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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十二章 イニステラ①
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「アキ!恥を承知でお願いする。もう一度仕切り直しで頼む!」

「いいよ。」


 シズの首元に突きつけた月時雨を一度納刀する。実践であればシズが死んで終わりだがこれは模擬戦。いくらでもやり直しがきく。まあ実際は模擬戦ではなくアキの戦闘適正試験なのだが。


 しかしどうやらシズは向上心が強いらしい。それならば友人として彼女の気が済むまで付き合ってあげよう。彼女には色々世話になってるし、丁度いい礼になる。


 そこからはもう消化試合みたいなもので、アキはシズの攻撃を躱したり、受け流したりして防御に専念した。試験開始直後はルティアとイリアから心配するような視線を感じたが、今はもう感じない。いつもの訓練と変わらないと安心したのだろう。


 ちなみに最近はイリアも日々の訓練に加わっており、一緒に模擬戦をしている。さすがにミルナ達が慕うだけあって、彼女達よりは実力があるイリア。だがやはり対人慣れしてないので、エリスや対人特化型のアキには敵わない。


 しかし本当にミルナ達には感謝してもしきれない。彼女達のような実力者と毎日剣を合わせられるのだからアキは運がいい。それにみんな凄く丁寧に基礎戦闘技術を教えてくれる。おかげでアキの剣術は冒険者Aランクに届くかというレベルまで上達した。今までは魔法と対人特化だったが、これで魔獣討伐などの依頼でも少しはミルナ達の役に立てるかもしれない。


 ただあの子達は「アキは怪我するかもしれないからダメ」と絶対に魔獣との戦闘に参加させてくれない。「ミルナ達だって怪我をするかもしれない」と言い返した事もあったが、「私達はいい、アキはダメ」という超理論を展開された。きっとミルナ達が安心して見ていられるくらい強くなったら、その時はきっと許してもらえるだろう。だからまだまだ強くならなければ。


「・・・あれ、どうしたの、シズ。」


 そんな昔の事を考えながらシズの攻撃をいなしていたら、急にシズの攻撃が止まった。不思議に思い彼女を見ると、必死に唇を噛みしめていた。多分悔しいのだろう。ただただ良い様にあしらわれて何も出来なかった事が。


「アキ・・・最後に一度だけ・・・お願いできるか?あと・・・私に可能性があるとすればどうすればいいと思う?教えてくれ。」


 アキに教えを乞うてくるシズ。彼女は試験官であり、アキは試験を受けている受験生だ。それなのに尋ねてくると言う事はプライドや恥を捨ててでも、アキに一矢報いたと思っているのだろう。


 その強くなりたいという信念は尊敬に値する。それにシズはアキの友人だ。そんな事でいいなら喜んで助言しよう。


「そうだね。まず攻撃に緩急をつけよう。フェイントも混ぜてみようか。後は・・・。」


 対人戦における戦術をシズに教える。先ほどの攻防で彼女の癖も少しわかったからそれもついでに教えておく。


 このあたりの技術をシズが突き詰めれば、アキは何もできずに負けるだろう。予備動作や癖を極限まで無くし、癖を逆手にとって攻撃を自在に変化させる。そうなるとアキは何もできなくなる。長年ハンターや冒険者を生業としている人達に反応速度でアキが敵うわけがない。予測が使えないなら防御も当然間に合わない。


 ただこんなのは達人の域の戦闘技術だ。一朝一夕で身に付くものではない。つまり今何かを教えたところでアキの優位性が揺らぐことはない。まあ手を抜いてもいいのだが、それはシズに失礼だろう。最後まで全力で叩き潰す。きっとそれが友人としての優しさだ。


「わかった。やってみる。最後だ・・・いくぞ!」


 シズは今一度力強く地面を蹴る。






「はぁはぁ・・・。何もできずに負けてしまった。なんというか悔しいな。」


 肩で息をしつつも、どこか清々しい顔で呟くシズ。


 最後の攻撃は今まで以上に稚拙だったので、適当にいなして終わらせた。まあやった事もない緩急やフェイントを急にやれといっても出来る物ではないし、当然といえば当然だ。


「教えた事を意識して訓練すればシズはもっと強くなれると思うよ?」

「うむ、いい助言をもらった!尚更研鑽に励むとしよう!」


 凛とした顔で返事をするシズ。本当はもっと悔しがったり、喚いたりしたいはずだ。騎士隊長やランクⅣとしての体裁があるから我慢しているのだろう。何となくだがそんな気がする。ハンター連盟から早々に撤収して少し彼女を励ました方がいいかもしれない。


「それでリナさん、いかがでしょう?」

「意地悪しないでください。これで不合格ですと言えるわけないでしょう?」


 拗ねたような表情で答えるリナ。


 別に意地悪しているつもりはない。ちゃんと「合格」と聞きたかったので聞いただけだ。とりあえず無事ランクⅣにはなれるようだし今日の目標はこれで達成。


「しかしランクVがいいと言ったのも頷けます。多分アキさんならVまで行けそうです。あの魔法の使い方だけでも行けるかもしれません。」


 初めて見た無詠唱魔法に興奮を隠せないのか、饒舌になっているリナ。


 どうやらやはりユーフレインでも、アキの魔法の使い方は特殊らしい。これで魔法についてもある程度の裏付けが取れたと言えよう。ルティアの情報収集によれば、魔法はベルフィオーレと変わらないと言っていた。ただ詳細まではわからなかったので、その確認も兼ねて魔法を派手に使ったのだ。


「それは私も思う。最後にアキは私に剣の助言をくれたが、結局あれを極めても魔法を使われたら何をしても無駄だろう。」


 確かにそれはシズの言う通りだ。魔法ありきなら、うちのエリスがどれだけ達人の域に達したとしても、アキには敵わない。アキは近接戦闘しながら無詠唱で魔法を打ち込めるのだから、どう転んでもアキのほうが有利。対抗するにはエリスもアキと同じレベルで無詠唱の魔法を使えるようになるしかない。


「友人に認められるのは嬉しいね。」

「そ、そうか。私もアキのような剣と魔法の使い手が友人なのは鼻が高いぞ。」


 嬉しそうに返事しているところ見るに、少しは機嫌が直ったらしい。


「ではアキさん。ランクⅣのハンターカードを発行いたします。」

「もうVにしてやったらどうだ?」

「そうしてもいい気はしますけど規則ですので。」


 シズがランクVを推してくれるが、さすがに規則は曲げられないと苦笑するリナ。


「とりあえずはⅣで十分だよ。リナさん、ちょっと予定があるので早速お願いできますか?」

「はい。それでは受付に戻りましょう。」


 さっさと連盟から切り上げたいので、リナに急いでくれとお願いする。


 予定なんて本当はないが、さっきから野次馬が騒いでいるので、面倒になる前に引き上げたいのだ。シズとの模擬戦を見て、アキの評価は大分上がったらしい。実力を示す事は出来たので、結果としては上出来だが、ちょっと悪目立ちし過ぎたかもしれない。

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