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【緊急生放送】白鳥射巫の消失【インターネットやめろ】

ミス・アノニマス枠コメント欄

くりーむぱん「これどういう状況?」

ʓ<ʓ「待機。アノちゃん最近配信多くて嬉しいです」

まろん「FIPOネタ多いな」

ねずみばし「白鳥って裏FPSの奴か。実は女Vと繋がってました〜でバチャ豚発狂展開キボンヌ」


白鳥射巫しらとりいるぶ枠コメント欄

さくらこ「なになに不穏なんだけど」

ららら2「待機所のBGMよりによってアノニマスと被せてくんの何?」

TANYA「what's up with the title?」

abcd「ツブヤキなかったので放送事故かもです」


 困惑するリスナーの前に現れたのは、男女二人の、同時に動く肉体アバターという異様な光景だった。


「Hi there! ご機嫌いかが? 射巫の声で喋るとうまくボイチェンかかんないな」


 二人は咳払いをして少しだけ声が変わった。


「アノちゃん、ついに正体を明かすのでございマス。喋りづらいから射巫の声に戻していい? いいよね」

「わー。コメント欄がどっちも爆速。同接が合わせて……14M! Unbelievable! 拾えないや」

「なんでバラしたか? ただ飽きたからにございマス。ボイチェンかけてるのはバレかけてたし、いっそ自分でって」

「射巫が自分からかけ離れていくのが辛かった。君ら(リスナー)のせいじゃ必ずしもないけど……。あ、そうだ。誰か通話かけてみよ」


 自由気ままに、重大なはずの秘密をいともかんたんに話していく。次は何が出るか、何かとんでもないことが起きるんじゃないか。数字が膨れ上がっていく。




※※※




「りょーちんがとんでもないことにしてます」


 電話口の大輝は焦っていた。


「知ってる。あきらさんとも連絡がつかないの。当たり前かもしれないけど……」


 配信が始まって数分でツブヤイターのトレンドに入り、大変な騒ぎになっている。運営は対応に追われていることだろう。


「なんか嫌な予感がするんです」

「私もよ」


 配信を見ている視聴者もおそらくそう。胸がざわついて画面から目を離せない。




※※※




婀月あるな先輩、今どんな気持ち?」

「くたばれ××××」

「Oh, man.下手なこと言わない方がいいよ。何もかも失うことになるから」

「……」

「射巫を密告者ユダだと思ったって? ユダはお前だよ。あんな下品な動画どうやって手に入れたの? ていよく紅陽を追い出せてよかったね。あんま応えてないみたいだけど」

「……それは」


 何もかも。なんて不穏な言葉なんだろう。先程あきらさんに電話をかけたら、射巫の配信画面から着信音がした。すぐミュートになり、電話を切られたが。浜野涼は少なくともあきらさんのスマホを持っていることになる。


 どうにかして配信をやめさせたい。いや、配信をしている以上は浜野は無事なのだから、配信をしている間に現場を押さえられたら。


 電話口の大輝が話しかけてくる。


「恋沼さん、僕の記憶頼りですが、涼の家の最寄り駅は知ってます。よく招かれていたので、駅からの道筋もわかるんです。ただ家の正確な場所まで思い出せなくて。そこで配信やってるのかすらわからないですけど、住所わりだせませんか?」

「掲示板も大騒ぎだけど、住所バレはしてないみたいね。情報提供板にも名前がない」

「そうですか」


 Vtuberは部屋を写す必要がないので、実写の配信者より住所特定のリスクは低い。それでも配信中に外の物音が入る、かんたんな間取りがわかる発言、地震の際の反応、そういう要素で特定は可能だし、そういったトラブルは残念ながらよくある。最寄りもだいたいの場所もわかっているのなら、あと一歩


 配信凸のために知恵を絞るなんて、行動だけなら厄介そのものだな。厄介な、厄介信者がやりそうなこと、特定……そうだ。


 私は白鳥射巫の配信アーカイブから、直近のガチャ配信を探した。たしかカードを買いに行く場面があったはずだ。ファンのコメントでタイムスタンプを探すと、探していた発言はすぐ見つかった。


