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「お気に召したお屋敷はございましたでしょうか。」
エル商会長が心配そうな表情で尋ねてくる。
エル商会が準備してくれていた屋敷は3軒。シズと共にそれらを一通り見学してきた。
屋敷は全て同じ地区にあり、シズが勧めてくれた場所だ。その地区は閑静な住宅街といった感じで、商店や工房などは存在していなかった。どうやらシズの屋敷もあるその地区は貴族御用達で、ある程度大きな屋敷しかなく、イニステラの中でも割と治安がいいらしい。日本でも豪邸しか建ててはいけないと法律で決められた街もあったし、こういう場所があるのも頷ける。ここであればミルナ達も安心して過ごせるだろう。後はどの屋敷にするかという好みの問題だけだ。
「アキは気に入ったのあった?」
シズが聞いてくるが、正直どれでもいい。というのも、エル商会が用意してくれた物件はどれも豪邸で、非の打ちどころがないくらいに素晴らしく、アキの要求をすべて満たしている。どの屋敷も高い塀に囲まれていて、プライバシーはしっかり確保出来ていたし、庭も広い。部屋もミルナ達全員に個室をあてがえる数がちゃんとあった。地下室も完備。ベルフィオーレへの転移場所としても問題ない。そして勿論屋敷内の家具もセンスよく取り揃えられている。
「どれも素晴らしい屋敷です、エル商会長。」
「それは恐縮です。」
エル商会長は少し安堵したような表情を浮かべる。気に入らなかったらエル商会の名誉にかかわると思っていたのだろう。
「ちなみにシズはどれがいいと思う?」
「私は3軒目がよかったかな?」
最後に見た4階建ての屋敷がシズは気に入ったようだ。
あそこはリビングが広く取られていて、ミルナ達とゆっくり団欒できそうだった。他にも使いやすそうな厨房や広い大浴場も完備。個室も2階と3階に7室ずつある。そして主寝室は最上階の4階にあり、かなりの広さだ。アキがベルフィオーレに持っているどの屋敷よりも広い。ミレーやミスミルドの屋敷の2倍くらいはある。ここであれば快適に過ごせるだろう。
「じゃあそこで。」
「待って!待って!アキが決めないとダメだよ!」
「どれも素晴らしかったからね。シズが勧めてくれるならそこがいい。」
「でも・・・私がそこ選んだ理由は私の屋敷に近いからだよ・・・?」
シズが申し訳なさそうな顔をする。
てっきり一番広くて住みやすそうだから選んだのだと思っていたが、まさかそんな理由だったとは。しかし正直に言わなくてもいいのにと苦笑する。
「じゃあ尚更そこにするよ。」
「そ、そう?でも私も友達が近くにいるのは嬉しいかな。えへへ。」
シズが嬉しそうに笑う。
実は彼女が薦めていなくても、アキは3軒目にする予定だったのだ。どれでもいいとは言ったのは本当だ。でもだからこそ最後の物件にするつもりだった。最後に一番いい物件、売りたい物件を持ってくるのが商売人としての定石だと聞いたことがある。だからシズもそこを勧めてくるのであれば、尚更その屋敷でいいだろう。
「商会長、おいくらですか?」
「さすがにお目が高い。最後のお屋敷が当商会としても一押しでして。ただその分お値段も他の屋敷に比べて少々高額で・・・8万金になります。」
「問題ありません。ではそこで。黒金貨8枚、お納めください。」
アキは黒金貨が10枚入った袋をエルに渡す。2枚多く入っているが、それは「今後もお前と付き合って行くつもりなので色々と融通しろ」という意味を含んでいる。
「か、かしこまりました。今後とも当商会を御贔屓に。アキ様のご要望には全力でお応えさせて頂きたく思います。」
エルもちゃんと黒金貨10枚の意味を理解したようだ。これで必需品等を調達する際も困る事はないだろう。
だがまあ少々後ろめたい。偉そうに大金を渡しているが、これはこの国の国庫から拝借しているものだ。人の金で大きな態度を取れるのだから自分の顔の面は随分と厚厚かったらしい。
ハンターで稼げるようになったらちゃんと返しておこう。そう、これはただのローンだと自分に言い訳しておく。
「ではお屋敷の鍵をお渡します。今から使って頂いて問題ありません。書類は全てこちらでやっておきますので、サインだけ後程頂ければ幸いです。ちなみにメイドなどはご入用でしょうか。よろしければ懇意にしている奴隷商人をご紹介できますが。」
奴隷だと・・・。まさかユーフレインには奴隷制度があるのか。
その辺りの情報は確かに調べてなかった。ベルフィオーレでは奴隷制度は無かったから、ユーフレインにも無いと勝手に思ってしまっていた。ただよく考えれば、あってもおかしくない。貧困層に落ちて人々が生きる為に自分を奴隷として売る可能性は十分にある。
「そうですか、では是非お願いします。ただ今日はちょっと時間ないので明日・・・今日と同じ時間にお伺いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」




