26話 合宿
放課後。
北区域の第四運動場にて。
「学校も休み期間に入ったことだし、チームで合宿を行いたいと思う!」
「が、合宿!?」
「そうだ。これまで、俺達はランニングや体幹、杖の突き方など、ワンディングの基本をやってきた。もう基礎は十分に身についているだろう。だが、試合の勝ちへ結びつけるには、相手とフィールドをよく理解し、適応しなければならない」
「フィールド、ですか?」
「ワンディングは仮想空間のフィールドに送られて試合が行われるばい。フィールドは森の中や洞窟、街中やファンタジーな世界までいろいろあるけん、試合ごとに変わるフィールドを活かせるかどうかも勝敗のカギになるとよ」
「フィールドはランダムで決まるから、決め打って練習することができない。だから、どのフィールドがきても対応できるように、いろんな場所へ練習しにいくわけだ」
「山道とかのボコボコしたフィールドとかはこの運動場とは違いますものね」
「楽しみデース!!」
「みんなの予定が良ければ、早速明日から行きたいと思うんだがどうだろう」
「あ、明日ですか!?」
「俺は構いませんよ。家でダラダラ過ごすくらいなら、時間を充実した練習に充てたい」
「私も大丈夫です!」
五条先輩と三橋さんが真っ先に答える。
「九重、どうだ」
「もちろん! 行きたいです!!」
「フフフ、みんなそう言ってくれると思って、既に宿は予約してるんだ。出発は明日の夕方! チューベローズ正門前のバス停にジャージで集合。夜行バスを入れて5泊6日だから、各自準備を頼む!」
「「はい!!」」
◇◇◇
「合宿~~~!?!?」
「そ。だからしばらく面倒は見れません」
夜飯時、フィアス軍曹に合宿のことを告げた。
「いやだ~~! 私もいく!」
「ダメです」
「なんでさ!」
「フィアスは俺達からしたら敵だからだよ!」
「酷い! 糸は私のこと敵だと思ってるんだ!」
「そうだよ! ていうか、フィアスのチームも合宿とかあるだろ」
「うん。でも私は免除されてるの。だからお願い! 私も連れてって?」
「ダメです!!」
「うわ~ん!! 糸は私が干からびて死んじゃってもいいんだ!」
「最近は青月館のバイキングとか行ってるんだろ? タダで飯が出てくるんだからこれを期にもっと活用しなさい」
「ぶー」
ワガママなフィアス軍曹を説得するのには時間がかかった。
◇◇◇
翌日の夕方17:00。
待ち合わせのバス停にて。
「すみません! 遅くなりました!」
すでにそこには、先輩が全員揃っていた。
「はは、まだ集合時間になっていないぞ。忘れ物はないか?」
「はい! 大丈夫です!」
しばらくすると水仙道行のバスが来て、それに乗り込む。
そして水仙道で電車に乗り換え、以前行った『神天町駅』よりもさらに先の『都方駅』に向かう。
娯楽の多い都会である神天町とは違い、都方はビジネス街や交通の中心となる高次元世界一の都会であり、あらゆる方面への電車やバスが出ているらしい。今日は田舎行きの夜行バスに乗る。
夜行バスが来るまで時間があったので、適当な店で晩御飯を済ませ、バスターミナルで出発を待つ。夜行バスへの乗車が可能になると、トランクに大きな荷物を預け、順番に乗り込んでいく。
さすが高次元世界、夜行バス内はカーテンで区切られた個室になっていて、入ってみるとカプセルホテルほどの横になれるスペースがある。これも【逆空間の次元】を用いた、いつものバスと同じ技術のようだ。
夜20:30、夜行バスが出発。
固室のカーテンから見える都会の夜景は、キラキラ輝く宝石の洞窟のようだった。しばらくすると高速道路に入ったので、俺はそっとカーテンを閉じ、目を閉じた。
カーテンの閉まった車内。ゴロゴロとバスのエンジン音。意外に揺れることや、寝慣れているベッドとは違うこともあり、寝ているのか寝ていないのか分からないような時間が過ぎていった。
