表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第3章 王座争奪戦
27/38

27話 二人きりの夜

 5泊6日の合宿の4日目、俺達は先鋒、中堅、大将の2人組でそれぞれ別の特訓をすることになった。


 山の中。

 一ノ瀬先輩が先鋒を務める菊音さんとジョニー先輩に指導している。


「二宮、去年の準決勝の先鋒戦、ビデオで見せてもらったぞ」


 去年、1年生だった菊音さんは先鋒戦を務め準決勝に進出したが、同じく先鋒だった朝日さんの圧倒的な力の前に敗れた。


「超能力者の千陽朝日に敗れたのは仕方がない。おそらく二宮のチームも千陽が大将だと読んで能力者の二宮を先鋒に置いたのだろう」


「はい。それに、先鋒は試合の流れを作るのにとても重要だと言われて……」


「うん、間違っていないし、千陽との対戦についてはいい。問題は、千陽以外との戦闘だ」


「え?」


 準決勝では、菊音さんは朝日さんと戦う前に、2人を倒している。しかし、その倒し方にはスムーズさがなく、せわしなかった。


「二宮、お前は【逆空間の次元】をどうやって活かしている?」


「私にも分かりません……。でも、なんとなく相手が向かってくることが分かるんです」


「なんとなく、か。確かに【逆空間の次元】は、ワンディングにおいて、他の次元と比較して直接的な役割は担えないと言われている。だから、ランキングも低く見積もられてしまう。だが、11つの次元は全て繋がっているから、【逆空間の次元】でも現実の出来事を正確に把握できるはずだ。そこで、これを使ってみてほしい」


「これは……アイマスクとタオル、そしてひも?」


「ああ。特訓内容はこうだ。二宮とジョニーがお互い、胸のあたりにひもを使ってタオルを掛け、タオルの取り合いをしてもらう。ようは『しっぽとり』の前バージョンだな。ただし、二宮はアイマスクをするんだ」


「そんなの、絶対に負けますけど……」


「はは、勝つのはかなり難しいだろうな。だが、逆空間と実空間は表裏の存在。逆空間をはっきりと認識できれば、ちゃんと実空間の相手も正確に感知できるはずだ。特訓だと思ってやってみろ!」


「はい!」




 次は、中堅を担当する五条先輩と三橋さん。

 場所はなんと海。水着に着替えさせられた二人は、一ノ瀬先輩のアドバイスを聞いていた。


「能力者は基本、大将や先鋒に配置される。そう考えると、一番能力者が集まりにくいのが中堅だ。つまり、能力に頼らない、正真正銘の実力勝負になる。だが、その実力とは必ずしもワンディングの腕だけではない。フィールドへの対応、頭を使った戦略、相手を理解した立ち回り。お前たちはチームの中でも賢明に行動できるし、自分達で考えて、自由に練習してくれ」


「分かりました。でも、どうして海なんですか?」


「海はできる特訓の幅が広いんだよ。走りにくい浜辺もあるし、良いトレーニングとされる水中での運動もできる。それに、二人の仲を深めるには楽しい場所がいいだろ?」


「そ、そうですね」


「じゃ、また夕方迎えにくるから、またな!!」


 一ノ瀬先輩は車に乗って去っていった。


「……一ノ瀬先輩、行っちゃいましたね」


「行っちゃったな。……とりあえず海、入るか」


 チャポン




 最後は大将を務める俺と小雲先輩。


「お前らの任務は一つ。超能力者に勝て!」


「ちょ、超能力者に……?」


 雪夜やフィアス、朝日さんの力を思い出した俺は、戦うことを想像すると少し怯えた。


「そうだ。正直、能力者ランキング7位の七道がいるから、超能力者がいない相手には苦戦しないと思っている。だが、優勝するためには6位以内の超能力者に勝たなくてはならない。中でも1位の……」


「……時谷」


 小雲さんが因縁の相手の名前を口にする。


「そうだ。【時間の次元】と【逆時間の次元】の超能力者である絶対王者、時谷未来に勝たないと優勝はない。そこで、これからお前たちには次元をフルに活用して、ひたすら2人で戦いまくってもらう」


 一ノ瀬先輩から練習用のワンディングの防具を受け取る。

 軽くて丈夫な皮でできていて、左胸には直径10 cmほどの円形のゴムがついている。おそらく、本番はここがガラスになっているのだろう。


「七道は【時間の次元】、九重は杖で【生命の次元】を駆使して、お互い本気で戦え!」


「「はい!」」




 それぞれの特訓が始まった。


 菊音さんは目隠しをしながら、ジョニー先輩と胸につけたタオルで『しっぽとりモドキ』をしている。

 ジョニー先輩の歪みねぇ激しい猛攻に、菊音さんのタオルは何度も取られた。さらに目隠ししている菊音さんは、何度も木にぶつかりそうになったり石につまずいて転びそうになったが、そのたびにジョニー先輩の歪みねぇヘルプが菊音さんを救った。


