7
颯爽と馬車を降りるシズ。アキもその後に続く。馬車が停車した場所は大通りのようで、人がひっきりなしに行き交っている。辺りを見渡すと、立派な建物がいくつも並んでいて、この街の中心と言われている理由がわかる。
イニステラでは商店組合や工業組合など、誰もが大抵何らかの組合に入っているらしく、ここにはその組合のイニステラ支部が並んでいるのだとか。ただ不思議な事に、シズは説明の際、この組合の支部群を「国の施設」と表現していた。
「それって国の施設なのか?」
「ああ、組合は国が後ろ盾についているのだ。色々な援助が国から受けられるからな。まあその対価として有事の際は無償で物資を提供しなければならないのだが。」
なるほど、そういう意味かと納得する。
これは国が物資を安価に調達する為の制度だろう。それだけ聞くと組合は国から独立した方がいいとも思えるが、それをしてしまうとユーフレインではきっと生き残れない。有事というのはきっと戦争の事だ。物資の無償提供の負担は大きいが、国から受けられる援助を考えると、それに見合う価値はあるという事に違いない。戦争の際、被害が出ないように兵士を派遣して貰えたり、戦後の復旧の時に国から支援があるのとないのでは雲泥の差だろう。
「表面上の理由はそんなところか。」
独り言のようにボソッと呟く。
表面上は国が一方的に搾取するだけではなく、一応国と組合がお互いに助け合っている制度だと言える。だが本当のところは、これは国が体よく搾取する為の制度だ。組合からしてみれば戦争なんて国が勝手に始めた事。勝手に始めたくせに、守ってやるから物資を寄越せは横暴だ。どの組合も国から独立したいに違いない。
だが国から離れると、組合は目の敵にされ、戦争のどくさくさに紛れて潰されたりするのだろう。国からしてみれば有事の際に搾取できない組合なんて邪魔なだけだ。
ルティアが調べてくれた情報によると、ユーフレインには他国に戦争を仕掛け、国力を誇示したい過激国家が多数存在する。だから穏便派の国でも、過激派に対抗する手段は持たなければならない。つまりどの国も軍を持っていると言う事だ。
そして軍を動かすとコストも莫大にかかる。物資も大量に必要だ。コストを最小限に抑え、物資を調達するには各国の組合を取り込んでしまえばいい。政治的戦略など他にも色々と理由はあるだろうが、組合を取り込んでいる理由はそんなとこだろう。
「アキ、まだ何か聞きたいことでもあるか?もう連盟に入ってもいいか?」
「ああ、ごめん。もう大丈夫。」
この辺りの事はまた必要になったら詳しく聞けばいいだろう。今優先すべき事はハンター登録だ。
「ではいくぞ、こっちだ。」
シズは正面にあった白い建物へ入っていく。おそらくこれがハンター連盟なのだろう。
連盟の建築様式はベルフィオーレと少し異なり、材料に木材が少なく、石材が主に用いられている。ベルフィオーレは木材と石材を併用した中世ヨーロッパの建築様式に近かったが、ユーフレインは地球で言うところのギリシア建築に近い。これはこれで赴きがあり、非常に美しい。
ハンター連盟の周囲にある建物もほとんどが同じような感じで、大理石や石灰石のようなものを使っていて、全体的に真っ白だ。あまりにも立派な建造物なので、初めは神殿か何かかと思った。これがハンター連盟や商人組合だとシズに言われない限りはわからなかっただろう。
ただ全てのユーフレインの建物がギリシア風というわけではない。民家や宿屋などはベルフィオーレの建築様式とほとんど一緒だ。アキが購入した屋敷もそうだった。きっと国が関連している施設は敢えて立派な建造物にしているのだろう。
ちなみに家具などは、ベルフィオーレの方が質が高い。ベルフィオーレ産の方が明らかに装飾などが凝っている。きっとこちらの世界では高級品扱いになるレベルだ。サルマリアの特産である精工な家具なんて持ってきた日には、国宝認定されてもおかしくないだろう。
だからこちらの寝具や家具については正直不満がある。ただこちらに永住するつもりはないし、基本はベルフィオーレで過ごすので問題はない。日中ちょっと滞在するだけであればあの屋敷で不便はない。まあもしこちらに移住するとなったら不満しかないが・・・ベルフィオーレを捨てる事はありえない。
「アキ、何をしている。早くいくぞ。私に続け!」
シズが連盟から出てきて、早くしろと急かしてくる。ちょっと余計な事を考えすぎていたようだ。
「悪い、今行く。」




