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プリンセス・サーバンツ 〜スローライフ希望だったのに魔族の姫として働かされてます〜  作者: みずほたる
望んだのはスローライフ。――なのに大陸統一を目指されています。
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姫様、金貨が重くて歩きたくなくなりました。

アンダンテ王国首都フェルマータ。


活気あふれる市場は、夕方も人でごった返していた。


商人の怒号と笑い声。焼きたてのパンの香り。値段交渉の応酬。


金が飛び交う音が、まるで空気みたいに満ちている。


——そんな中で。


私はある問題に頭を悩ませていた。


「宝くじに当たったら人生狂うって聞いたことがあったけど、今がまさにそうね」


一拍置いて、私はため息をつく。


「——重くて、動けないって意味で」


私、オカリナ、リィナの三名は、背中に金貨いっぱいの大きなカゴを背負っている。


ドレスが王国相手に売れたのはいいが、国庫にある金貨が持ちきれず、とりあえずカゴいっぱいにしてきたのだ。残りは明日トランペット村に運ぶ手筈になっている。


今後は国が税収で得た利益の一割を毎回の支払金に充てることにした。支払金が多すぎると税を増やすしかなくなり、財政は痩せ細り、結果的に国が滅ぶからだ。


これでは本末転倒である。


「なぁミナエよ。これだけ金貨があるのじゃから、欲しいものを好きなだけ買うのはダメなのかのう?」


リィナが目を輝かせながら言う。


気持ちはわかる。正直、今ここにある金を全部使ったところで、明日にはそれ以上が補充されるのだ。


それに——重い。


とにかく重い。


「買ったら買ったで荷物をどう持つつもり?」


私はため息をつきながら視線を巡らせる。


そして、高級そうな宿を見つけて指をさした。


「とりあえず作戦会議しない? 正直おなかもすいたし」



「さすが外交官御用達って言われただけはあるわね」


部屋に入った瞬間、思わず声が漏れた。


この世界に来て初めてのベッド。


身体を預けると、ふわりと沈み込む。羽毛の柔らかさと、清潔なシーツの香りが全身を包み込んだ。


「……これ、ずっとここにいたくなるわね」


「で、姫様。これからいかがなされますか?」


オカリナの問いに、私は天井を見上げながら考える。


「宝くじに当たったら、家や車や海外旅行に使うってのが定番なんだろうけど、この世界、貯金って概念もないからなあ」


「使い切りたくなるのう」


「なるわよね」


私は体を起こす。


「でも、ただ使うだけじゃ意味ないのよ」


「ほう?」


「人と物が動けば、それだけで経済は回る」


自分でも驚くくらい、すっと言葉が出た。


「ミナエよ。妾は家が欲しいのう」


「木材はあるから、今頃村では建築ラッシュが始まってるはずよ。暖炉と水洗トイレと給湯器つきで」


「なんと……神殿より快適ではないか」


「そもそも神殿ないでしょ」


軽く流しながら、私はふと考える。


——移動。


——物流。


——市場。


「……そうだ」


私は指を鳴らした。


「村を定期的に一周するバス……いや、馬車を用意したいわね」


「馬車、ですか?」


「人と物が動けば、それだけで村は一気に発展する」


私は続ける。


「それに、村で用意できない調味料や家具家財も必要。となると——市場も作らないといけないわね」


問題は。


どうやって、それを回すか。


「地方都市の道具屋じゃ限界がある。やっぱりこの首都の商人と繋がらないとダメね」


「ですが、知り合いはいませんな」


「そこよ」


信用できる商人。


安定して取引できる相手。


簡単に見つかるとは思えない。


——が。


「オカリナ。城にいた盗人、探してここに連れてこれる?」


「……あやつですか」


「鑑定スキル持ちでしょ? 少なくとも“ハズレは掴まない”」


「姫様のお言葉とあらば!」


オカリナは即座に直立し、敬礼すると部屋を出ていった。


扉が閉まる。


静寂。


「……あやつ、盗人じゃろう?」


「彼以外に知り合いいないのよ」


私はベッドに倒れ込んだ。


そして、ぼそりと呟く。


「——嫌な予感しかしないわね」


バタン!


「姫様。ひっとらえてきました!」


「早すぎぃ!」


思わずベッドから跳ね起きる。


さっき出ていったばかりよね? 数分も経ってないわよね?


縄でぐるぐる巻きにされた盗人が、床に転がされていた。


「まさか同じ宿に泊まってるとは! てか、この扱いなんだよ!」


「なんであんたがこんな高級宿にいるのよ」


「そのカゴからくすねたに決まってるだろう!」


「開き直るの早すぎ!」


「いやバレてるなら隠す意味ないだろ!」


「反省しなさいよ!」


テンポよく言い合いながら、私は額を押さえる。


——頭が痛い。


「とりあえず縄、解いてあげて」


「よろしいのですか?」


「そのままだと話もできないでしょ」


オカリナが縄を解くと、盗人は肩を回しながら立ち上がる。


「はぁ……で? 俺を捕まえてどうする気だ」


私はベッドに座り直し、足を組んだ。


「単刀直入に言うわ」


「うん?」


「あんた、私の村で買付人にならない?」


「……は?」


一瞬、空気が止まる。


「どういうことだ?」


「簡単よ。私が“これを買え”って言ったら、あんたがこの首都で仕入れて村に運ぶの」


「ただのパシリじゃないか!」


「ちゃんと駄賃は出すわよ」


私は軽くカゴを叩く。


ジャラ、と金貨の音が鳴った。


「なんのための鑑定スキルよ。価値のあるものを見抜いて、安く仕入れて、高く使う。それだけでいくらでも稼げるでしょ」


「……」


盗人は一瞬だけ黙る。


「パシリのために固有スキル持ってるわけじゃない!」


「じゃあ盗みのために持ってるの?」


「うっ……」


「それ、将来性ゼロよ?」


「ぐっ……!」


私はさらに畳みかける。


「でもこっちは違う。安定して金が入る。しかも合法」


「合法……」


「ついでに言うと——」


私はニヤリと笑った。


「失敗しても命までは取らない」


「そこは保証しろよ!」


「成功すれば取り分も増やすわよ?」


「……」


盗人はしばらく考え込んだあと、深く息を吐いた。


「……条件がある」


「なによ」


「俺を“パシリ”って呼ぶな」


「じゃあ?」


「……買付人、でいい」


「最初からそう言ってるでしょ」


私は肩をすくめた。


「契約成立ね」


——こうして。


盗人改め、“買付人”を手に入れた。


たぶん。


「で、最初の仕事だが——」


「早いな!」


「当たり前でしょ。時間は金なのよ」


私はカゴを指差す。


「この重い金貨、半分渡すから減らしてきなさい」


「雑すぎないか!?」


「あと、これはお願いなんだけど」


一呼吸して真剣な眼差しをして聞いた。




「奴隷市場とか、貧民街に連れて行ってくれない?」

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