24話 悩み
次の日。
教室には死んだ顔の尻口くんと幸坂くんがいた。
「ど、どうしたの?二人とも……」
「ワンディングデジュウヨウナノハカハンシンノウゴキ……」ブツブツ
「ふふふ………呪いの力で王座を勝ち取るよお…………」
よっぽど先輩から厳しいご指導を受けたのだろう。
「あれっ! 糸くん、どうしてそんなお肌テカテカしてるでやんすか!?」
「はっはっは。それはね、昨晩はセトル・ブルーオーシャンでリッチな夜を過ごしたからだよ」
「はああああああ!?!? ずるいでやんす!! セトル・ブルーオーシャンって世界の名だたる高級ホテルにも引けを取らないって噂の寮でやんすよね!? おいらなんかセトル・ブラッディレッドのむさくるしい先輩の部屋で死ぬほど筋トレさせられたのに!!」
「ふふふふふ、糸くんは呪われたいのかなぁ?」
ガラガラ
「なんだお前ら。朝から騒々しいな。早く席に着け」
今日も通常通り授業が始まったのだが、いつにも増して授業中に寝ている人が多い。
みんな、ワンディングの特訓が大変なんだろう。
「俺も負けてられないぜ!」
みんなに負けないように、俺はぐうぐうと寝始めた。
…………
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
食事街のファミレスでバイトをしている女の子がいる。
三橋さんだ。
「はい、カルボナーラ1人前ですね、少々お待ちください!」
カランカラン
「毎度ありがとうございました!」
「ふう、最後のお客さんも帰られたし、今日は店じまいとしようか」
「わかりました」
「それにしても、澪ちゃんがシフト入ってくれて本当に助かるよ。この王座戦の時期になると、バイトに来る学生さんも減っちゃって、人手が足りなくなるからね」
「いえいえ。……私なんか練習したところで、私は運動も苦手ですし、能力もありませんし、結局負けちゃうだけなので。それなら、こうやって誰かの役に立てる方が私も救われます」
「でも、本当にいいのかい? ここまでたくさんの人が注目する舞台なんて、そうそう無いもんだよ」
「……」
「ま、自分がしたいことをすればそれでいいんだ。どちらにせよ、俺は澪ちゃんを応援するぜ」
歓迎会で出会った時から感じていたが、三橋さんはずっと何かモヤモヤと悩んでいるように見える。まるで、何もかもを諦めてしまっているような、そんな感じ。
…………
「お前らァァァ!!! 起きんかァァァ!!!」
鬼島の怒号が鳴り響く。
「グッモーニンでやんす~」
「むにゃむにゃ……おはよぉ」
「何寝起きの挨拶しとるんだ! 今は授業中だ馬鹿たれども!!」
気が付くとクラスのほぼ全員がうつぶせになって寝ていた。
あの苺でさえ目をこすっている。
それより、今見た夢が本当だとすると、どうやら三橋さんはバイトがあるから練習に来ていないようだ。
◇◇◇
放課後。
「糸くん。こっちこっち」
菊音さんと愛さんが教室の脇から呼んでいる。
「菊音から聞いたよ。王座戦に向けて練習するから、活動はしばらくお休みしたいってこと。いいよ! 今から1カ月半、王座戦が終わるまでは自由活動にしよう。私も二人が王座を取るところを見たいしね。次元計の調査は私に任せておいて。王座は二人に任せた!」
「分かりました!」
「任せたって、愛も選手でしょうに」
「私のいるAブロックは時谷未来と松蔭雪夜がいるんだよ? 超能力者がいないBブロックの菊音達の方がまだ現実味あるって。がんばってね!」
菊音さんと第四運動場に向かった。
今日は昨日の4人に加え、下半身が食い込んだピッチピチのブルマ姿のジョニー先輩もいた。
「あれ、菊音ちゃんと糸くん、今日は用事があるんじゃ……」
「いえ、俺達も特訓させてください! 小雲先輩と一緒に王座を取りたいんです!」
「二人とも……ありがとう……!」
「さあ、今日も始めるぞ!」
昨日と同じメニュー。
一ノ瀬先輩の号令に合わせ、準備体操、ランニング、そしてダッシュ。
「はあ……はあ……終わった……」
「Oh……もう動けまセーン……」
フィジカルが自慢のジョニー先輩も、このメニューは相当応えたようだ。
「今日はここまでだ、お疲れさん!」
ジョニー先輩は上半身裸になり、セトル・ブラッディレッドへ帰っていく。
「あ、一ノ瀬先輩!」
「ん、九重か、どうした?」
「あの、五条先輩や三橋さんは二日とも来ていませんが、連れてきたりしなくていいんでしょうか。他のチームは結構強引に練習に連れ出してるみたいですし」
「そんな強引なやり方しても、お互いに良いことはない。去る者追わず、来る者拒まず。やる気がないなら無理にする必要はない」