「F×……なんでもない。下のセブンでチュンカ購入RTAしてくるからちょっと待ってて!」


 階下にコンビニ、だいたいの場所。カードは揃った。


「大輝、何やりたいか知らないけど、凸って邪魔してやろうと思うんだけど、一緒にこない?」

「もちろん。あーでも」

「何?」

「つ、捕まったらごめんなさい」


 たしかに言い逃れできない不法行為になるかもしれない。


「その時は運営に言われて!って言えばオタクは許してくれるから大丈夫!」

「何も大丈夫じゃないですよ!」


 果たしてマンションを特定され、まずは正面突破とインターホンを押された時に、浜野がとった行動とは。


 ……なんと、あっさり配信を止め、玄関を開けることだった。


「あの、りょーちん?」


 浜野涼は、しでかしたことのわりに平然として見えた。狭い防音室で炭を燃やしたらしく、煙の臭いが充満している部屋を見れば、彼が何をしようとしていたかは明確だったし、大輝と私の来訪(という名の部屋凸)でそれが失敗したことも明確だった。


 私と大輝は部屋に入ってとるもとりあえず窓を開け放ち、あきらさんの無事を確認して、眠っている彼女と浜野を引き離したのだが、その間ずっと浜野は抵抗をしなかった。


「……何も死のうとすることなかったんじゃない?」

「そうだね。たぶん本当に死にたかったわけじゃないんだ」


 配信コメントの大騒ぎが嘘のように、マンションの窓から見える東京の市街地は穏やかだった。ぼんやりと外を眺めている浜野には、どう映ったのだろう。


「でも、ミス・アノニマスとして知ってしまった裏側を隠して、射巫であり続けるのは辛くって。いい加減、悪口ばっかぶつけられるアノニマスでいるのも疲れたし。あきらのこと僕は大好きだけど、あきらが好きなのは射巫を頑張る僕だから。もういいや、全部壊しちゃえって」

「あの」


 思わず浜野の発言を遮ってしまった。


「あきらさんはきっと貴方が射巫じゃなくなっても貴方のこと好きだったと思います。暴露系を許したかは別として。インターネットやめても、貴方は貴方でしょ」

「それで僕に何が残るっていうのさ。なんも残んないよ」


 投げやりな言葉に、異を唱えたのは大輝だった。


「で、でも、僕の友達……でしょ?」


 その通りなのだけど、煙の臭いがする部屋と、無気力な浜野と、配信を妨害した私たちと、そういう光景と『友達』というある種、牧歌的な単語はなんだかチグハグで、


「それもそうだね」


 と返した浜野が笑っていたのは、たぶんそういう理由だった。




※※※




 白鳥射巫とミス・アノニマスの配信から一年がたった。白鳥射巫は契約違反その他諸々で解雇、白鳥射巫、ミス・アノニマスという存在はバ美肉を隠し通していたステルスバ美肉であったことやキャラクターデザインの良さが再認識され、R18方向のフリー素材と化している。AIを利用したボイスチェンジャーでミス・アノニマスの声を使った詐欺電話があったり、担当イラストレーターの権利を無視して白鳥射巫が悪意ある改変を行われたり、インターネットの大騒動のなかには、シャレにならないものも多くあったのだが、一年が経つ頃には、両親から縁を切られた浜野涼が引越しをするくらいの余裕はできた。


 涼はごちゃごちゃとあった物のほとんどを売り払い、さっぱりした部屋を眺めていた。履歴書に書ける職歴はなし、通っていた大学は中退を余儀なくされ、親からは縁を切られたし、もろもろの罰金で貯金もない。まさにお先真っ暗……。


 その割に、涼の心は晴れやかだった。アドレス帳には乾大輝とあと数名しか入っていないが、元から本当に必要な連絡先なんてそのぐらいだった。


 そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。誰が来たのか確認した涼の瞳に映ったのは、意外な人物だった。


「……何しにきたの、あきら」

「退職記念に会いに来たのよ」

「自分でいうのも開き直ってるみたいでアレだけど、無理心中はかった相手にほいほい会いにくるの危機意識なさすぎだよ。ストックホルム症候群じゃないの」

「私の行動に口出ししないで。叫ぶわよ」

「どうぞ」


 罪の意識から俯いた涼の耳に飛び込んできたのは、とんでもない大声だった。


「私でー! 童貞! 捨てたくせにー!」

"Shut the f*** up‼︎‼︎"


 思わずドアを開けると、すかさず金属バットが差し込まれる。


「……色々と、そんな人だと思ってなかった」

「夢見てたのはお互い様ってね」


 何がおかしいのか、あきらは歯を見せて笑っている。飾らない彼女は、変わらず魅力的だったけど、同時に少しだけ恐ろしくもある。一生頭が上がらないことを利用されそうだ。


 魔法が解け、バーチャルの皮は剥がれてしまった。先は明るくはないはずなのに、なんだか晴れ晴れとしたこの気持ちを、認めていいのかわからなくて、涼はあきらの目を見て、心からの苦笑いを浮かべた。

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