いったい、出発してからどれだけ経っただろう。
窓のカーテンを少し覗いてみた。
すると建物の明かりが輝く夜景とは一変し、そよ風に揺れる草原と朝焼けが広がっていた。どこか懐かしいノスタルジックな田舎の光景に心を打たれた。
合宿2日目の朝、バスが田舎の駅に到着。
「みんなお疲れ様。じゃあ早速だが、体を起こすために宿舎まで走ってもらう! 俺はレンタカーで先に行ってチェックインしとくから」
「「え!?」」
「大丈夫、この道をずっと真っ直ぐ行くだけだ。遅かったやつは朝食ぬき! なんてな。ははは!!」
一ノ瀬先輩はレンタカーを借り、みんなの荷物を載せて『ブオオオオオン!』と勢いよく宿舎へ行ってしまった」
「あかん、朝食抜きはあかん! みんな、走るでっ!」
合宿に来て早々、朝のロードワークが始まった。ジャージで集合の意図はこういうことだったのか。ただ、いつもとは違う新鮮な景色だったこともあり、みんな良い気分で走ることができた。
途中までは。
「ぜえ……ぜえ……。なんだか道がボコボコしてきましたね……」
駅からしばらく行くと平原になり、さらに行くと山道になってきた。そのため、登り坂となっていて、斜面が苦しい。
「はあ……はあ……。宿舎って山の中にあるんかな……。あとどれくらいやろ……」
「あ、看板が見えてきましたよ!」
先頭を行く五条先輩が指を差した先には、『森中の宿まであと200 m』と書かれた看板があった。
「オオ、あと200 mデスね! がんばりマース!」
そして200 m進むと、宿の駐車場に一ノ瀬先輩が立っていた。
「はあ……はあ……。着いたあああ!!」
「みんなお疲れ様! さあ、まずは温泉に入ってこい! 朝食はその後だ!」
「え! 来たばっかりなのに温泉に入れるんですか!?」
「ああ。今日から5日間、ここの温泉には24時間入り放題だぞ!」
「イエーーイ!! アイラブ温泉デース!!」
先駆けて行ったジョニー先輩を筆頭に、俺達は温泉に向かった。
◇◇◇
温泉をあがると、食堂に和風の朝食が並べられていた。
「「いただきます!!」」
「……」
「あれ? 菊音さん、お箸が進んでいませんが、どうしたんですか?」
「糸くん……これ……」
「えっ? 納豆がどうかしましたか?」
「食べて……」
隣の菊音さんは、みんなに隠すように納豆を隣の俺に渡してくる。
どうやら納豆が大の苦手のようだ。
「二宮~?」
「ひいっ!?!?」
向かいの一ノ瀬先輩が、ニコニコした表情で菊音さんに圧をかける。
「む、無理なんです!! 納豆だけは……納豆だけは……!」
「二宮! これも特訓の一つなんだぞ!」
「納豆が……特訓……?」
「そうだ。苦手なものに立ち向かい、精神を鍛えるという立派な特訓だ。それに、これからの厳しい特訓には、納豆のたんぱく質が必要不可欠なんだ」
「納豆が……必要不可欠……?」
「そうだ」
菊音さんは、納豆と向かい合っている。
そして、ついにその蓋を開いた。
(菊音さん!!)
(行くか……!?)
「や……」
「「や……?」」
「やっぱ無理ですうううう!!!!」
なぜか菊音さんが納豆を食べようとした瞬間、納豆は不思議なパワーで宙を舞った。
べちゃっ!!!
そして、五条先輩の頭の上に落ちてきた。
「うあああああ!! さっき風呂入ったのにいい!!!」
五条先輩の髪の毛は納豆のネバネバまみれになった。
「ご、ごめんなさいいいいい!!!」
「二宮!! 納豆くらい食え! どうせ食わず嫌いだろ。俺の納豆をくれてやるから、一度食ってみろ!!」
五条先輩は頭に納豆のネバネバをつけたまま、菊音さんに蓋が開いた納豆を渡した。
しかし、菊音さんが納豆を手に受け取った瞬間、またも納豆は不思議なパワーで宙を舞った。
べちゃっ!!!
