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第二十九話

「……小井手町の崖下に大五郎を捨てるのがお前の計画だった。なら、なんでまだ大五郎の死体はトランクの中にあるんだ?」


 駅前で両親を乗せた時、そして先ほど健介を救った時に確認した。トランクの中に大五郎は確かにいた。


「それに、柳生の者はなんでお前を追いかけて来れたんだ? GPSロガーはお前が別の車に仕掛けたはずなのに。どうやって?」


 GPSロガーを外してからも、裕二はバックミラーで柳生の者が追いかけてこないか絶えず確認していた。柳生の者の追跡は道中で完全に撒いたはずだった。


「そして最後。なんの用でお前はあんな崖沿いの道まで行ったんだ? 免停中の身で、僕の車を盗むような形で」


 そしてその崖で柳生の者に殺されかけていた。


「お前の計画はうまくいっていた。道中トラブルはあったし、ギリギリの綱渡りだったが、計画通り小井手町の近くで大五郎を捨てるチャンスはあった。でもそうしなかった。なぜなら、大五郎殺しの犯人である、柳生の者を知ったからだ」


 健介の計画の中で最大のイレギュラーは、柳生の者の存在だったのだろう。


 その存在を知ったからこそ、計画を大幅に変更した。


「柳生の者がお前を追いかけてこれた理由は一つしかない。お前が他の車に付け替えたはずのGPSロガーだ。お前、あのGPSロガーまだ持ってるな?」


 GPSロガーを健介が他の車に仕掛けていた時、健介の作業は車の陰で行われていたせいでよく見えなかった。あの時、GPSロガーを仕掛けるフリをしてポケットにでも入れたのだろう。


「あいつが警察からうまく逃げ切れば、必ずまた追いかけてくる。だからGPSロガーを利用したんだ。あいつを誘き寄せるために」


 柳生の者にとっての最悪は、大五郎の死体から自身の皮膚片を回収できないこと。つまり、あいつの手の届かないところに死体を捨てられることだ。


 柳生の者はGPSの信号で自分達の動きをずっと見ていた。健介が隠し持っていたGPSロガーのおかげで、裕二達は小井手町に寄っておらず、そこで大五郎を捨てていないことを確認しているだろう。


 山を越えてからはほぼノンストップだった。唯一駅前でしばらく動かなかったが、あんな街中で死体を捨てるなんて誰も考えはしない。


 つまり、GPSの信号を見れば、大五郎の死体はまだ裕二達の車にあることがわかるのだ。 そして、先ほど健介がいた崖沿いの道でGPSの信号が動かなかったら柳生の者はどう思うだろう。当然、その崖から死体を投げ捨てようとしていると考えるはずだ。


「お前は死体を捨てると思わせて、柳生の者を誘き出したんだ。それがお前の新しい計画」


 道中、健介がトイレ休憩を渋った理由も納得がいく。あのトイレもまた崖沿いにあった。そんなところに車を停めると計画を実行するタイミングがずれてしまう。


 そこまでしてなぜ柳生の者を誘き寄せようとしたのか?


 その答えは裕二の中でもう出ている。しかしその答えがあまりに恐ろしく、口にするのを躊躇ってしまう。


 真横にいる健介の顔を見ることができない。どんな表情をしているのだろうか。そこにいる親友が自分の知っている顔をしているだろうか。


 数回の深呼吸の後、裕二は意を決してその答えを口にした。



「お前、柳生の者殺すつもりだっただろ」



「…………」


 健介はまだ無言。


 裕二は健介の返事を待たずに喋り続ける。


「あの崖で柳生の者を海に突き落としでもするつもりだったか? それで返り討ちにあって殺されかけるって、ダッセエな」


 健介の反応が怖く、あえておどけたような口振りにしたが、声が上擦っているのが自分でもわかった。


「…………」


 健介からの返答はやはりない。いくら待っても重い沈黙だけが返ってくるのみ。


「ここまでくれば、お前にとって大五郎がどういう存在だったのかも想像がつく」


 裕二は最後の推理を披露する。


「お前にとって大五郎は、同じアパートに住むくらい親しく、殺されたとなれば復讐を考えてしまうほど大切な存在」


 これを口にすることで、自分と健介の関係が変わってしまうかもしれない。声が知らず知らずのうちに震える。



「つまり、大五郎は…………お前の秘密の恋人」

「違えよっ!!」



 覚悟を決めて口にした推理を、健介は全力で否定してきた。


「ふざけんな! 俺があんなしょぼくれたおっさん相手とどうこうなるわけねえだろ!」

「ま、前々から僕を見る視線が怪しいと思ってたんだよね。大五郎が殺されたことを警察に通報しなかったのも、自分がそっち系だと世間にバレないようにするためだったんだな!」

「全然違えよ! ぶっ殺すぞっ!!」


 やはり全力で否定してくる。


 この反応を見る限り、どうやら自分の推理は外れているらしい。裕二は少しだけ安堵した。


 健介は顔を両手で覆い、しばらく荒い息を繰り返す。


 しばらくしてようやく落ち着いたのか、顔を上げて裕二を睨みつける。


「あれだけ完璧な推理を披露しておいて、最後の最後で頓珍漢なこと言いやがって。動機も大五郎との関係も全然違う。やっぱ探偵役向いてねえよ、お前」

「……じゃあなんだよ。お前と大五郎の関係って」


 健介は頭をガシガシと掻いて、渋々といった様子で口を開く。


「……大五郎さ。バツ2なんだよ」

「はあ、バツ2?」

「そう。2回結婚して、2回離婚してる」

「……へえ」 


 大五郎の結婚歴がなんだというのだろうか。裕二にはわからなかったが、ひとまず健介の言葉を待つ。 


「2回目のバツが涼子ちゃんの母親の春子さん……ああいや、その時大五郎死んだことになってて離婚届出してないから、これってバツ扱いになるのか?」

「……1回目のバツは?」


 話が進みそうになかったので、続きを促す。


 すると、健介はとんでもないことを言い出した。



「死んだ俺の母親」



 裕二の脳が、健介の言ったことの理解を拒絶した。


 だがそれも一瞬のこと、健介の告げた事実が徐々に体に浸透していく。


 裕二は運転中にもかかわらず、目を見開いて真横の健介を見つめた。



「俺の父親なんだよ。大五郎」

次回最終話です。

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