姫様、スローライフは貧乏への始まりでした。
トランペット村にある洋館。というか自宅。
「姫様。森の湖の隣に築城しましょう!」
アンダンテ王国から戻ってきて二週間後、広々とした食堂にてパンを食べていた私にオカリナが今日もそれを言ってきた。
あの城を見て羨ましく思ったのか、毎日せがんでくる。
「嫌よ。どれだけお金使うと思ってるのよ」
「しかし、世界征服のためにはやはり城です!」
「だから世界征服なんて望んでないってば。姫様のしもべも機能してきたし、私は周回馬車に乗って巡回して必要そうな物をシャープに依頼するだけで三食昼寝付きの生活。これこそスローライフだわって満足してるのよ」
そう。冒険者ギルドならぬ姫様のしもべは異世界型ハローワークとして機能していた。
労働者は募集している職を探して働く。
切磋琢磨をして管理者となり、今後支店が増えていけばいいなと思っている。
学校も設立した。識字と計算だけだが人気殺到の施設である。午前中、学んで午後から働くといった人がほとんどで、子供から大人まで入学待ちがいるらしい。
あとは発展しきったところでヴィオラか七海に村ごと押し付ければ、スローライフの完成。
私はそう考えていた。
「え? 姫様も働かないと給料なんか出ませんよ?」
翌日、私がサボり気味だと感じていた七海が釘を刺してきた。
「いや、私の生活は国庫から出るんじゃ?」
「税金や国庫は村の活性化に使うと宣言したじゃないですか。姫様の生活費用なんかに使えません。何せこの村の掟は働かざる者食うべからずです。姫様が守らなくて誰が守るのです?」
「となると、引っ越しして仙人みたいに暮らすしかないのかね?」
「姫様は自覚していませんが、姫様という魔族の姫という歯が立たない存在が治めているから他国からの侵入がないんです。姫様が引っ越しなんかしたら村ごと庇護を求めて引っ越ししてしまいますよ?」
「マジで? じゃあ最低限だけ働くわ」
「ちなみに毎日やってる巡回は一日銅貨一枚です」
「パン一個の値段じゃない! 私は一日三食を希望してるのよ?」
「楽な仕事は報酬は少ないって姫様が決めたじゃないですか」
「あれ、神経使うし、気を使うし、結構大変なのよ!」
「村にうどん屋がオープンしたのをご存知ですか?」
「まだ行ったことないけど、突然何を言い出すのよ?」
「あそこで破壊神様がアルバイトを始めました」
「なんで世界三大神がバイトしてるのよ! 他にやることあるでしょ!」
「経緯はわかりませんが、どんぶりを割らないように頑張っておられます」
「適正あわなさすぎでしょ!」
「ですが、姫様は触れた物を消滅させてしまうと言われる破壊神様ほど神経を使っておりません」
「比較対象間違えすぎじゃない?」
「あと、オカリナさんとリィナさんが学校に通い始めたのをご存知ですか?」
「なんで悪魔大元帥と慈愛の女神が通っているのよ?」
「2人とも字が読めなく、書けないそうです」
「よく立派な肩書を名乗れたまま生きて来れたわね」
「あと、2人とも足し算や引き算がわかりませんでしたのでおすすめしました」
「もはや設定だけで生きてきたの?」
と、周りが頑張って社会に馴染もうとしているのはわかったので重い腰を上げることにした。
「で、私は他に何をしたらいいわけ?」
「労働者が怪我をした時、処置をしてくれる者がおりません。エルフたちも回復魔法は使えないそうです」
「病院が必要、と。ん?」
私は自分で言って思い出した。
「カシュタルの街にいた神族たちのことを、すっかり忘れていたわ」
一方その頃。
森を出たところにある街カシュタル。
そこにある病院にユリエルという神族の医師がいる。
彼は助手であり、薬師でもあるクラリを呼び出して言った。
「ついにあの森の中にトランペット村ができたらしい。古の悪魔姫が治めている」
するとクラリの笑顔が豹変する。
「古の悪魔姫ですって!? あれって伝説上の存在じゃなかったのですか!?」
「俺も実際会ってみて驚いた。しかしもっと驚くのはこれだ」
ユリエルは一掴みの草を机に置く。
「これって、エリクサーじゃないですか。一体どこから。世界でも希少な存在ですよ!」
「森に生えていたそうだ。悪魔姫は雑草だと思っていたようだがな」
「あの森に!? あそこは毒キノコしか生えていなかったはず。金の亡者である私が、お金になるエリクサーの存在に気づかないはずがありません!」
「うむ。確かに一ヶ月前はあの森にエリクサーなんか生えてなかった。だとするならば、その後突如として現れた悪魔姫がなんらかの力を使って雑草をエリクサーに進化させたとしか思えん」
「そうなったらあの森は金のなる森じゃないですか!」
「そうだ。だから俺は研究したいという名義で村に住みたいと悪魔姫に願ったら、準備ができたら迎えに来ると言ってくれた。神族である俺が魔族の軍門に降るのは癪だが、世の中、金だ」
「そうですね。世の中、金ですからね! 神族のプライドなんか邪魔ですよね!」
「大金が手に入ったら何に使うか夢を見ようではないか」
こうして2人は古の悪魔姫の使者が迎えに来るのを待つのであったが、
しばらく時が流れた。
「一向に迎えに来ないんだが」
「忘れられているんじゃないですかね?」




