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プリンセス・サーバンツ 〜スローライフ希望だったのに魔族の姫として働かされてます〜  作者: みずほたる
望んだのはスローライフ。――なのに大陸統一を目指されています。
16/47

姫様、爆買いをします。

翌日、首都フェルマータから外れた貧民街。


石畳はひび割れ、泥と汚水が混じった水が道の端を流れている。


鼻をつく腐臭と、どこか焦げたような匂い。


遠くからは怒鳴り声と、子どもの泣き声が聞こえてきた。


——昨日までいた市場とは、まるで別世界だ。


「やっぱり栄えた場所だけじゃなかったわね」


私は背負っていたカゴを軽く叩く。


中で金貨が、ジャラリと重たい音を立てた。


「……この音、ここだとやけに浮くわね」


「で、金持ちの姫様がなんでこんなところに来たがった? 嫌味か?」


「そんな悪趣味持ち合わせてないわ。できたら皆を集めて欲しいんだけど」


「何故に?」


「ヘッドハンティングって言葉、知ってる?」


「知らん」


「優秀な人材を引き抜くことよ」


「こんな場所でか?」


「むしろ、こういう場所にいるのよ」


私は肩をすくめた。


「村に金はある。でも人がいないの」


「オカリナもリィナもいるだろ」


「戦力でしょ、それは」


「……ここにいる連中は、“雇われる側”ですらねえぞ」


その時、近くでこちらを見ていた子どもと目が合った。


痩せ細った体。汚れた服。だが、目だけは妙に鋭い。


「……ああいうのよ」


私は顎で示す。


「やる気があって学べば、いくらでも化ける。私は村に学校を置くべきだと考えてるわ」


「学校だと!」


「私は村に戻ったら税金を村の活性化に使うと宣言する。そのために学校は必要不可欠よ。ここで人生どん底よりは遥かにマシだし、この国も治安の悪さを解消できるし、私も村を活性化できる。損する人はいないでしょ?」


「いるに決まってんだろ」


「……誰よ」


「この街で甘い汁吸ってる連中だ。貧民が減れば困るやつは山ほどいる」


「私は古の悪魔姫(デビルプリンセス)よ? そんな魔族より腐ってる奴らなんか興味ないわ」


私はカゴから金貨を一枚取り出し、指で弾いた。


乾いた音が、貧民街に響く。


「——潰すなら、そっちの方でしょ」


金貨の音に反応して、さっきの子どもが一歩踏み出した。


その視線は——金ではなく、私を見ている。


「いい目ね。あなた、名前は?」


「オルガです」


「将来、何になりたい?」


「わかんない。でも皆お腹を空かしているから、なんとかしてあげたい」


私は一瞬だけ、オルガの目を見た。


彼が持つ現状そのものの絶望が私の持つ波動とリンクする。


——嘘はない。


「……いい目をしてる」


一拍置いて。


「そのまま腐らなかったら、使ってあげる」


「え?」


「次は誰?」


私は金貨をもう一枚、指で弾いた。


「“欲しい未来”があるやつだけ、前に出なさい」


「あの......私、リューネといいます。正直明日のことですら生きていられるかわかりませんが、私にも希望はありますか?」


「そんなもの知らないわ」


一拍置いて。


「——でも、見つけたなら奪い取りなさい。ここにいる連中みたいにね」


周囲から、ぽつり、ぽつりと人が前に出てくる。


震える声。かすれた願い。


それでも——誰も、目だけは逸らさなかった。


「これで全員?」


私は盗人に確認をすると、彼が私に土下座をして、言った。


「俺をどうか正式にアンタの部下にしてください!」


「部下じゃないわ。あなたも立派な姫様のしもべプリンセス・サーバンツよ」


フッと笑って思い出した。


「そういえば、あなた名前なんていうのよ?」


「......シャープだ」




再びアンダンテ王城。


今度は顔パスで入城できた。


「王様。今日は貧民街にいた人、30名を買い取りに来たわ」


「確か貧民街には3,000人はいたと思うが全員連れていかないのか?」


「数だけ増やしても仕方ないもの。で、連れ去られたとか言われても嫌だから、買い取りという表現をさせてもらったわ」


「わかった。許可しよう。ところでシャープよ。昨日から何故に城をウロウロしている? 我が子ながら政治が嫌で城を飛び出したはずだが?」


「え? あんた王子だったの?」


どうりで昨日寝室で寝てても捕まらないわけだ。


「オヤジ。俺は今後この姫様について行くと決めた。盗人も結局ダメそうな女神から金貨をくすねただけで卒業だ。これからは真っ当な生き方をして行くよ」


「何! 窃盗を自白したから逮捕だ!」


王の表情が一瞬だけ固まった。


「……貴様、本当にそこまで落ちたか」


「うるせえよオヤジ」


「王家の恥を晒した罪は重いぞ」


「だったら——」


シャープは一歩前に出る。


「今からでも取り返す。だから見逃せ」


「——いいわね」


私は一歩前に出た。


「その言葉、契約として受け取るわ」


「なに?」


王が鋭く睨む。


「この男は私が使う。責任も、成果も全部こちら持ち」


私は軽く肩をすくめる。


「王家の恥? 結構じゃない」


そして、笑う。


「使い道のない人材を腐らせる方が、よっぽど無能よ」


「……面白い」


王は小さく笑った。


「ならば見せてみよ。王子を使いこなせるかをな」


「わかったわ。シャープ。パン買ってきて」


「だから俺はパシリじゃねぇって!」

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