姫様、診療所を建設しました。
翌日。
洋館の食堂にて、私と千尋はテーブルに置かれた雑草と、にらめっこをしていた。
「どうみてもただのペンペン草よね?」
「ペンペン草ね」
真面目な顔をしている私たちに、
「何をしてるんですか?」
七海が不思議そうに聞いてきた。
「この前、この雑草をエリクサーだっていう医師がいたのよ」
「エリクサーというとゲームによく出てくる最高級の回復剤ですか?」
「厳密にいうとエリクサーの素、らしいんだけどね」
「それでも価値がありそうですね」
「国が買えるとか言ってた気がするなあ」
「でも本当にエリクサーの素なんですか? 私には雑草にしか見えませんが」
七海はありえないといった顔で雑草を手に取ってまじまじと見る。
「そこでうってつけの人を呼んだのよ」
私はテーブルに置いてあったベルを鳴らすと、
「最初からいて良かったんじゃないか?」
不満そうにシャープが入って来た。
「まあまあ。あなたの鑑定スキルでこの草を調べてもらいたいのよ」
私はお願いをすると、
「ただのペンペン草だが?」
「エリクサーの素じゃなくて?」
「エリクサーに怒られるぞ?」
「ちなみにだけど、森に生えている草を鑑定してもらいたいんだけど、いい?」
「一応来る時、鑑定しながら来たんだが、確かに雑草だけじゃなかったぞ」
「おおっ!」
期待する私と千尋。
「毒草の他に、目回し草、混乱草、睡眠草。まあ、デバフ効果ばかりの草だった」
「じゃあ、たまたまエリクサーを掴んだのかね」
ガッカリしながらも、上手い話はないよね。と、千尋は諦めると、
「そもそも本当にエリクサーなのか?」
シャープはそこを疑っていたのだった。
「姫様。神族が2人、姫様に面会を願っております」
洋館のメイドをしてくれているエルフが食堂に入って来た。
名前はオリンだったか。
「ユリエルと誰かさんね。ちょうど良かったわ。ここに通してちょうだい」
「かしこまりました」
オリンは一礼をして出て行き、しばらくするとユリエルと見たことのない看護婦姿の娘が入って来た。
「悪魔姫よ。迎えに来てくれなかったから、こっちから来て、んんっ!」
ユリエルはテーブルに置かれた、先ほど鑑定スキルでペンペン草と確定した草を指さして、
「ここにもエリクサーの素が!」
この一言でユリエルの見る目がないことも確定してしまった。
「悪魔姫よ。この草はどこから?」
「この洋館の裏に生えていたわよ」
「見ていいかな?」
「好きなだけどうぞ」
ユリエルとクラリが裏庭に行くと、
「まさに宝の山だ!」
「これで私たちは一生遊んで暮らせるわね!」
「条件を呑んでくれたら、好きなだけ持っていっていいわよ」
草むしりをしなくて助かると思った。
「どんな条件だ?」
「村に治療費無料の診療所を作るから責任者と助手として働いて欲しいのよ。報酬はあなた方が言うエリクサーを好きなだけ抜いていいわ」
「本当にいいのか?」
「疑うなら契約書を書いてもいいわよ。ちなみに開業時間は朝から夕方までよ」
「かまわんぞ!」
あまりにも可哀想だと思ったシャープが、
「おい。正気か? ただの雑草だぞ?」
余計なことを言ったのだが、
「黙れ凡人」
それを聞いてクラリがペンペン草をむしって、
「私にも雑草に見えて来たんですけど。安易に契約を結ぶ前に一度試してみませんか?」
「エリクサーだ!」
こうして、草むしり兼診療所の医師を労せず手に入れたトランペット村。
治療費が無料。正確には税金から払っているのだが、神族の診療所というだけで信頼されたらしく、連日列をなしていた。
そして夜な夜な配合を試して、エリクサーがついに完成したらしいが、出来たのは、飲むとただ苦いだけの薬だった。しかし塗ると水虫が治ると高評価だった。
「どうか、我々にも給金をくれないか?」
私に頭を下げてきたのは言うまでもない。
「金に目が眩んだ人の末路ね」
そう言いながらも、用意していた正規の契約書を見せたのであった。
「というわけで、医療問題は解決したわけだけど、やっぱりこの問題が浮上してきたわね」
洋館の執務室にて、私はヴィオラが用意していた陳情書を読んで独り言を言う。
ゴミ処理問題。
今はフレアを中心に焼却処理をしているが、大気汚染やこの世界の温暖化とか、いつか言われることだろう。
「さて、どうしたもんかね」
私は天を見上げると、ドアがノックされた音が聞こえる。
「法外な治療費を免除してもらった件、感謝する」
森の湖に住むポセイドンが入ってきた。
「別に気にすることじゃないわ。森に住む者だけは救うつもりだし。で、貸し借りって言うわけじゃないけど、お願いがあるの」
「なんでも言ってくれ」
「森で発生したゴミなんだけど、湖に捨てたら怒る?」
「怒らない奴なんかいるのか? というか、姫はスライムを知らんのか?」
「名前だけは聞いたことあるわよ。雑魚モンスターの筆頭扱いされてるやつでしょ?」
「あいつら、なんでも食うぞ」
「じゃあ大量に捕まえてくればいいのね?」
「この森には、ひと家族しかいないし、しゃべれないから会話できないぞ?」
それでもゴミ処理問題解決のため、スライムの家族がいる場所を聞いて向かうことにしたのだった。




