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姫様、湖を観光地化します。

私と七海、オカリナは大きな地図を広げて城の建築場所を検討していた。


「やはり、森にある唯一の湖のほとりがよろしいかと思います。ですが、この湖には海王ポセイドンが住んでおります。立ち退きをお願いしましか?」


「別にポセイドンが住んでいても問題はないとは思うけど?」


ゴミ処理問題もポセイドンがスライムの情報をくれたから解決できたのだ。邪険にはしたくない。


しかし、私の言葉に七海は首を横に振る。


「来客が来た時、城から湖を見て普通に生活をしているであろうポセイドンを見つけます。その時必ず『海王が何故湖に住んでいるのか?』って聞かれますよ?」


「水神龍の怒りをかって左遷されて今はあの湖を守護しているはずよね?」


「その説明を毎回する羽目になります」


「まあ面倒だけど仕方ないわね」


七海と違って私はあきらめると、疲れ果てたポセイドンがやってきた。噂をしていたらなんとかだ。


「あの湖に絶滅したと言われていた古代竜が住んでいてな。ご近所トラブルが絶えないのだ」


「ご近所というか同じ屋根の下じゃないの? でも熱帯魚だと地表とか水面とか住み分けはしてるんだっけ?」


若い頃アクアリウムにハマっていたことを思い出したのだが、オカリナが、


「姫様にそのようなくだらない話を持ちかけてくるこの愚か者を処刑すべきです」


「え、誰も古代竜が住んでいたことに気づかなかったことに驚かないんですか?」


「この世界じゃ、仕方ないからなあ。一旦、私が話に行けばいいのね?」


「しかし、古代竜は会話が通じん。何を言ってるかさっぱりだった」


まあ、竜なので会話が成立するとも思ってはいないが、犬猫みたいなもんだろうし。


そう考えていると、七海がポセイドンに聞いた。


「竜って、喋れるんですか?」


「ああ。なんか、ムカ着火ファイヤーとか言っていたぞ。俺には何を言っているかさっぱりだ」


それを聞いて古代竜だからペペロン語(古代文字)なんだ。


なんかいけるかもしれない、と私は思ってしまった。




トランペット村にある唯一の湖に行くと、


「やっぴー☆ アンタら、ウチんとこ来るのマジ秒でバレてたし~」


巨大な竜が待っていたかのように話しかけてきた。見た目と違ってポセイドンの言う通り失わられたといわれたペペロン語、いわ、平成のギャル口調でである。


見た目と違う話し方すぎて、違和感しかないのは確かだが


「姫様。何を言ってるかわからぬ者なぞ抹殺すべきと進言します」


「え? 私にはわかるんだけど!」


「さすが姫様です。翻訳していただけますか?」


「どうも。あなた方が来るのはわかっておりましました。って言っているのよ」


「なるほど。やはり抹殺しましょう」


「なんでよ!」


「わかっているなら待つのではなく、自ら足を運ぶべきです」


巨大な竜は、こちらの言い合いを見てケタケタ笑っていた。その笑い声は地鳴りのように響くのに、内容は完全にギャル。


「てかさー、ウチんとこ来るならさ、事前に“来るね~”って一言ほしかったんだけど? マジで」


「いや、あなたが来ればよかったんじゃないの?」


私がそう返すと、竜は目をぱちくりさせた。


「え、ウチが? ないない。ウチ、基本“待ち”スタイルなんだけど?」


「ほら姫様。やはり抹殺すべきです」


「なんでよ!」


七海が深いため息をつき、竜に向き直る。


「あなたが湖に住んでいるせいで、海王ポセイドンが困っているそうですが……?」


「え、あのオッサン? ウケる~。あいつさ、ウチのこと“絶滅した古代竜”とか言ってビビってんのよ。マジ草」


「草って言ってる……」


私は思わずつぶやいた。


竜は尻尾をぱたんと振り、続ける。


「てかさ、ウチ別に悪いことしてなくない? ちょっと湖の水を炭酸にしたり、色変えたり、夜に光らせたりしてるだけなんだけど?」


「十分すぎるほど迷惑かけているわよ!」


つい怒鳴ってしまうと、絶望の波動が身体から溢れ出した。


闇に包まれた瞬間、湖の空気が一変する。


風が止まり、水面が凍りついたかのように静まり返る。


ポセイドンが息を呑む。


「お、おい……今のは……」


次の瞬間——


巨大な竜の身体が、ぎゅるりと音を立てて縮んだ。


骨が軋み、鱗が砕け、闇に飲み込まれる。


やがてそこに立っていたのは——


金髪に焼けた肌、露出の多い服を着た、どこにでもいそうなギャルだった。


「ちょ、待って。なにこれウケるんだけど。姿はこんなのでも能力は変わってないし。アンタすごいね」


「貴様、姫様に対して無礼だぞ」


「そんな怒らないでよ。で、アンタら何しに来たわけ?」


ギャル竜は髪をかきあげながら、こちらを値踏みするように見た。


私は一歩前に出る。


「単刀直入に言うわ。この湖の横に城を建てるのよ。で、先住者であるポセイドンと話し合いしようとしたら、アンタも住んでいて揉めてるみたいだから、まとめて今後のことについて話そうと思って来たのよ」


