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正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第2章 劣等生
13/38

13話 大富豪の廃墟

 土曜日。

 学校はお休み。この一週間は色々あったし、久しぶりにゆっくりできるぞ。

 ベッドでゴロゴロ。二度寝でもしようかな……


 ピンポーン


「……ん?」


 ガチャ


「はい…どちらさまですか……って愛さんと菊音さん!?」


「ふふーん!」ニコニコ


 そこには私服姿の二人が笑顔で立っていた。


「糸くん、今日は空いている? 一緒に不思議を探しに行こうよ!」


「不思議……?」


 ということで、青い空の下、暖かい陽気の中、異探(いたん)サークル一同は見ず知らずの土地へ向かうことになった。


「あの、どうして俺の家を知っていたんですか?」


「そりゃ知ってるよ。ほら、入部のときに書類書いてもらったでしょ?」


 ああ、そういえば。


「今日はどちらへ向かってるんです?」


「大富豪の廃墟だよ。高次元世界について研究していた研究者が住んでいたらしい。何か異世界の手がかりを掴めるんじゃないかと思ってね」


「へえ……。でも、そんなところに易々と入れるもんなんですか?」


「いいえ、隠されているわ。でも、この前見つけたのよ」


「見つけた……?」


「菊音は【逆空間の次元】を認識することができるの。前々から場所の検討はつけて探索してたんだけど、この前の探索で、菊音が逆空間の中に見つけたんだ」


「あの、逆空間ってなんですか? 以前、高次元世界のバスにも取り入れられてるって聞きましたが」


「うーん……、私も完全に理解しているわけではないし、説明は難しいわね。私達の認識できる実空間に埋め込まれた影のような空間、かしら」


 影のような空間……想像もつかない。

 世界は俺が思っている以上に複雑な姿をしているのかもしれない。

 全ての次元を認識できるフィアスに聞けば分かるのかな。


 ローカルバスに乗り、南西にある山へ向かった。




 バスから降りて、今度は徒歩で山登り。

 山で時折遭遇する高次元世界特有の生物に毎度驚かされる。

 中でも『ウンパンジー』という大木を運搬するチンパンジーには笑ってしまった。


 途中で見かけたボロボロのお店で瓦そばを食べ、徒歩で再び散策を開始。

 山をかき分け、木の階段を上り、そして……


「見つけた。ここだわ」


 菊音さんが足を止める。しかし、そこには平原に木が生えているだけで、何もない。


「んー? やっぱり相変わらず私には見えないなあ。菊音、ここに建物が立ってあるの?」


「ええ。お屋敷がぽつんと……ある気がする」


「気がする?」


「うん……。絶対にあることはあるんだけど…遠目で見えるというか……ぼんやりしているというか……。でも、私は【空原(そらばら) (げん)】のように【逆空間の次元】に干渉できるわけではないから、近づけないのよね」


 空原幻は、チューベローズの黄金世代と呼ばれる6年生で、【空間の次元】と【逆空間の次元】の超能力者らしい。


「うーん、やっぱりここからが問題ね。その屋敷に入る方法を考えないと」


 どうやら、一見ただの木々しかないこの空間に、屋敷があるらしい。

 しかし、そこへは【逆空間の次元】へ干渉できる超能力者などでないと、簡単には入れないという。


「菊音、気合いでなんとかならない?」


「ならないわよ! ……でも、屋敷が建てられているということは、バスの逆空間に入れるように、必ずどこかから入れると思うわ。だって、【逆空間の次元】の超能力者なんてほとんどいないだろうし、いたとしてもその人だけで大工さんも呼ばずに自力でこんな立派な屋敷を建てるなんて考えられないもの」


「なるほどね。つまり、私達でもこの逆空間に入れる入り口があるってわけだ。よし、ちょっと手分けして探してみよう!」


 逆空間への入り口探しが始まった。


 しかし、探し方が分からない。

 木々の間に手を伸ばしてみるが、当然のように何も起こらない。


 ここで、バスの例を思い出してみる。

 バスでは、最後尾をすり抜けられた。

 つまり、何か物があるところへ駆けていくと、そこが境界になっており、すり抜けられる可能性があるのかも。


「……よし」


 俺は覚悟を決め、木と対面した。


「うおおおおおおおお!!!」


 俺は木に向かって走り出す。

 すり抜けられると信じて。


 ゴツン!!!!!!!