納豆は、小雲先輩の焼き魚の上に落ちてきた。
「……あんたら!! 食べ物を粗末にすなーーーっ!!!」
「「ご、ごめんなさあああい!!!」」
◇◇◇
「さあ、まずはいつも通りダッシュからだ!」
一ノ瀬先輩の言葉に、みんなポカーンとしている。
「あの……ここ、思いっきり山の中ですけど……」
「当然だ。色んなフィールドに慣れるのが合宿の目的だからな。喜べ! 今日と明日はダッシュ祭りだ! 20 m×10本ダッシュして車で別の場所へ移動し、また20 m×10本して別の場所へ移動。これをひたすらやるぞ!!」
「」チーン
なんと厳しい祭りなんだ。
ということで、ダッシュ祭りが始まった。
まず、木の枝や石ころが落ちているボコボコの山道10本。
ダッシュが終わると8人乗りのレンタカーに乗り、浜辺へ移動。裸足になってズボンをまくり上げ、波が押し寄せカニが横切る浜辺でピチャピチャと10本。
お次は高い草が生えているサバンナ、その次はカチカチのアスファルト、べちょべちょの沼、火山灰が積もったカルデラ、たけのこがわんさか生えた竹林、水晶がちりばめられた幻の洞窟、氷山がそびえる氷の大地など。「なんでこんなところにこんな場所あるんだよ!」と突っ込みたくなるくらい色んな場所でダッシュをした。
ただひたすら、走る。走る。走る。
一ノ瀬先輩が大自然の中、縦横無尽に車をぶっ飛ばしてくれたおかげで、当分自然観光は遠慮したくなるくらいたくさんの場所を巡ることができた。
ダッシュをし、温泉に入り、ご飯を食べ、寝る。
朝食を食べ、ダッシュをし、昼食を食べ、ダッシュをし、温泉に入り、ご飯を食べ、寝る。
こうして2日間のダッシュ祭りは幕を閉じた。
◇◇◇
合宿4日目の朝、男部屋でミーティングが開かれた。
ちなみに、部屋は男女で分かれて2部屋ある。
「今日の練習を始める前に、俺が考えているオーダーを発表したいと思う」
「オーダーって、先鋒戦、中堅戦、大将戦のどれに出場するかってことですか?」
「ああ、そうだ。みんな知っての通り、王座争奪戦には先鋒戦、中堅戦、大将戦があり、それぞれに各2名ずつ出場する。オーダーは1度決めて提出すると、もう変更はできない。勝ち上がって決勝まで行ったとしても、1回戦とずっと同じオーダーだ」
「でも結局、オーダーの良し悪しは出てきた相手選手との相性ですから、もはやジャンケンみたいに運なんじゃないですか?」
「いや、そんな単純じゃあらへんよ。注意しやんとあかんのが、大将戦だけ勝てば1ポイント多くもらえるってことばい。このルールがあるおかげで、相手との駆け引きが生まれるんや」
「ああ。つまり、大将戦には各チームのエースが集まるから、裏を突いて大将にはチームの弱い人を置き、強い人を先鋒・中堅に置くことで先鋒・中堅戦でポイントを多く稼ぐことができる、とかな。そこで、俺が考えたオーダーがこれだ」
【チーム27・オーダー】
先鋒:ジョナルド・シックス、二宮菊音
中堅:五条透、三橋澪
大将:七道小雲、九重糸
「お、俺なんかが大将で良いんでしょうか……?」
「俺はこれで良いと思いますよ」
五条先輩は不安そうにしていた俺の肩を組んで言った。
「イエーース!! ワタシ先鋒ですネ! 特攻隊長として先陣を切りマース!!」
ジョニー先輩も歪みねぇやる気を見せている。
「これは、勝負を一点に絞らず、全ての試合で善戦できることを考えて組んだオーダーだ。特に、準決勝の相手に勝つことを意識している」
「桐山楓を含めた3人の能力者がいるチーム19ですよね」
五条先輩が真剣な目つきで確認した。
「そうだ。相手が1戦に能力者を固めてきても、全部に1人ずつ出してきても、このオーダーならばそれなりに対応可能だ。異論が無ければこれで行こう。今日からはこのペア同士で、それぞれ別のメニューを行ってもらう! だが、その前に……」
みんなで朝風呂へ行った。