「別にウチは湖に住まなきゃ死ぬじゃないし、ここにいなきゃダメな理由もないんだけどさー」


ギャル竜は肩をすくめる。


「でも居心地いいんだよね。あと景色エモいし」


「エモさで居座らないで」


私は即座に返す。


七海が一歩前に出た。


「つまり、“出ていく気はないが義務もない”ということですね?」


「そゆこと」


「では条件交渉に移ります」


切り替えが早い。


「このまま居住を認める代わりに、湖への干渉行為を制限していただきます」


「えー、どのへん?」


「炭酸化、発光、色変化は全面禁止です」


「それほぼ全部じゃん」


「はい」


ギャル竜は露骨に嫌そうな顔をした。


「無理無理。それウチの楽しみだから」


「では退去を」


「それも無理」


——膠着。


ポセイドンがぼそっと呟く。


「……やはり、戦うしか——」


「待ちなさい」


私はそれを制した。


そして、ゆっくりと湖を見渡す。


水質変化。発光。巨大生物。神。


普通なら“問題”だが——


「……ねえ」


私はギャル竜を見る。


「その“遊び”、どこまでできるの?」


「え?」


「湖の水、塩水にできる?」


「余裕だけど」


「波は?」


「作れるよ。ノリで」


「夜の発光は?」


「むしろ本気出したらイルミ余裕」


私は頷いた。


「いいじゃない」


「姫様?」


七海が警戒する。


私はにやりと笑った。


「全部やりなさい」


「は?」


「制限なんていらないわ。むしろ最大限にやりなさい」


「ちょっと姫様!?」


七海が珍しく声を荒げる。


「それでは被害が——」


「被害じゃない。資源よ」


その一言で、空気が変わった。


ギャル竜の目がきらりと光る。


「あー……なるほどね?」


「ええ。どうせなら徹底的にやりましょう」


私は指を鳴らした。


「この湖——観光地にするわ」


ポセイドンが固まる。


「……は?」


「炭酸水? 結構じゃない。名物にすればいい」


「色変化? ライトアップとして売り出せばいい」


「発光? 夜景として価値があるわ」


七海が一瞬黙り込み、そして小さく呟いた。


「……収益化、可能ですね」


「でしょ?」


ギャル竜が笑い出した。


「アンタ、マジでセンスあるじゃん!」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


「じゃあ決まりね!」


ギャル竜はぱんっと手を叩いた。


「“海の家”やろうよ!」


「湖です」


「じゃあ海にする」


「やめなさい」


しかし——


私は止めなかった。


その翌日。


湖は、完全に別物になっていた。


水はほんのり塩味を帯び、青く輝き、一定のリズムで波が打ち寄せる。


「だからなんで湖に波があるのよ……」


「ノリだって」


砂浜までできていた。


どこからともなく。


「地形が軽いのよこの世界」


浜辺には屋台が並び、働く村人たちが元気よく客引きをしている。


「いらっしゃいませー!」


「ひんやりスライムゼリーでーす!」


七海は帳簿を見ながら冷静に言う。


「初日で黒字です」


「優秀ね」


オカリナはなぜか高額商品を売っていた。


「姫様監修という付加価値です」


「監修してないわよ」


ギャル竜はサングラス姿で手を振っている。


「やっぴー☆ 写真一枚銀貨一枚ね~!」


「しっかり商売してるわね……」


そして。


ポセイドンは、波打つ湖を呆然と見つめていた。


「……俺の湖が……」


私はその肩を叩く。


「いいじゃない。繁盛してるわよ?」


「そういう問題じゃない!!」


「働きなさい。人手不足よ」


「海王だぞ俺は!?」


「じゃあ“海の家の責任者”ね」


「格が下がってないか!?」


私は満足げに頷いた。


——こうして。


トランペット村に、新たな名所が誕生した。


その名も。


「トランペット・ビーチ」


「だから湖だろうが!!」

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