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「・・・もしかしてシズ?」
「え?うん、そうだよ?お待たせ、アキ。」
一瞬本当に誰なのかわからなかった。だが長くて綺麗な黒髪と美しい瑠璃色の瞳で気が付いた。それにユーフレインでアキを知っている女性はシズだけだ。
しかし昨日のシズとは雰囲気が全然違う。口調や服装もすっかり普通の女の子だ。一体全体どうしたのだろうか。
「昨日と全然違うからわからなかったよ。」
「えへへ、そっか。今日は非番だから普通の女の子なんだよ?」
どうやらシズは騎士隊長をしている時とプライベートの時で顔を使い分けているらしい。まだ10時まで時間もあるし、その理由でも聞いてみよう。
「使い分けてるんだね。なんで?」
「んー・・・やっぱり騎士や兵士には男が多いんだ。女だからって舐められる事もあるからね。」
ちょっと悔しそうな表情をするシズ。
どうやら隊長として部下に舐められないよう口調や性格を男勝りな感じにしているらしい。昨日も部下がいたからずっと気を張っていたのだとか。
「ものすごく疲れるんだよね、あの状態でいるの。でも気は引き締まるから丁度いいかなー?」
そう言えばベルもこれと似たような事を言っていた。王女様モードの時でないと王政が出来ないんだとか。きっと国に仕える仕事というのは一般人のアキにはわからない苦労があるのだろう。
「そうなんだ。でも俺はこっちのシズのほうがいいと思うよ。」
「ほんとに?それは嬉しいな。」
これは世辞ではなく、本当にそう思う。
昨日の雰囲気だと、シズは少し高飛車でプライドが高い人物だと思った。だがそれはあくまで仕事モードの時だけのようだ。普段の彼女は物腰も柔らかで、普通の女の子。嬉しそうに笑う姿はソフィーのように可愛い。それでいてベルやミルナのような気品さもある。やはり貴族だからだろうか。
「でもシズみたいな美人が1人で出歩いて大丈夫なの?」
どちらの性格が本当であれ、シズが紛れもない美少女なのは間違いない。
「び、美人じゃないよ・・・。確かにあまりよろしくないけど、ほら、私は騎士隊長だからね!襲われても平気!一応今もちゃんと剣持ってるもん!」
そう言えばそうだった。あまりにも昨日と印象が違い過ぎて忘れていた。でもそれは仕方のない事だろう。これだけ雰囲気が違えばさすがに誰でも驚く。シズはベル以上の性格の使い分けをしていると言っても過言ではない。
「それに私結構有名人なんだよ?騎士隊長で貴族って事は知られているからね。あとハンターランクも上位なんだ。だから襲ってくる物好きはいないよ。」
「なるほど、そうなんだね。ちなみに『女の子』の方のシズも知ってるのか?」
「うーん、どうだろう。隠してはいないから知ってるかも?でも別にわざわざ見せたりはしないから知らない人が多いと思うよ?」
なるほど、アキは感心する。
しかし変に誤魔化したりしてないのはいい事だ。騎士隊長の時は向こうの顔を使い、自分の立ち位置をしっかり確立。そして「素のシズ」を隠しているわけではないから非番の日も堂々と行動出来る。変に隠すと、バレた時に「女の癖に生意気な」と面倒な事になるかもしれない。だがこの方法であれば「あの性格は仕事モードだから」と言ってしまえる。
それに仕事の時に性格が変わる人は意外と多い。職人などはそれが顕著だ。そしてそういった人間は総じて「仕事に熱心で真面目」という評価を受ける。まあシズが性格を使い分けているのは、単純に同僚の男になめられたくないからという理由だけで、そこまで考えての事ではないだろう。だが彼女の使い分け方は間違いなく効果的だ。うちの子達に是非学ばせたいくらいだ。
