姫様、収拾がつきません。
「聖騎士団長とは、どのような人物なのじゃ?」
リィナが興味本位で尋ねると、聖香は表情を曇らせた。
「オリンは我が聖法国の騎士にして、数百年に一人の闇魔法の天才と呼ばれております」
「ほう」
「問題は、私が結界を張っていたせいで闇魔法がほぼ効かないことですわ」
「天才要素が無意味じゃない」
私が気になって聞くと、聖香は真顔で固まった。
「……そこを突いてしまうと可哀想じゃないですか。だから騎士団長にしたっていうのに」
そう言われて頭を抱える私。
すると綾子が聖香の代わりに言った。
「オリンは剣の才能は全くありません。要するにただの責任を負わされた名誉職と考えて下さい。それに騎士団も正直束になっても私一人にすら敵わない雑魚ばかりです」
私は話を聞いて頭を抱えてしまった。すると、
ドォォォォン!!
突如、遠くから凄まじい爆発音が響いた。
窓ガラスが激しく震え、天井からぱらぱらと埃が落ちてくる。
「なにごと!?」
私は窓を開けた。
すると村の北側。
森の向こうから、黒煙が勢いよく立ち上っていた。
「あー……」
嫌な予感しかしない。
その瞬間、勢いよく扉が開いた。
「姫様!!」
血相を変えたヴィオラが飛び込んでくる。
「大変です! オカリナ様が騎士団と接触しました!」
私は椅子から立ち上がると、
「戦闘に入っちゃったの?」
「はい。オカリナ様が50分ほど自己紹介をしたところ、話が長いとしびれを切らした騎士団長が爆裂魔法を発動しました」
それを聞いて初の対人戦と無駄に張り切って、朝から鏡の前で台本まで書いて練習していたのを思い出した。
『私はオカリナ=ベルゼ・シンフォニア。姫様の忠実なる悪魔大元帥。この漆黒の鎌が貴様らの~』って空気を読まずに長々と喋り出したのだろう。
「それにしても爆裂魔法って闇魔法じゃないのでは?」
私は疑問点を口に出すと、
「闇魔法が効かなすぎて、途中から“爆発すれば関係ないのでは?”という結論に至ったかもしれませんね」
「何その脳筋に走る努力家」
聖香の回答に少し呆れたがヴィオラが聞いた。
「聖女様。そういえば今はお祈りしてるんですか?」
「いいえ。悪魔姫様が治める国で魔族対策の祈りをするのもどうかと思いますし、祈りたくて毎日祈っていたわけじゃないですから」
「なら結界が消滅していたかもしれませんね」
「ちなみに祈ってできる結界ってどれくらいの範囲なの?」
「聖法国一面くらいですね」
「あなた、味方の能力を無力化してただけじゃない」
そんな話をしても仕方がないので、爆発した場所に飛んで向かうことにした。
そして到着すると、煤だらけの聖騎士団員たちと、無傷どころか汚れひとつついていないオカリナが一人、立っていた。
「なんともなさそうね」
私は着地してオカリナにそう言うと、
「姫様。こいつらひどいんですよ。まだ半分も私の偉大さを話しきれていないのに攻撃してきたんです」
「......半分?」
確か50分は自己紹介してたと聞いたが。
「はい。どうせ死ぬなら最後に私の偉大さを知ってから死んだ方が良いかと思いまして」
「あのさ......知る意味なくない?」
少しオカリナは考えた後、
「......さすが姫様。どうせ死ぬ者に私の名すら教える必要はございませんでした」
まあ結果的にはオカリナがポンコツなおかげで死傷者がいなくて助かった。
相手に被害が出たら聖女や勇者と戦う羽目になってもおかしくないからだ。
「さて。あなたが聖騎士団長オリン? 私がトランペット村を統治しているミナエよ」
多分先頭に立っている男がオリンだろうって、よく見たら、
「そ、そうじゃ。ワシが聖騎士団長、オリンじゃあ!」
威勢はいいが、杖をついて立っているのがやっとといった爺さんだった。うん。誰か座らせてあげて。
「で、お前は誰じゃ?」
「ミナエよ」
「はぁ? 聞こえん」
どうやら耳が遠いようだ。
「姫様。まだ自己紹介が半分ほど残っております」
「多分あなたの言ってること聞いてすらないわよ?」
「なんですって!」
「いや、気づきなさいよ」
オカリナが泣きそうになりながら項垂れていると、何故か勝ち誇ったオリンが、
「お主が誰かわからんが、聖女様を連れ戻すのがワシの務め。邪魔するなら消えてもらうぞい!」
と、杖を勢いよく地面に叩きつけると、
ポキッ
バタン!
杖が折れてオリンは倒れてしまった。
杖をついたら爆裂魔法が発動するかと思ったが、全くそんなことはなかった。
「団長ー!?」
騎士団員たちが慣れた動きでオリンを抱え起こす。
「何がしたいのよ」
私が呆れてつい口走ってしまうと、
「ミナエさん。どうかオリンをお許し下さい」
聖香が頼んでくる。
「別に被害があるわけじゃないし、かまわないわ」
私はやれやれといった態度を取ると、
「お聞きの通りです。みな、国に帰りなさい」
聖香は聖騎士団に言うと、起き上がった先頭にいるオリンが言った。
「誰じゃお主は。偉そうに。口の聞き方も知らんのか」
「そうだ。我ら聖騎士団に命令できるのは聖女様と大神官様のみ!」
「……私が聖女なのですが」
「偽物め! 我らは騙されんぞ!」
助けを求める目を勇者綾子に向けると、
「騎士団たちよ。会ったこともない聖女様に対して疑うのも無理はないが、本物だ。勇者である私が保証する」
綾子は前に出て騎士団を説得しだした。
「勇者じゃと? ただの穀潰しじゃないか」
「ゆ、勇者だと!?」
騎士団がざわついた次の瞬間、
「魔族が襲ってきたら返り討ちにするために雇ったのに、そんな手柄をたてたことがない奴か!」
「魔族が襲ってきたことがないんだから仕方ないじゃないか!」
うーん。
私はこの状況をどうしたらいいか悩みだした。
そして騎士団に聞いてみた。
「とりあえず絶望の波動を発動していい?」




