる
望んだのはスローライフ。――なのに大陸統一を目指されています。
28/51

姫様、聖女を国に帰したがります。

「とりあえず絶望の波動を発動していい?」


私は騎士団に笑顔で聞くと、騎士団が一斉に青ざめる中、オリンだけが目を見開いた。


「絶望の波動じゃと!」


オリンの目が見開かれた。


さすが数百年に1人の逸材と呼ばれた闇魔法使い。


「なんじゃそれは!」


......そうでもなかった。


「姫様が自ら手を下す必要はございません。残り半分の自己紹介を終えたら、一瞬で殲滅してみせます!」


オカリナがクシャクシャになった紙をどこからか取り出した。


「今更自己紹介する意味あるの?」


「折角頑張って書いたから発表くらいしたいです!」


「でも自己紹介発表直後に殺すのよね?」


「用済みですから」


「だから自己紹介する意味は」


さっきもこのやり取りをした気がするが、聖香が私を差し置いて祈りだした。


清き波動が周囲を包み出す。


「くっ...小癪な真似を!」


オカリナはこの波動の中、身動きがとれないみたいだ。


波動の力は段々と強くなり、オカリナは立っているだけで精一杯になっていた。


「おお、この白き波動......」


オリンが歓喜に溢れた声を上げる。


「どこかで見たことあるぞ!」


あ、波動が消えた。


「いつも聖法国内に結界張ってあったのと同じ物ですが?」


祈りをやめた聖香が怖い顔をしてオリンに近づいた。


「おお。だからどこかで見たことがあると......つまり、あなた様が聖女様ですか!!」


「先ほどからそう申し上げております!」


「するとその隣にいるのが勇者という名の穀潰しか!」


「そこは否定しません!」


「否定しなさいよ」


私がツッコむと、綾子が目を輝かせながら私を崇めてくる。


「姫様ありがとうございます! これから私は姫様の剣と盾になります!」


「勇者のくせに古の悪魔姫(わたし)に寝返ってどうするのよ」


「しかし、今となっては私たちは姫様が治める国の民です。税金も払ってるし問題ありません」


「そう言われたらそうね」


「この穀潰しが! 何故悪魔姫に寝返るか!」


「労働基準法がしっかりしてるからだ!」


「なんじゃそれは!」


「あと、水洗トイレが常備されてる!」


「なんじゃそれは!」


「福利厚生は絶対だということだ!」


「おのれ、よくわからん戯言を! 騎士団たちよ。この裏切り者と魔族(こいつら)を殲滅しろ!」


「ハッ!」


騎士たちが一斉に剣を抜こうとした、その瞬間。


「待て」


オカリナが瞬時にオリンの前に立った。


「私の自己紹介はまだだ」


「え? それ必要?」


目を丸くするオリンや騎士たちをよそに、オカリナは頑張って書いたであろう自己紹介文を読もうとするが、


「くしゃくしゃになって読めない。どうしてくれる!」


「知らん!」


オカリナは困った顔をして私に振り向いて聞いてきた。


「困りました」


「困る要素あった?」


このままだと自己紹介ループが終わりそうにないので、私が代わりにオリンに言った。


「戦いは望まないわ。今日は諦めて帰りなさい」


「聖女様を連れて帰るのがワシの使命じゃ。諦めることなど許されん」


この頑固ジジイめ。と、思いながら聖香に聞いた。


「と、言ってるけどアンタはどうしたいのよ?」


「……帰りたくありません」


「何故ですか!」


「聖法国では睡眠時間以外、絶滅危惧種で、しかも襲って来ない魔族対策のために無機質な部屋で祈らされていますが、この国では三食昼寝付き。しかも祈らなくていいからです」


「国を守るために聖女は祈る。それがホルン聖法国の礎じゃ!」


すると綾子が、剣先をオリンに向けて、


「ブラック企業の常套句だな。帰って法王に伝えよ。聖女様と勇者は戻らぬとな」


「おのれ、こうなったら実力行使で」


オリンの周囲で闇の魔力が膨れ上がる。


「これは闇魔法の詠唱!?」


聖香が警戒すると、


「...あれ? なんだっけ」


魔力が消えた。


「闇魔法なんかずっと唱えて来なかったから詠唱内容忘れてしもうた!」


「......もしかしてこれ?」


私は言うと、絶望の波動を軽く放った。


「ここまでしろとは言っておらん!」


「面倒くさいジジイね」


絶望の波動が少し濃くなった。


「く、苦しい......」


オリンを始め騎士団たちが苦しみ出す。


どうやら、姫様のしもべプリンセス・サーバンツ以外のものが波動を浴びるのはよくないらしい。


オカリナが聖香の祈りに苦しんだのと同じということか。


それにしても落とし所をそろそろ考えたい。


絶望の波動をより強くすると、聖香がきっと許さないだろうし、無駄な死傷者は出したくない。


とりあえず絶望の波動を解除すると、オリンたちは解放感からかその場に倒れた。


さて、これからどうするかと考えると、


「双方待たれよ」


光が差すその先には裁きの神フォルテが宙に浮いていた。


「この判決、妾が下してやろう」


なんかようやく役目がやってきたと嬉しそうに見える。


「なんじゃおまえは! 余所者風情が恥を知れ!」


復活が早かったオリンは文句を言う。


「失礼な。妾は裁きの神じゃ」


「知らん奴に裁かれる筋合いはないわ!」


「ならば仕方あるまい」


フォルテは咳払いすると、やたら偉そうに告げた。


「これより聖女帰還問題に関する裁判を開始する!」


「裁判!?」


騎士団たちがざわつく。


するとフォルテは指を鳴らした。


次の瞬間。


森のど真ん中に巨大な法廷が現れた。


「なんでこんな物だけ無駄に本格的なのよ」


「妾は裁きの神じゃからな!」


フォルテはドヤ顔で胸を張る。


そして木槌を叩いた。


「では判決を述べる!」


「まだ何も審議してませんが!?」


「面倒じゃった!」


最低の裁判官である。


フォルテは聖香を指差した。


「聖女は自らの意思でここに残ると証言した!」


次に綾子を指差す。


「勇者も福利厚生を理由に残留を希望しておる!」


「うむ!」


「よって——」


フォルテは高らかに宣言した。


「聖女と勇者は引き続き、この国で三食昼寝付きの生活を送るものとする!」


「そんな判決があるか!!」


オリンの怒号が森に響く。


しかしフォルテは気にせず木槌を鳴らした。


「なお異議申し立てには、裁判費用として金貨三千枚必要じゃ」


「高すぎるわ!!」


騎士団たちが騒ぐ中、私はふと思った。


……この神、絶対楽しんでるわね。


こうしてオリンを始めとした騎士団たちは一応無傷のまま帰って行った。


「とりあえず一件落着ね」


私は何故かプレゼン発表後なみの疲労があったのだが、聖香が淡々と言った。


「とりあえずじゃないですよ。次はきっと国をあげて本格的に攻めてきますから」


あんた(聖香)、国に帰りなさいよ」

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