25話 姫様、聖女を働かせます。
「ヴィオラ。詳しく説明してくれる?」
突然、神が現れるわ、食い逃げ犯が現れるわで状況を整理したかった。
「うどん屋にて、この自称勇者が代金を支払わず逃走を図りました。それをアルバイト店員——もとい、破壊神様が逃走経路を破壊し、捕縛しました」
この報告内容を整理したくなる。ツッコミどころ満載だ。
破壊神って何か物理的な物を消滅させるイメージがあるのだが、逃走経路を破壊ってもはや空間すらも破壊している気がする。
そして、勇者。
私は聖香を見ると、彼女は爽やかな笑顔で言った。
「知らない人です」
そして見事に切り捨てやがった。
「聖香。私を見捨てるのか」
勇者が声にならない声を出すが古の悪魔姫にはちゃんと聞こえてしまう。
「勇者という者が食い逃げなんか致しません」
「仕方がなかったんだ。私は......!」
勇者が言い切ろうとしたとき、裁きの神フォルテが先端の鋭い杖を掲げて言った。
「ならば裁きの場を与えてやろう。被告人は貴様、検察はそこのエルフ。弁護人は銀髪の人間でよいな?」
「私は?」
私は聞くとフォルテは、
「事件に興味がある傍聴席に座る野次馬Aだな」
「なら外でやりなさいよ。私の自宅で裁判なんかされてもうるさいだけよ」
少しの沈黙。
「仕方がない。裁判員制度を利用しよう。貴様も、そこの悪魔と人間も裁判員として参加するが良い」
「おい。神だかなんだか知らんが村に仇なすものは死刑でかまわん」
「そうですね。死刑とまではいきませんが、村の利益を損ねる犯罪者には死ぬギリギリまで痛めつけるべきかと」
オカリナと七海がキッパリ言うと、
「決まりじゃない。判決を下すまでもないわ」
「......裁きの神に裁きをさせないって、悪魔か貴様ら」
「古の悪魔姫に悪魔かどうか聞いてどうするのよ」
「さすが姫様です。そんなわけで裁きの神だかなんだか知らんが、ここでは姫様が法だ。帰れ」
「いや、妾は公平に法に則ってだな......」
「この村に法は働かざる者食うべからずしかないわよ? その方の元で勇者は働いてないのに食い逃げをした。死刑しかないじゃない」
「さすが姫様です!」
なんか威厳を持っていたはずの神が小さくなっているように見える。
「仕方ありませんね。代金は私が支払います。おいくらですか?」
聖香が聞くとヴィオラが答えた。
「うどん代金は銅貨三枚です」
「仕方がありません。私が代わりに支払います」
「補修代金が金貨二万枚と銅貨一枚です」
「なんでそんなに高いんですか!」
「食い逃げ犯捕獲のため逃走経路を破壊、いや、空間を捻じ曲げましたので弁償していただきます。空間の歪みって創造の神にしか直せないんですよ」
「創造の神って三大神の一人じゃないですか!」
「はい。慈愛の女神リィナさんのツテを頼っていま呼びに行ってます。紹介料として金貨二万枚請求されていますね」
「補修代金が銅貨一枚ってうどんより安いのもどうかと思いますが紹介料ぼったくりじゃないですか!」
「慈愛の女神リィナ様ですよ? ぼったくるくらいわかりませんか?」
「慈愛とは!?」
「リィナ様に慈愛を求めてどうするんですか」
「......とてもじゃないですが払えません」
「ならば働くしかないですね。ちょうど最近できたガラス工芸品店の売り子が足りません。払い終えるまで二人ともそこで働いてください」
「え、聖女として世界から讃えられた私がバイトですか?」
「売上が予算よりも多かったら報奨増えますのでやる気上がりますね」
「いや、やる気はどうでもいいんです」
「やる気がないと店長に昇格できませんよ?」
「いや、目指してないんで」
「制服は明日用意しておきますね」
「もう逃げられないんですか!?」
そう答えて聖香はキッと、縄でぐるぐる巻にされている勇者を睨みつけると、
「私だけは見逃してくれ......」
勇者としてのセリフは返ってこないのであった。
トランペット村。
古の悪魔姫が治める森の中にある自然の要塞。
その村の一角に最近出来たガラス工芸品店。
店先には陽光を反射する色鮮やかなガラス細工が並び、道行く村人たちが足を止めていた。
——そこで、聖女と勇者のアルバイト生活が始まろうとしていた。
一方、ホルン聖法国。
「聖女様と勇者が古の悪魔姫に捕まって強制労働させられているだと!? すぐに兵を集め奪還しなければ!」
と、騒がしくなるのであった。
再びトランペット村にある|プリンセス・サーバンツ《姫様のしもべ》という名の冒険者ギルド。
「妾は裁きの神であって、職業斡旋所職員ではないのだが……」
フォルテが文句を言うとヴィオラは当然と言った顔で答えた。
「千枚ものカードをダメにしたので弁償していただきます。あれ、学校の教材ですから」
「あんな何を書いているのかわからないやつが教材とは」
項垂れながらもフォルテは今日もハンコを押すのであった。