 五条先輩と三橋さんは海デート……ではなく、海で特訓。

 海の中で追いかけっこしたり、浜辺でストレッチしたり、海の家で焼きそばを食べながらお話したり。……やっぱりただのデートでは。


 そして、俺と小雲先輩は、防具をつけ、何十回、何百回もずっと二人で杖を交えて模擬戦をしていた。

 俺は必死に杖を使って小雲先輩の精神を読み取っていた。そのため、小雲先輩の気配や行動は大体読めていたはずなのに、小雲先輩はそれを上回る何かで、俺の杖を回避し、何度も俺の胸に杖を命中させた。

 

 そしてとうとう、この日一度も小雲先輩の胸に俺の杖が届くことはなかった。



 ◇◇◇



 カポーン


「ああ……生き返る……」


 特訓が終わり、俺達は温泉に来ていた。

 一ノ瀬先輩はおらず、ジョニー先輩は身体を洗っている。そして、俺と五条先輩が露天風呂に浸かっているというシチュエーション。


「おい、九重。あそこの塀の向こうがどうなっているか、知っているか?」


「ま……まさか……!!」


「そう!! 女風呂だ!!」


 ドドンッ!!


「なにー!」


「そして、今。小雲先輩をはじめ、女子全員がお風呂に入っている!!」


「な、なんだってー!!」


「厳しい一ノ瀬先輩も、歪みねぇジョニー先輩もここにはいない。つまり、どういうことか、分かるか?」


「今なら、誰にも見つからないっ!! ……ですが、この塀、4 mくらいありますよ。 肩車ではとても……」


「フフ……耳を貸せ……」


 五条先輩は俺に素晴らしい作戦を教えてくれた。




「……ふう。ここの温泉、何回入っても飽きへんな……」


 露天風呂の岩に腕をかけ、星空を見上げながら小雲先輩が口にした。そんな小雲先輩の一部位を、三橋さんと菊音さんがジッと見つめている。


「七道先輩……胸大きい……」


「ん? ああ。そら、私が一番年上やけん。澪ちゃんも菊音ちゃんも大きくなるよ」


「ということは、小雲先輩も私達の年齢の時は、もっと小さかったんですか?」


「……ごめん。もっと大きかったわ」


 パチャパチャッ!!


「……あれ……?」


「どうしたん? 菊音ちゃん」


「今日いっぱい特訓したからか、【逆空間の次元】を伝って人の気配を敏感に感じます……」


「でも、今この温泉には私達しかいないよ?」


「ですが、あの塀の向こうから感じるんです」


 菊音さんは男湯の方の塀を指さす。


「まあ、あの塀の向こうは男湯やし、そら人おるやろ」


「それが、めちゃくちゃ近いんです」


 カコン


「……あれ? ……今何か声が聞こえませんか?」


「ちょっと、聞いてみよっか」


 3人は塀に耳を澄ませた。




「九重! あと1つ!」


「はい! お持ちしました!」


「よーし、これで桶のピラミッドが完成だ! あとは登って覗くだけだぜ!」


「いやっほーーい!!!」


「おや? 五条サンと九重サン、楽しそうなことしてますネ!! ワタシも混ぜてくだサーイ!」


 タッタッタッ!!


 ジョニー先輩が歪みねぇ走りで向かってくる。


「ちょっ!! 風呂場でそんなに走ったら……っ!!」


 ツルッ


 ドンガラガッシャーーン!!!


「ああああ!!! アガルタへ導くピラミッドがああああ!!!」


「Oh……ソーリー……」




「……なにやってんねん、あいつら」


「……もう出ましょうか」


「……そうですね」


 結局、アガルタの景色は拝められなかった。



 ◇◇◇



 温泉を出た俺達は夕食を終え、クタクタのみんなはすぐに就寝。川の字に寝る。




 ドスッ


 夜中、すやすやと寝ていたころ、隣で寝ていたジョニー先輩の歪みねぇ足が俺の腹を直撃し、目が覚めた。時計を見ると、夜中の1時。


「……明日も特訓だし、寝ないとな」


 ジョニー先輩の足を戻し、再び寝ようとする。


 ザッザッ……


 目を閉じていると微かに音がした。


 ザッザッ……


 気のせいではない。窓の外かな?


 俺は一番窓側の布団で寝ていたから、少しだけカーテンを開けて外を覗いてみた。

 すると、なんとそこには練習している小雲先輩の姿があった。


 俺は驚き、靴を履き替えて外に出た。

 すると、俺に気づいた小雲先輩も驚いて声を掛けてきた。


「え、糸くん!? どしたと?」


「ちょっと目が覚めてしまって。小雲先輩こそ、こんな時間まで特訓されてたんですか?」


「ううん、なかなか寝れんかったけんちょっと体を動かしてただけばい。ふふ、ちょっとあそこのベンチ行こか」


 松が生えたベンチで、旅館の寝巻姿で並んで座った。

 月が丸くてとても綺麗だ。


「糸くん、今日私と戦ってみて、どう思った?」


「強いなって思いました。一度も勝てませんでしたし」


「実は私な、【時間の次元】を認識することで相手の動きの未来が見えるんや。2秒くらい先の。やから、相手の未来の動きに合わせて動くだけで勝てるんよ」


「それ、無敵すぎませんか!?」


「せやろ。やから、学園も【時間の次元】関係の能力者はランキング高めに設定してるんよ。でも、完璧ではなくって、相手の未来を見て行動を変えると、相手も行動が変わりうるんや」