 しかし、すり抜けられなかった。


「今凄い音が……。えっ! ちょっと糸くん、大丈夫!?」


「木はたくさんあるんだ。全部試してみるしかない!」


 俺はやけくそになり、縦横無尽に走り出した。

 暴走した馬のように駆け回る。


「糸くん危ない!! その先は崖だよ!!!」


「えっ!?」


 頭を空っぽにしながら走り回っいると、なんと崖へ向かって飛び出していた。

 さよなら、俺の人生。


 ぴゅーー


「ぎゃああああああああああああ!!!」


 無謀にも崖に手を伸ばしながら、俺は落ちて行った。


 その時、頭が冴えた。

 走馬灯のように、時がゆっくり流れていくように感じる。


「あっ!!!!」


 その時目に移った光景。崖に丸い穴が空いている。

 まるで何かの入り口のような、人工的な穴。


「あれだ……!!」


 などと思いつつ、俺は重力に身を任せながら落ちて行った。



 …………



「今凄い音が……。えっ! ちょっと糸くん、大丈夫!?」


 愛さんが心配そうに駆け寄ってくる。


「うーん……。あれ……?」


 どうやら木にぶつかった後、一瞬気を失っていたようだ。


「さっき気が付いたんだけど、ここらへん崖に近いから、あまり走っちゃ危ないよ」


「崖……? あ、愛さん!入り口見つけましたよ!」


「え!? 本当!?」


 俺は崖の穴のことを伝え、三人で崖下を覗く。


「わあ、本当だ。不自然な穴が空いてるね」


「でも、どうやってあそこに行けばいいのかしら。崖を這って行くのは危険よ」


「じゃーん、縄ばしごだよ! 他にもこれでしょ、これでしょ、そして…」


 愛さんのリュックからは次々とクライミングの道具が出てくる。


「なんでそんな物がわんさか出てくるのよ」


「準備すご……」


 カンカン


 愛さんは縄ばしごを地面に打ち付けて、ちゃっちゃと崖を下る準備を進めていく。


「これで安全に行けるね! さあ私に続いて!」


 愛さんは縄はしごを下り始めた。


「これ……行く感じですよね……?」


「え、ええ……」


 愛さんが渡してくれたクライミング道具を身につけ、縄ばしごを下る。

 穴に入ると、愛さんが手を取ってくれた。


「見て! 階段になってるよ!」


 愛さんが懐中電灯で照らした穴の先には、長そうな階段があった。


 カツ……カツ……


 三人で階段を上がっていく。


「あ、たった今、逆空間へ入ったわ」


「本当!? 凄い! それにしても、糸くんはどうやってこの入り口を見つけたの?」


「木にぶつかって気を失っている間に夢で見ました」


「へえ。不思議なこともあるもんだね」


 カツ……カツ……


「お! 扉だ!」


 階段の先には、公衆トイレの掃除用具入れのような汚い扉があった。


 ガチャ……


 その表現は正しく、扉の先はトイレだった。

 様式トイレの三つの扉の横に今の扉がある。

 そして、すりガラスの窓からは、光が照らされている。


「凄い! 私達、館に入れたよ!」


「ところどころ錆びれてるし、蜘蛛の巣も張られていることも考えると、人は住んでいなさそうね」


 トイレを出ると、廊下がある。

 廊下の窓には昼下がりの森の景色がはっきりと広がっている。


「ここは高次元世界について研究していた研究者の館。何か異世界の手がかりがあるはずだよ!」


 適当に歩いていると、食堂に着いた。

 12人席の、大きなテーブル。

 そして皿やグラスなどが並べられた食器棚が大富豪感を漂わせる。


「あの、どうして愛さんはここに研究者が住んでいたことを知っているんですか?」


「その研究者の本を読んだからだよ。私はこれまで高次元世界についての色んな本を読んだけど、大抵は推測とか未完成なことをつらつら書いているだけだった。でも、学校の図書館の奥底に眠っていた一冊の本だけは違った。学術的な数式は一切書かれていなかったけど、その全てを理解しているかのような矛盾のない文章からは、世界を探究する魅力が伝わってきたんだ。私はね、その本があったから異世界を目指したいと考えるようになったんだよ。筆者は【筑紫(ちくし) 霊峰(れいほう)】。消息不明、年齢不詳、出版した本もたった一つのみ。唯一の手掛かりは、この山奥にある今は廃墟となった館で思考実験を行っていた、と本に書かれていただけ」