一ノ瀬先輩のまっすぐした瞳から放たれた言葉は、俺には少し残酷に聞こえた。
そして一ノ瀬先輩が去っていった後、小雲先輩が歩み寄って来た。
「糸くん。そういえば、澪ちゃんと知り合いやったよね? 何か心当たりある?」
「心当たり……あ、はい! あります!」
俺は今日の授業中に見た夢の内容を話した。
「なるほど、南区域の食事街のファミレスでバイトしとるんか。ほんなら、行ってみよ!」
「えっ、今からですか!?」
ということで、昨日の三人でファミレスに行くことにした。
◇◇◇
「いらっしゃいませ、3名様ですか……って、え!?」
「こんにちは、三橋さん!」
「おや、澪ちゃんの知り合いかい? 今日はもうお客さん少ないし、澪ちゃんも上がっていいよ!」
「え!?……」
店長はグッドマークを作っているが、三橋さんは戸惑っている。
4人席に4人で座る。
「あの……練習に出ない私を怒りに来たんですか……?」
「全然違うばい。というかこんな遅くまでバイト頑張ってたんやね、偉いな」
「というか、どうして私がここでバイトしてるって知ってたんですか!?」
「え、糸くんに聞いたんけど」
「ま、まあ、それは置いといて食べましょうよ。俺もうお腹すいちゃって……」
店長がサービスしてくれた山盛りのご飯を食べる。
「ああ、おいしいっ! やっぱり特訓後のご飯は格別ですね!」
「そうね、特訓し始めてからなんだか目覚めがいい気がするの!」
俺と菊音さんは特訓の素晴らしさを強引にアピールする。
「こらっ、二人とも勧誘があからさますぎばい。……澪ちゃん、バイト大変やと思うけど、たまに気分転換にでも、顔出してくれたらそれだけで私達は嬉しいんや。せっかく同じチームになれたんやしな」
「……でも、私運動できないし、根性ないし、七道先輩や二宮さんみたいな能力もない。こんな私なんかが特訓しても惨めなだけですよ……」
「三橋先輩、私も相当運動苦手なのですが、昨日は8本でリタイアしちゃったダッシュを、今日はギリギリ10本走りきれたんです。苦手でもできるようになってくると、楽しさや嬉しさがありますよ」
「苦手でも……楽しい?」
「……澪ちゃん、バイトに入ってくれるのはすげえ嬉しいんだけど、きっと今は澪ちゃんにとって、1時間1000円以上の価値がある時間の使い方がある気がするんだ」
「店長……」
「店のことは心配しなくていい。俺、毎年ワンディングの試合を楽しみに観に行くんだけどさ、澪ちゃんのチーム、応援してえな」
「……分かりました。七道先輩、二宮さん、そして糸くん。私も、明日から一緒に練習してもいいでしょうか」
「もちろんや! ありがとう!!」
「店長。……私、どこまでできるか分からないけど、頑張ってみます!」
「ああ! 応援してるぜ!」
店長は今日のお代をサービスしてくれた。
◇◇◇
「いいか、今日は寝るなよ! 絶対寝るなよ!!」
翌日金曜日、今日もいつも通り授業。
ほぼ全員が寝ていた昨日の授業を受けて、鬼島先生も寝させまいと注意している。
しかし、するな、するなと言われるとついやっちゃうのが人間。俺達はすやすやと寝息を立て始めた。
…………
カチカチカチ
カップラーメンの殻が落ちている、暗い部屋。
ある男が布団をかぶってゲームをしている。
五条先輩だ。
カチカチカチ
『GANE OVER』
「はあ……」
バフンッ
コントローラーをクッションに放り投げる。
################
場面が切り替わった。
これは去年の大会の様子だろうか。
「はっ……はっ……はっ……!」
フィールドを駆け回る。
近くには味方と、敵がいる。
「うおおおお!!」
五条先輩は敵に向かって攻め込む。
ザシュッ!! パリン!!
「や、やったぞ!!」
しかし、五条先輩の割ったバッジをつけていたのは味方だった。
「え……なぜだ……どうして……!」
「ふふっ、ご苦労様!」
パリン!!!
そして、敵は五条先輩のバッジを破壊した。
傍から見れば、ただの裏切り行為。
結局それが致命傷となり、チームは敗れた。
チームメイトは皆、白い目で五条を見る。
「違うんだ!! わざとじゃない!!! …………なんだよ……あれだけ頑張ったのに!! 特訓だって、毎日血反吐を吐くくらいやったのに……!!」
################
場面が戻る。
「……頑張るだけ無駄なんだ。結局結果が悪ければ、過程なんてクソの意味もない」
五条先輩は布団にくるんで、暗い部屋で横になった。
…………
「だから寝るなってお前らァ!!!!」
バーーーン!!
