第10話 爆裂戦隊ゲテモンジャー 20250308
大塚君が、僕をじっと見て言った。
「石井、俺と勝負しろ」
大塚君の表情は、怒っている訳でもなく、淡々としていた。
ただ、心に決めたことを淡々と言葉にしているっていうか。
なんか聞こえたけど、聞き間違いだよね。
「え゛?、何? 」
僕は、今度こそ聞き間違えちゃいけないと、耳に人差し指を入れて、ほじりながら尋ねる。耳に水が入っちゃってね。
「石井、俺と勝負しろ」
あれ? 聞き間違いでない…。
僕の心の空がどす黒い雲で覆われ始めた。
ハッと、僕は両手に持ったビート板を掲げて見せる。
「ほら、これ。僕、カナヅチだから」
わかって欲しいの。 「けのび」だけなの。
大塚君は、ビート板に目をやってすぐに戻した。
「25mで勘弁してやる」
カナヅチだって言ってんだろ(-_-;)と思いながら、僕は食い下がる。
「…け、けのび競争で良いなら…」
大塚君は、ちょっと黙った。それから言った。
「俺はクロールだ。お前はそれ使えば良い」
大塚君は、僕の持つビート板を見た。ビート板を使って良いらしい。
逃げたい。逃げれないのか、これ。
僕の心の中のどす黒い雲から、雷が鳴り、激しい雨が降り始めた。
こんな不毛な闘い、人類の何の役にも立たないのに...。
僕は苦し紛れの質問をする。
「って言うか、何で勝負を…?」
まぁ、判っちゃいるんだけども。
「…爆裂戦隊ゲテモンジャー知っているか?」
大塚君は、なんか関係ないことブッ込んで来た。
僕は仕方なく頷いて話を合わせる。
「…うん。やたら爆発して、ゲテモノ怪獣が出てくるやつだよね」
…ここプールの水の中なんだけど…。何でこの話題?
大塚君は大きく力強く頷き、話を掘り下げる。
「戦隊メンバーの赤、青、緑は?」
僕は頷いて質問に答えた。
「確か、[飲む]、[打つ]、[買う]だっけ? 赤は変身前から赤ら顔なんだよね。青は負けが混むんで青い顔だっけ? 緑は…」
大塚君はニヤリと笑って、話を引き取る。
「黄色が[食べる]、ピンクが[眠る]だ」
菊っちゃんが、「人間の5大欲求なんだな」と納得する。
僕は心の中で、「ゲテモンジャーって名前と関係なくない?」とツッ込みを入れた。
大塚君は遠い目で、プールサイドを囲む金網越しに見える入道雲を見つめた。
「俺は青の名セリフが好きだった」
「あぁ…、『切った貼ったが人生よ』だっけ?」
ヤクザ映画じゃないんですけど。
大塚君は、僕に視線を戻して話を続ける・
「母さんに泣かれた。正義の味方を目指したアンタは何処に行ったんだって」
「重い話だね…」
「打つ」だからね…、目指すモンでもない気がしますけど。
「お前に言われた、『男なら自分よりデカい奴と勝負しろ』という言葉も心に刺さった」
「…なんかウチのがすいません…」
オジイなんです。
「だから、俺は正義の味方を目指す!」
「そ、それは良いねぇ…、良いと思うよ!」
この話で初めて心の底から頷くことが出来た。
そうだよ。もう終わったことは振り返らず、前を向いて歩くべきなんだ。
僕の心のどす黒い雲が灰色に変わり、雲の切れ間から日の光が差し始めた。
「だが。俺は青に憧れた男だ。負けたままじゃ終われない…、だから勝負だ」
それは「勝ち逃げは許さない」ってことですか?
その時、ピーッ!と笛の音がプールのの水面を響き渡った。
先生が「休憩の時間だ、みんな。プールから上がりなさい」と叫んだ。
僕はホッと胸を撫でおろした。
危ない危ない、ダウン寸前でゴングに救われたぜ。
次回:土曜日21時に投稿予定




