第11話 リングサイド 20250315
プールを上がった身体はとても寒く感じた。バスタオルを羽織った僕はブルッと震えた。僕はプールサイドの端まで歩くと、太陽で熱くなったコンクリート壁に抱きつく。
「アタタカイ・・・」
今の僕はイグアナだ。海辺で波に洗われながら日向ぼっこしているイグアナだ。今の僕ならイグアナ語を喋れそうだ。
僕の背中越しに女子の声がした。
「委員長、大丈夫? 唇青いよ」
「いいんちょ~、青々してる」
女子の声がしたので、振り返ると副委員長と青山さんだった。スクール水着姿で、アップにした髪を水泳帽に収めて、心配そうに僕を見てきた。
「ダイジョウブ、アタタカイカラ・・・」とイグアナ語の僕。
思春期の入り口にいる僕は、2人の水着姿を直接見れずに、ちょっと顔を背けて喋る。
「大塚君に何か言われてたでしょ。大丈夫?」
「また、魚雷?いいんちょう」
ちょっと嬉しい。ちょっと恥ずかしい。ちょっと調子に乗った僕は口を滑らした。
「ちょっと、大塚君と競争するだけだから平気」
「「え? 競争?」」
あれ?
「え・・・、あ、そう。あ、遊びね。遊び」
僕ってば、何言っちゃったの?
「だって、委員長って泳げ・・・」
「すご~い。いいんちょう、今度は水中戦なの?」
「あ、いや、その。今のナ・・・」
「すご~い・すご~い・いいんちょってば、すご~い」
青山しずくちゃんが、ポンポンと興奮してプールサイドで飛び跳ねる。副委員長が、心配そうな顔をして考え込んだ後、「無理しないでね。約束だよ」って言った。
あれ? あれ? あれ? ゴメン、止めてくれないの?
僕は、空を見上げて深呼吸をした。そして、観念して2人の女子に頭を下げた。
「・・・頑張ります」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは、プールという名の四角いリング・サイド。
休憩のゴングが鳴って、一時的に難を逃れた僕は、セコンドの菊っちゃんに頭を下げていた。
「お願いします。助けてください」
「ん~、どうしよっかなぁ~?」
僕は、唇を痛いほど噛みしめて、ここの中で呟く・
こんのックソジジイ。調子に乗りやがってぇぇ。
「ん~? 聞こえてるよ」
「あ、はい。憧れのオジイです」
「まぁ、俺ってば、昭和のトビウオって言われたくらい泳ぎ得意だったし? 前の喧嘩のときみたいにすれば良いだけなんだけどさ」
「えっと、オジイが好きな甘納豆を、お礼にお小遣いで買って食べます」
菊ちゃんは、和菓子屋さんだった。甘いモノが好きで始めたらしい。
甘いものは、頭叩かれたって食べるって言ってた。
今は直接食べれないけど、僕が食べると一緒に食べたことになるらしい。
「それだけじゃな~。どうしようかな~」
「頼みますボス」
「じゃ、何でも1回言うこと聞く券な?」
「え? ちょっとそれは・・・」
孫に向かって、えげつない取引を無理強いするの反対します。
「じゃ、助けてやらない」
「何でもやります。ボス」
僕は、このやりとりを、さっきまで張り付いていたプールサイドの壁を見つめながら、小声でブツブツ呟いている。菊っちゃんとの交渉を終え、後ろを振り向いたら、クラスの皆に凄い痛い子を見る目で見られた。副委員長と目が合って、視線を外された。やめて、僕をそんな目で見ないで。
短くてすいません…。次回は、再来週の土曜日更新になるかも。




