3-3 それはまあそうです
「フォスさんに、最初に相手してもらった時は、下からすくって剣を担がれて、右から突き立てられたもので――つい、力が入り過ぎてしまったようです」
カルドさんは右手を握りしめては開き、を繰り返しながら言う。
『懐かしい』
剣になった姉が呟く。
剣を担いだ――というのはつまり、剣の下をくぐったということか?
いくら身長差があるとはいえ、身軽過ぎる。姉にはまだまだ勝てそうにない。
私とカルドさんの決着も、ある意味、体格差ではあった。
剣や腕が比較的短い、というのは、小回りが利くという利点もある。
だからこそ、下向きに押さえつけてきた剣の動きをかいくぐって、すぐさま行動できたのだ。
体格差は、あるいは間合の差は、そのまま勝敗を決定づけはしない。考え続ければ、必ず勝利への道は開ける。これからもそのことは忘れずにいきたい。
任務についての確認も、私の実力についての確認も終わり、明日の本番に向けて、私たちは解散した。
カルドさんに一回勝ったとはいえ、次は勝てるかは分からない。ドニーさんにも、最初に戦って以降、何度か本気の手合わせをしてもらっているが負け越しているし、姉のイメージが先行していたカルドさんではない、別の長剣遣いが相手だったら勝てていなかったかも知れないと思うと、まだまだ修行の手は緩められない。
『ツルギー。長剣対策はほどほどにね。明日の任務も、相手にするのは獣だから、近距離戦を意識しないと』
「うん」
それはそうだった。そもそも、カルドさんは任務で背中を預ける相手になるのだ。対抗心を燃やすのもいいが、まずは連携方法を考えるほうが先だろう。
《調査任務》。討伐対象となり得る生物の危険度の調査、とのことだが、最初に、ドニーさんと一緒に行った際には、かような危険生物は見当たらなかった。ドニーさんは、本格的な整備を始めるためと言っていたから、何らかの特定の生物の想定があるというよりか、安全性を保証するための洗い出しということなのだろうか。
あまり奥までは行っていなかったから、そこに潜んでいる何かがいるのかも知れないが、前回行ったのも、巡回という仕事であったため、ある程度の徹底はしたから、それほどの討伐対象となりそうな獣はいなそうだが。
何はともあれ、油断は禁物である。姉が、命を落としたのも油断が原因だったということで、折に触れて口酸っぱく言われている。
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ローツェ街道。
この国で四番目に大きい街道で、その活気は依然と遜色ない。
「ツルギーさん、何か食べます?」
カルドさんが、私に声をかけてきてくれた。
「おいおい、フォスにもそうだったが、相変わらず年下に甘いな」
彼に言うドニーさん。姉さんにもこの態度だったのか、姉さんがこんな男に捕まって誑かされてしまうとは、故郷に置いてきたノアくんのことはもう忘れてしまったのか――と意味のないことを私は考え続ける。
さいきん、故郷のことをよく思い出している気がする。
お父さん。
お母さん。
ピロス。
ノアくん。
……それ以外に、特にいい思い出があるわけでもないのだが。
姉は、よく家に帰ってきていた。
組合に加入すれば、敷設されている宿舎に部屋を借りられる。私もそうしているわけだが、姉は、大きな任務が入っていない時は、頻繁に家に帰ってきていた覚えがある。だからこそ、姉についての記憶は私の中に生きている。
『いっぱい甘やかしてもらいなよ。カルドさんにも妹がいるんだってさ』
姉から耳より情報。カルドさんに下心はないということらしい。まあドニーさんが行動を共にしている時点で、組合の他の者たちとは違うのだろうとは思っていたが、かなり信頼されている――というか、甘やかされたんだな、姉さんも。
「甘やかされたんだね、姉さんも」
『えっ――それはまあ、そうです』
私が小声で言うと、姉は少し恥ずかしそうに返す。
やれやれだ。




