3-2 何を言っているの
三人で、ローツェ街道での実際の調査進路や、連携方法の確認をしている。
「そういえば――ツルギーさんの実力。昨日、星三つに昇格したようだけど、確認しておきたいな」
カルドさんはそう言い、それはひどくもっともだった。
彼の胸元のランクを盗み見ると、当然、星は三つに、十本、だろうか。姉が十一本で、それに迫る勢いである。本数と強さにどれくらいの相関があるのかは分からないが、長剣遣いと相対したことはなく、まず戦い方を考えなければならないだろう。
「はい。よろしくお願いします」
口ではとりあえずそう答えておいて、私は思案する。2キュートル以上ある剣身、彼の高身長も相まって、間合は私とはずいぶん異なるだろう。その点では私は不利だろうが、一方で、その長い剣を振るうためにはどうしても、挙動が大きくなってしまうだろう。それなら小柄なぶん私に勝ちの目は充分にある。
外に移動して、私とカルドさんは距離を取って向かい合う。カルドさんの間合から始めると、私が圧倒的に不利だから、その間合が切れる距離だ。私たちの間にドニーさんが立ち、審判をする。互いに、剣を抜いて構えた。
「始めッ!」
ドニーさんが宣言する。
私はまずは、間合を切ったまま、じりじりと右に移動して、相手の出方を窺う。カルドさんは、彼の正面に対して私が一定以上の角度をつけると、すっとまた私を正面に捉えるように身体を回転させる。向こうが先に仕掛けてくることはなさそうだ。それもそのはずで、剣が長いぶん、しっかり狙いを定めなければ身軽な私にすぐ避けられてしまう。それで内に入ってこられたら決着は分からなくなるだろう。それよりは、間合が不利な私のほうから、それでも攻めていく、といった状況で、間合の差を活かして巧く私の攻めをいなせばいい。
間合とは要するに、次の瞬間、相手に攻撃を当てられる距離感のことである。カルドさんの間合が長いというのもあるが、私の間合が短いというのも相乗しているのだ。私の剣は、姉が使っていた剣であり、私よりも身長の高かった姉が使っていたということで、長さじたいは通常の剣なのだが、私の腕の短さによりどうしても、間合は短くなってしまう。それに対してカルドさんは、長い剣に、長い腕。この不利感は、どうしてもぬぐえない。
それでも。私は諦めることなく、勝ち筋を模索する。
迂闊には近寄れないため、まずは彼が、その長剣をどれだけ扱えるのか、少し前に出て、剣先を弾いて確かめてみる。
キンッという甲高い音と共に、少しだけカルドさんの剣は弾かれるが、すぐまた中心に戻される。当然だが使い慣れている。剣身が長ければ、それだけ剣は重くなり、端のほうに伝わる力は弱くなる。それでも彼はこの程度に揺れを制御できているのだ。なかなかに手強い相手である。
攻めの組み立てとしては、私の間合に入れるという最初にして最大の難関がある。私の間合は短めなぶん、そこまで入られた相手はほぼ捉えられるといっていい。そういう修行を、これまで姉や、ドニーさんの指示の下でおこなってきた。
ではその私の間合に、どうやって相手を入れるか。攻めてくる相手ならいざ知らず、カルドさんのように『見』を決め込んでいる相手の時は、私ががんばるしかない。相手の間合に入ることを恐れず、相手の攻撃をかいくぐって、自分の間合まで到達する。それが理想であるわけだが、長剣――長剣か。
私は再びキンッ、キンッと剣先を少しだけ弾き――彼の剣を、私の剣で上から押さえながら踏み込んで、彼の手元へ飛び込む。彼の剣の上を私の刃が滑っていき、彼の手に――到達する前に、がくんと視界が揺れる。
彼が、握っている手を固定し、剣身に上向きの力を加えることで、私の剣を、私を弾いたのだ。
私は後方に飛び退く。
そこで私はようやく理解した。
組合の剣士たちは、確かに屈強な者たちばかりだ。しかしその筋肉の、有用性という点ではどうだろうか。
彼らの多くは、見せつけるための筋肉を鍛えている。袖のない服を着ていたり、そもそも上半身が裸だったりするのがよい証拠だ。そういった者たちに限って、実際剣を振るための筋肉が育っていないことも多く、剣との触れ合いが少ないことは明瞭である。
剣を振るための筋肉は、剣を振って鍛えればいい。
そして、カルドさんの筋肉は、その長剣を振るのに最適化されているのがよく分かる。まさしくちょうど必要な筋肉量。
そしてだからこそ、ドニーさんや、姉が彼を気に入っているのかが分かる。ドニーさんは明らかに、他のメンバーとカルドさんとで接し方が違うし、姉も何度か仕事を共にしたということはそういうことだろう。
私は再び間合を切って、次は、
下から。すくい上げるように、刃を滑らせる。
カルドさんは私の剣を払おうとする――が、先程は上を滑らせて、上向きに弾かれた。
それが今回は、下を滑らせたため、下へ弾く――
下とは地面だ。
長剣は確かに間合では分がある。
しかしどうしても――重い。
重いものを、上方向に動かす場合は筋肉をしっかり使う。
しかし下方向に動かす場合は、どうしても重力に引かれてしまう。
私は彼の剣が、私の剣を地面に叩きつけようと下向きに力を込めた、その瞬間にくるっと手首を返し、彼の剣の上側へ、剣を移動させ、
彼が自分で加えた下向きの力に、更に私の力を加え、彼の剣を地面に叩きつける、
と同時に、素早く剣先をカルドさんへ突きつける。
「そこまで!」
ドニーさんが叫んだ。
私は、肩で息をする。
「――参った」
カルドさんは、右手で剣を持ったまま、左手を挙げて降参の意思を示した。
「――勝った」
『うん。すごいよ、ツルギー』
「仇は討ったよ、ノアくん!」
『うん。何を言っているの?』