「どういうことですか?」


「ジャンケンしよか」


「え!? は、はい!」


「『最初はパー』、はい、私の勝ち」


「ん!?」


「私が最初にグーを出した未来では、そのまま『ジャンケンポン』まで進んでたんやけど、私がパーを出したことで、その先の未来が変わったんや」


「ということは、小雲先輩が相手の未来に合わせて行動を変えると、相手も動きが変わってしまうってことですか?」


「そうそう。でも2秒後の未来がちょっと変わったところで直前までしようとしていた行動はほとんど変わらんし、普通の相手なら問題なく勝てる。私が負けるのは、未来が分かってても止められへんような攻撃が来た時か、私以上の【時間の次元】の能力を使われた時ばい」


「時谷未来は、未来を見る以上のことができるってことですか……?」


「それが分からんのや。ビデオ見てても、実際戦っても、通常時は私と同じように未来を見て戦ってると思う。……でも去年、私と戦ってた最後の一瞬、まるで瞬間移動したように時谷が消えた気がしたんや。ビデオには綺麗に映ってなかったけど、あれは間違いなく何か使ってきた。それも、とびっきりやばい何かを……」


 小雲先輩は少しの悔しさと少しの恐怖が混じった表情を見せた。


「ま、糸くんは何も心配せんでええよ。時谷や千陽が相手でも、私が全部倒して護ったるけん」


 小雲さんは立ち上がり、本心を隠すように笑顔を見せた。


「あ~あ、なんかもっと寝れんなって来たわ。こりゃ、ちょっと運動せんとあかんな」


「今からですか!?」


「ふふ、ちょっと付き合ってや! 糸くん!」


 小雲先輩は俺の手を引いて走り出した。

 森奥の滝へ行ったり、温泉についていた卓球やビリヤード、小さいゲームセンターで遊んで盛り上がった。


 そして、再び温泉に入ろうという話になったのだが……


「ここ、混浴ないんか」


「へぇ!?」


「3時か。誰もおらんし、私男湯入ってええかな?」


「ダメですよ! なな何言ってるんですか!!」


 頭がパニックになる。


「ふふ、冗談ばい。出たら自販機前で待ち合わせな」


 くう……っ! あそばれてしまった……っ!


 夜中で誰もいない露天風呂からは、隣の女風呂からの音だけが聞こえた。



 ◇◇◇



 合宿5日目。

 旅館のチェックアウトを済ませ、今日も昨日に引き続き試合別の特訓が行われた。


 カツッ! カツッ! カツッ!!


「糸くん! もっと攻め込まんと、隙だらけばい!」


「はいっ!!」


 シュッ! カツッ! カツッ!!


 やはり小雲先輩は強い。

 俺も杖で精一杯【生命の次元】を感じ取り、小雲先輩の存在と精神状態を読み切って戦おうとするが、全然勝てない。本当に、小雲先輩が1人で対戦相手を全て倒してしまうんじゃないかと思えるほどに。




 そして、夕暮れ。

 山の中では、アイマスクをつけた菊音さんとジョニー先輩の『しっぽとりモドキ』はまだ続いていた。


 菊音さんは最初つまずいたり転んだりしていたが、だんだんとアイマスクをつけたままでも普通に行動できるようになり、最後には……


「と……とれた……!!」


 ついに、菊音さんがジョニー先輩のタオルを取った。


「おお! 二宮サン、やりますねぇ!」


「ジョニー先輩……! ありがとうございました!!」




 海では、五条先輩と三橋さんが水中や浜辺を活用したトレーニングで体を鍛え、二人は共に行動しているうちに息が合うようになっていた。




 そして、俺は未来が見える小雲先輩とマンツーマンで手合わせをしてもらうことで、ワンディングがすくすく上達していた。


 シュッ! カツカツカツカツッ!!


 杖と杖が交わる音のテンポが最初よりも格段に上がっている。動きが速くなっている証拠だ。


「……今だ!!」


「あっ……!!」


 トン!!!!!!


 2日目にして、始めて俺の杖が小雲先輩の胸に届いた。


「よくやったね、糸くん」


 小雲先輩は頭を優しくなでてくれた。


「あ……ありがとうございます!!」


 しばらくして、一ノ瀬先輩が車で迎えにきた。


 全員車に乗り、駅へ向かう。

 一ノ瀬先輩がレンタカーを返却し、夜行バスが来るまでの間に駅前の小さな銭湯で体を流した。そして、夜行バスに乗り込むと、みんな疲れていたので瞬く間に眠ってしまった。


 こうして、俺達の長い合宿は幕を閉じた。

 大会は、もうすぐ始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