「それならきっと、その人の居室に何か実験ノートのようなものがあるかもしれないわね」


 食堂を後にし、居室を探す。

 キッチン、ダイニングと色々周った後、居室のような扉を見つけた。


「あ、ここじゃありませんか?」


 開けた扉の先にはベッドと机、そしてメイド服がかけられていた。


「メ、メイド服!? まさかその研究者にはこんな趣味が……!」


「違うよ、きっと雇われていたメイドさんの居室だと思う。これだけの大きな館だし、メイドさんの一人や二人、雇っていても不思議じゃないよ」


 愛さんと菊音さんは次の部屋を見て回っている。


「で、ですよね……。ん?」


 メイドさんの机に手帳のようなものが置いてある。


「これは……日記だ……」


 裏を見ると、名前の欄に【佐倉(さくら) 遥花(はるか)】と書かれている。

 3年分をつけられる日記のようだ。

 日付の空欄に数字を書きこんでカウントしている。


 1ページ目。

『1年目4月13日:今日からこのお屋敷で働かせていただくことになりました! 同期の友達もいないし、住み込みで心の内を叫ぶこともできなそうなので、日記で私の心を晒すことにしました! 保管は大切にしないとね(笑)


 2年目4月13日:日記を見ると、今日が丁度一年目だったんだね。まあ、雇われて一年なんて、誰も別にお祝いとかはしないよね。今日はお仕事で主様に怒られてしまって少しナイーブです。もう寝ます、おやすみなさい。


 3年目4月13日:    』



 このように、ページをめくっていくと、毎日のように2年分の日記がつけられていた。


 そして、2年目に書かれていた最後の日。


『1年目2月20日:今日トイレの掃除をしているとき、大きな大きな蜘蛛が出ました。叫んでしまったけど、なんとか追い払いました。私偉い!


 2年目2月20日:ご主人様はまだ帰ってきません。使用人が次々と辞める中、最後まで尽くし続け、帰りを待っていた私でさえも捨てたそうです。今日で私もこの館を出ます。でも、ささやかな復讐として、この館にある金目の物と、ご主人様が大切にされていた『あれ』は貰っていきますね。さようなら、ご主人様。いつかあなたに私の心内が届くように、この日記はここに置いていきます。


 3年目2月20日:    』


 そこには、佐倉遥花というメイドの奇妙な2年間が綴られていた。

 しかし、〇年目という書き方なため、具体的に何年前の出来事なのかは分からない。


「おーい、糸くん何してるのー!」


「あ、すみません! 今行きます」


 俺は日記帳を机に戻し、佐倉さんの居室を後にした。


「糸くん、見つけたよ。筑紫霊峰の居室だ」


 その部屋は、この館の主の居室とは思えないほど狭く、とても散らかっていた。


「凄い数のノート……。それに、中身はとても読めないわ。まるで書きなぐりね」


「その上、内容も難しい……。ここで見て覚えるのは無理そうだね。いただいちゃおう!」


「えっ!?」


「いいでしょ、ここは廃墟なんだし。ゴミダメから拾ったと思えば大丈夫!」


「私はノーコメントね」


 愛さんはせっせとリュックにノートを詰めていく。

 こうして今日の探検は終了した。


 陽が沈みかけている夕方、この館の出口から出て振り向くと、そこには館は無かった。

 やはり、入る時は崖の穴から入らないといけないらしい。


 夜のバスに揺られながら、チューベローズへと帰った。


 この帰り道、俺はなぜか佐倉遥花というメイドのことが頭から離れないでいた。

 別にメイドフェチじゃないのに。

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