鬼島が教卓を叩き、皆はパッと目を覚ます。
だが、今の夢を見る限り、五条先輩は去年の王座戦で嫌な過去があったらしい。
◇◇◇
放課後。
今日だけは風紀委員会があるので、特訓へは少し遅れていくことになる。
「おい九重。ちゃんと王座戦に向けての練習はしてるんだろうな。同じ風紀委員として一回戦負けとか許さないからな」
「そういうお前こそどうなんだよ、成瀬」
「俺は37位の能力者だぞ、そう簡単に敗れるものか。個人的には二回戦で当たるあの白髪がどこまでやるのかが見ものだな」
成瀬のチームは57、Dブロックの二回戦でフィアスと当たるらしい。
「聞き捨てならんの。わっちもDブロックの二回戦でお主と当たるんじゃが。ま、能力が全てだと思っている時点で敵ではないがの」
「ほう、沖田もDブロックだったか。手裏剣を使えないことはちゃんと知っているのか?」
「ふっ、わっちの取柄が手裏剣だけと思わんで欲しいの。ま、二回戦ではせいぜい胸を貸してやる」
「こっちのセリフだ」
二人の目に炎が灯った。
風紀委員の面々も、王座戦に向けてちゃんと練習しているらしい。
◇◇◇
「すみません、遅くなりました!」
「おお、九重。風紀委員会だったのは聞いている、よく来てくれたな。みんなはもうランニングをはじめているから、九重も準備運動が出来次第走ってこい」
「はい!」
グラウンドを見ると、小雲先輩、ジョニー先輩、菊音さん、そして三橋さんが走っていた。
準備運動を済ませ、俺もグラウンドを5周走る。
最初に比べて、だいぶ走れるようになってきた。
俺がランニングを終了してしばらく休憩し、ダッシュが始まる。全力疾走というのは、やはりきつい。しかし、三橋さんを含め、全員が往復10本をクリアした。
「はあ……はあ……、九重くんたち、こんな大変なことしてたんだね……」
「はあ……はあ……三橋さんこそ、1回目で走り切るってすごいじゃないですか……」
「頑張るって決めたからね……」
「よーし! お前たち、今日もよく頑張ったな。帰ってゆっくり休んでくれ。明日土曜日は以前言っていたように13時から始める。それじゃあ解散!」
「あの、今日も走るだけですか? そろそろ杖を使った練習も取り入れていった方がいいのではないでしょうか」
小雲先輩が一ノ瀬先輩に尋ねる。
確かに基礎体力も大切だが、ワンディングは杖を使って器用に相手のバッジを破壊する競技だ。小雲先輩の指摘する通り、杖を扱う技術も非常に重要となる。
「……まだだ。まだ足りない」
それだけ言うと、一ノ瀬先輩は帰って行った。
「まだ足りないって、体力のことかしら……?」
「なるホド! じゃあミーは走って帰ることにしマース! サラバ!」
ジョニー先輩は上半身裸でセトル・ブラッディレッドへ走って行った。
「……あの、小雲先輩。去年の王座戦のしおりってありますか?」
「去年の? うん、部屋にあるとよ。見てく?」
「はい、よろしければお願いします」
俺は再びセトル・ブルーオーシャンの小雲先輩の部屋にお邪魔させてもらうことになった。折角なので、またみんなで温泉に入らせてもらった。
心も体もさっぱりして、小雲先輩の部屋にて。
「はい。これが去年の王座戦のしおりや」
「ありがとうございます」
小雲先輩は丁寧にトーナメントで勝ち上がったところをきっちりと線でなぞっていた。俺は五条先輩のチームを探し、どこで敗退したのかを調べる。
「五条先輩が敗退したのは初戦だったのか。この試合で勝ったチームの中に能力者がいるはず……」
「あ、そのチーム、【桐山 楓】のチームやん。この子、今年の能力者ランキング8位とよ」
「小雲先輩、この方の能力をご存じですか?」
「うん。私は戦ったことないけん詳しくは分からんけど、【生命の次元】の能力者で、相手を混乱させるらしいで。去年は準決勝の中堅戦で心乃ちゃんにあっさり負けてたけど」
…………
7位(27)6-A:七道 小雲 [71 pt]【時間】
8位(19)5-A:桐山 楓 [69 pt]【生命】
…………
今年のランキングを見ると、確かにに桐山楓の名前が書かれていた。
「あっ、そういえば8位ってことは……!」
「そうやな。私らと同じBブロックの強敵、チーム19のメンバーの一人や」
俺達が決勝に上がるための最大の難関、チーム19。
その中に、五条先輩の因縁の相手がいるようだ。




