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第二十八話

「なんでお前は僕の車に大五郎を乗せたのか? しかも、よりによって僕の結婚式当日に。考えられる可能性は、そうだな……」


 ここで裕二はいったん言葉を区切り、わずかに視線を健介に向ける。


「例えば……てめえこのボケカスが、僕の結婚式を台無しにするために仕向けた最悪のサプライズ」


 低く、唸るように絞り出した裕二の言葉に、健介は顔を青ざめさせた。


「ち、違う! 俺はそんなつもりーー」

「というのはまあ冗談だ。いくらお前でもそんな薄情な真似はしないだろう。なあ?」


 ははは。と、裕二は白々しい笑い声を上げる。実際に自分の結婚が台無しになってもおかしくない状況だったのだ、これくらいの意趣返しは許されるだろう。


「真っ当に考えるなら、死体の処理のため、だろうな。アパートの一室で死体を隠し続けるなんて不可能だろうし」


 しかし、健介は現在免停中で車もない。そんな状況下で死体を運び出してどこかへ持って行くなんてできるはずがない。


 そこで白羽の矢が立ったのが、裕二というわけだ。


「僕は今日、絶対に車で福井まで向かわなければならない理由があった。そのことは当然お前も知っていた。だからお前は当日車に乗せてくれと僕に頼んだ」


 今思えば、独身最後の夜を飲んで過ごそうと提案してきたのもこいつだった。まあ、裕二は一も二もなく飛びついたわけだが。


「お前は酔い潰れた僕を尻目に、車を死体に乗せて、さらにスマホや財布といった僕の荷物を抜き取って座席の下に隠した……ああ、そうだ。ついでに言っておくと、お前が僕にトランクを調べさせて大五郎を発見させた理由についても見当がついてる。僕が警察に行こうと言ったからだろ?」


 今朝自分達の財布とスマホが盗まれたと思った時、すぐに警察に行こうとした。しかしその直後にトランクの中の大五郎を発見した。


 その時、トランクの中を調べるように提案したのは健介だった。


「あのまま車で警察に行って、万が一警官立ち会いの元で車の中を調べるなんてことになったら目も当てられない。そうなる可能性は低いだろうが、可能性がある以上そんなリスクは冒せない」


 トランクの中の大五郎を発見させることで、裕二が警察に行く事態を防ぐ。その日の結婚式にかける裕二の想いを知っているからこそ、それを利用できた。


「さて、車で大五郎を運ぶ準備は整った。じゃあどこに運ぶ? それに、どうやって処理するつもりだ? 仮に死体をどこかへ捨てるつもりなら、運転手である僕の存在が邪魔だ」


 健介が今日一日、大五郎との関係をすっとぼけ続けたということは、死体の処理は1人で行うつもりだったのだろう。


 しかし運転手であり、車の持ち主である裕二は車から離れることはない。裕二にバレないよう死体の処理なんて不可能だ。


「と、ここまで考えたところであることを思い出した。取られた僕の荷物だ」


 自分の荷物がなぜ健介に隠されたのか、その答えがようやくわかった。


「財布を取られた理由はわかる。金がなければ他の交通手段を使えないし、免許証がなければ物を売って金に替えることもできない」


 事実、今朝腕時計を売ろうとして失敗した。


「スマホを取られた理由もわかる。スマホがあれば電子決済で電車に乗れただろうし、近くに住んでる知り合いに金を借りることもできる。家の鍵についてもそう。部屋に入れば小銭くらいはある」


 どれもこれも、意地でも裕二を車で移動させるために取られたものだ。


 しかしーー


「じゃあ、ETCカードは? なんでETCカードなんて取る必要がある?」


 当然のことながら、ETCカードを使って金を引き落とすことなんて不可能。これはどうやっても現金に替えることができないカードだ。


「お前が大五郎を福井に運びたいと考えてたなら、ETCカードなんて取る必要がない。高速道路を使って移動した方が確実で早い」


 おかげで下道を使って倍の時間走る羽目になった。今日遭遇したトラブルの大半は、高速道路を使っていれば避けられただろう。


「つまり、お前は高速道路を走ってほしくなかった。お前の目的地は福井じゃなかったんだ。ならどこだ? お前はどこで大五郎の死体を処理するつもりだった?」


『あー、多分これだな。琵琶湖の西側を通るルート』


 ナビを設定する時、どの道を通るかさりげなく誘導されていた。


 健介は裕二に特定の下道を走らせるよう工作を行なった。今日裕二達は、一体どこを通って福井までやってきたのか。


「小井手町だ。お前は小井手町の崖に大五郎を捨てるつもりだったんだ」


 柳生の者の推測は当たっていたのだ。


「小井手町の手前ぐらいで車のガソリンがなくなった。その時お前は、僕を駅に残して1人でガソリンを盗んできた……まあ、実際にはガソリンスタンドで給油してきただけだが、それはいい。重要なのは、お前1人だけで車を運転するタイミングがあったということだ」


 運転手である裕二が車から降りて、免停中の健介1人で車を運転するというあり得ないイレギュラーが起こった。


 だがそのイレギュラーが、計画されたものだったら?


「今考えるとさ、やっぱりガソリンの減りが早すぎる気がするんだよ」


 裕二の記憶が確かなら、車のガソリンは数日前に満タンにしたはずだ。


「いくら下道を長時間走って、山道を超えて来たと言っても限度がある。お前実は、僕の車からガソリン抜いたんじゃないか? あの山道でちょうどガス欠寸前になるように」


 裕二の車のガソリン1Lあたりの走行距離を調べれば、そう調整することも不可能ではない。あの山道付近、小井手町の手前ほどでもう福井には行けないだろうと思わせられる程度に大雑把な調整をするだけでいいのだから。


「お前は僕を駅で1人きりにして、小井手町まで行って大五郎を崖下に投げ捨てる。あとはガソリンスタンドで給油して僕の元へ戻る。そういう計画だったんじゃないか? ガソリンは夜中に、お前が言ってたホースを使う方法で抜いたんだろ?」

「…………実を言うと、最近の車は構造上ホースなんてガソリンタンクの中に入らないんだ。お前の車からガソリンを抜いた時は、もうちょい専門的な道具を使ったよ」


 健介は、諦めたようにようやく口を開いた。


 自分が犯した罪をやっと認めた口調。隠し事がなくなったおかげで清々しい気分だ。そんな表情を浮かべている。


 しかし、裕二はその表情ですら演技であることを見抜いている。肝心なところをまだ隠し通せていると思っているのだろう。


 だからこそ、裕二は自身の推理を続ける。中途半端なところでは終わらせない。


 こいつが最後にやらかそうとしたことは、死体遺棄よりも、親友の結婚式を台無しにしかけたことよりも重大な犯罪なのだから。

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