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姫様、城に憧れをもちます。

トランペット村がある大森林を北に抜けると、

ホルン聖法国と呼ばれる国家がある。


その国は、聖なる結界によって守られ、いかなる魔族も侵入できない——世界一安全な国。


その中心。


巨大な魔法陣の中で、聖女は祈りを捧げていた。


「……南に現れた村の報告を」


祈りをやめずに、彼女は言う。


白き法衣の男が一歩前に出た。


「はっ。誰も近づこうともしなかった魔の森に突如として誕生したトランペット村——古の悪魔姫デビルプリンセスが統治しているとのこと」


「……で、動きは?」


「村の中央に巨大なゴミステーションを設置し、

分別を義務化。またスライムによる廃棄処理を——」


「待ちなさい」


聖女の祈りが、そこで止まった。


「……それ、普通に良い政策では?」


「しかし聖女様。あの存在が裏で何を企んでいるか——」


「少なくとも、私よりは人々の生活を考えているように聞こえるのですが?」


空気が、一瞬凍る。


「……私、何のために結界張っているのかしら?  そもそも魔族って絶滅危惧種ですよね? 例え攻めて来てもあなた方でなんとかなるのでは?」


「私たちが苦労したくないから、聖女様に祈ってもらっているのです」


「あなたって古の悪魔姫(デビルプリンセス)以下の存在なのでは.....まあ、いいです。一度会ってみたいですね。その悪魔姫に」


「いけません! 万が一聖女様の身になにかございましたら、世界のパワーバランスが一気に反転してしまいます!」


「大丈夫ですよ。私には勇者という護衛がついていますから。ねぇ?」


聖女が視線を向ける。


その先——


「……すぅ」


勇者は、壁にもたれたまま寝ていた。


「……起きなさい」


「あと五分……」


空気が凍る。


「……本当に、この国は大丈夫なのかしら」




3日後、トランペット村の洋館(自宅)。


「ホルン聖法国から使者が来ました。聖女自ら姫様にお会いしたいとのことです」


食堂でお茶を飲んでいた私にオカリナが話しかけてきた。


私がどこの誰よ。と言った顔を見せると、オカリナがその表情をどう読み取ったのかわからないが、


「切り捨てて首を送り返すべきかと進言します」


「なんでそんな物騒な考えに至るのよ」


「姫様。聖法国といったら我々魔族を絶滅危惧種にまで追い込んだ元凶。それが聖女となったら親の仇と変わりません」


「オカリナの親は野生の熊にやられたとか言ってたじゃないの。別に私自身に恨みも何もないわ」


「姫様。まさかお会いになるつもりですか?」


「会って損はないでしょ」


「ならば腕利きの暗殺者を数名雇う必要がございますな。あと、食事には毒キノコをふんだんに使いましょう」


「なんで殺す前提なのよ」


「世界中の人間から慕われている存在は今のうちに消しておくのが良いかと」


「なら、なおさら一度会って敵対心がないことを伝えるべきじゃない」


「姫様。まさか仲良く手を取り合うおつもりですか?」


「そのつもりだけど?」


「かしこまりました。ならば私のできることはただ一つ。森に入る前にバレないように追い返すことのみ!」


「いや、企みを自白してどうするのよ」


「しまった! さすが姫様です」


「オカリナはおとなしく護衛しててよ」


「はい......かしこまりました」


少しへこたれるオカリナだが、七海がようやく無駄話が終わったかといった顔をして聞いてきた。


「で、姫様。どこで会うつもりですか?」


「この家でいいんじゃない?」


「会ったこともない、種族的に反対の位置にいる聖女様をいきなり自宅に招いてどうするんですか」


「逆にどこがあるのよ? まさか破壊神がバイトするうどん屋?」


「突貫工事にはなりますが、城が必要かと」


「そんな資金どこにあるのよ?」


「姫様のドレスを売った資金をやりくりしながら建築するしかありませんね。使者には一ヶ月後と言ってできるところまでやるしかありません」


「むしろ会わないってのは?」


「空いたくない理由を疑われるかと。攻められる口実にもなりますし断るのはリスクが大きいと思われます」


「なら、私が会いに行けばいいんじゃない?」


「私もそう提案しましたが、使者が言うには汚いから嫌だと断られました」


「どこの女子高生よ」


「まあ、突貫工事するしかないですね。姫様。ダンボールってこの世界で見たことありますか?」


「ダンボールで何とかなると思わないで! せめて“それっぽいダンボール”にしなさい!」




一方その頃、森の外。


「返事を待たずにここまで来てしまいましたが、ま、いいでしょう」


聖女と呼ばれた世界の希望は、帰って寝たいとしか言わない勇者を連れて来ていたのだった。

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