と、ついつい感心してしまったが、そんな事を考察していても仕方ない。せっかくシズの方からハンターの話を振ってくれたのだからこれに乗らない手はない。
「そうなんだ。シズはハンターでもあるんだね。丁度よかったよ。」
「どういう事?」
「俺もハンター登録しようと思っているんだよね。屋敷の内覧が終わったら連盟に連れてってくれないかな?」
早速シズにお願いしてみる。
「うん、私でよければ喜んで!でもアキはハンター登録してなかったんだね?ランクはどうするの?」
シズはアキが既にハンターだと思っていたらしい。まあ確かに刀を持っていればそう思うのが普通だろう。
「それに結構お金持ってるよね?だから上位クラスのハンターだと思ってた。」
「俺は仲間達とずっと旅しているから。お金は盗賊退治したりしていたらいつの間にか貯まってた。でもそろそろハンター登録してどこかに定住するのもいいかもって思ったんだよね。」
適当に話の辻褄を合わせる。
本当のお金の出どころを騎士隊長であるシズに話したら、多分速攻で斬られるだろう。ハンター登録しなかった理由も、旅していたからと言っておけば多分大丈夫だ。ユーフレインは戦争が頻繁にある不安定な世界なのだから、定住してなくても不思議はない。もしかしたらシズには真実を話す日が来るかもしれないが、今ではない。だからとりあえずこの場を誤魔化せればそれでいい。
「ハンターランクだけど・・・Ⅴがいいんだよね。でも無理だろうからⅣかな?」
「あはは、アキは腕に自信があるんだね!Ⅴとは大きくでたね!」
馬鹿にされるかと思ったが、そんな事はなく、シズは楽しそうにくすくす笑っている。しかしやはりⅤは無理のようだ。ルティアの情報通り、戦闘試験を出来る人物がイニステラには今いないのだろう。
「まあ連盟にVで申請してみてもいいかもね。それで無理ならIVにすれば?でもⅣで申請するなら、試験の相手私になるかもね?」
「シズはランクⅣなのか?すごいな、さすが隊長。」
ここは適当に知らない振りをしておく。シズのランクを知ったのは昨日の会話を盗み聞きしていたからだし、知らないという体で行くのが自然だろう。
「それに試験の相手がシズならいいな。」
「そうなのかな?」
「シズと剣を合わせるのは楽しそうだしな。それに知らない人とやるよりシズとやったほうが気が楽だ。」
知らない相手と対人戦するなら、色々と観察しなければいけないし、少々手間だ。だがシズであれば、ある程度性格もわかっているので攻撃パターンも予測できる。そういう意味で気が楽だ。
ただシズはアキの言葉をそうは受け取らなかったようで、俯きながら照れている。
「そ、そういう風に言われるのは初めて。」
「そうなのか?俺は結構仲間と模擬戦やるんだけど、シズはそうでもないの?」
「うん・・・私は、その・・・模擬戦するような相手いないから・・・さ。」
どうやらシズは訓練するような相手がいないらしい。何でも同世代の女友達は全員貴族で、戦闘とは程遠い生活をしているのだとか。まあ貴族なら当然そうなるだろう。そして男貴族の知り合いも、大体は父親の仕事を継いだりで、ハンターや兵士になることはほとんどないのだと教えてくれた。つまるところ、シズには訓練出来るような友人がいない。だからアキが「シズとの模擬戦がいい」って言った事に喜んだのだ。
ただまさかそんなところでシズが喜ぶとは思わなかったので、少し焦った。何故なら一歩間違うとエリスの時と同じような事になりかねない。あの時は戦闘中の軽口で「俺の女になれ」と言ったら見事にエリスが落ちた。その二の舞にはならぬように気を付けなければ。
「あ、変な事言ってごめんね!気にしないで!早くお屋敷見に行こうよ!」
そう言うとシズはエル商会の建物に慌てて入っていった。
「まあそれもそうだな、ハンターの事は後でいい。まずは屋敷を買ってからだ。」




