コンクールに出ないわけ。
「かーよーちん!」
「…あぁ?」
「だから俺に対して当たr…」
「はいはい、なんですか?」
曜先輩に声をかけられたのは、お兄ちゃんとマリンが家を出て3分後のこと。
「いや、マリンちゃんどこかなー、って思って」
「さっきお兄ちゃんと出かけました。」
「えぇ!椋夜くんと!?どこに!?まさかデーt…」
「違います。買い出しです」
「なんだぁ〜よかった!」
なんだこいつ。
なんでもかんでもすぐ恋愛に結びつけたがる中学生か。
「ねね、どこのお店?」
「近くのスーパーです。」
「スーパーに椋夜くん?似合わねぇー」
「はいはい、とっととどこかいって下さい。静かにしててください」
「何でそんなに雑なの…まぁいいや!」
立ち直り早っ。
ハート超合金かよ。
「じゃあ俺、ちょっとマリンちゃんとこ行ってくるわ!」
「勝手にしてください」
あえて止めなかった。
マリンは嫌がるけど、お兄ちゃんが一緒だし多分大丈夫。
あの2人、何だかんだ仲がいい。
マリンが嫌がることを曜先輩がしたら、お兄ちゃんがぶっ飛ばしてくれるから大丈夫なはずだ。
「よし、じゃあ、アクア!」
「はーい?なに?花夜姉」
「お米炊いてもらっていい?」
「うん!あ、その代わりにね、お願いがあるんだけど…」
「お願い?」
アクアからのお願いなんて珍しい。
アクアが幼稚園生だった時以来かもしれない。
「うんとね、花夜姉のピアノが、聴きたい。」
「ピアノ…曲は?」
「えっと、海夜姉の得意だった曲」
「お姉ちゃんの…?」
お姉ちゃんの得意だった曲…絶対に忘れない。
ショパンの華麗なる大円舞曲 ワルツ1番 変ホ長調。
「久しぶりに聴きたいの。海夜姉が居なくなっちゃってから、コンクールにも出てないから…」
コンクール…
出てないんじゃない、出れないんだ。
お姉ちゃんが亡くなってから1ヶ月くらい、ピアノの音が聴こえなかった。
医者には、精神的なものだと言われた。
そのあと、すぐ聴こえるようにはなったけど。
お姉ちゃんが亡くなってから初めて出た大会で、私は演奏を途中で止め、泣いてしまった。
それから怖くて出れないだけだ。
「なんであの曲なの?」
「…なんとなく」
「………しょうがないなぁ。」
そういった瞬間、アクアの顔がパァっと明るくなった。
マリンとお兄ちゃんが帰ってくるまで限定で、私はお姉ちゃんの思い出の曲を弾いた。
彩樹家の末っ子、意外と過去が重いんです。




