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「アキさんはもう厨房ですわよね?」
ミルナが確認するようにキッチンに続く扉を見る。それに釣られるようにベルも扉を見てしまう。アキはよく話を聞いていたりするので油断ならない。確認を怠るとあとで羞恥に悶えるのは自分達だ。
「大丈夫です。シャルと夕食を作ってくださってます。」
アリアが言うのであれば大丈夫だろう。ただこのメイドは基本アキ側なので、息をするように嘘を吐く。気を抜くとすぐに足元をすくわれる。
「でもなんで今日は誰にも手伝わなくていいって言ったのかな。」
リオナが不思議そうに首を傾げる。
確かにいつもならアリアやセシルがご飯の準備を手伝う。エリスやベルもそれに混ざってお手伝いをしたりする。だが今日は「来るな」と言って手伝わせてくれなかった。ちなみにミルナ達は料理ができないから基本的に手伝わない。
「ミルナ達さ……ちょっとは努力しようよ。」
イリアが呆れ顔だ。昔一緒に旅していた時も料理をしていなかったのだろう。あの時も「覚えた方がいいよ?」と何回も言ったのにとイリアが溜息を吐いている。
「なによ!悪い!?そういうイリアはどうなのよ!」
「普通に出来るよ?女としての嗜みだと思うからね。」
エレンが必死に反論したが、当然の如く返り討ちにされている。そしてミルナ達は「女子力皆無」という事実をあらためて突きつけられ、落ち込んでいる。
「見た事ある光景です。」
「アリステールからミスミルドに旅した時に見ましたね。」
懐かしいですと感傷に浸るアリアとセシル。
「その時の事は知りませんけど、ミスミルドやミレーでも見た光景です。」
「サルマリアでもあった気がするのだ。」
「確かになんか見た事あるわね。」
ベル、エリス、エリザが頷く。
「あはは、ほんと相変わらずなんだね。」
呆れを通りこしてもはや尊敬するレベルだとイリアが苦笑する。
「アキがこのままでいいって言うんだからいいのよ!」
「そうですわ、このままでいいんですの!」
エレンとミルナの言い訳にソフィーやリオナも「そうそう」と頷く。
「相変わらずだね。でもそれがミルナ達ぽいかな。」
イリアが苦笑しつつそれでこそミルナ達だとどこか楽しそうだ。きっとアキも同じ気持ちなのだろう。だから彼女達に無理に料理を覚えさせようとしない。今のままの等身大の彼女達が一番だと思っている。イリアとアキが考えている事は多分一緒だ。
「まあいいんじゃないかな?ミルナ達はミルナ達で。」
「そ、その通りよ!うん、問題ないのよ!」
エレンがやたらと偉そうだ。よくもまあそんな態度が取れると感心するベル。自分にはとても出来ない。
「あれ?そういやルティアはどこいったのかな?」
そう言えばと部屋を見渡すイリア。さっきまでアキの上に座って話していたのに、気付いたらいない。彼女の隠密性の高さはわかってはいるが、本当に何も言わずにいなくなるから吃驚してしまう。
「そうですわね。アキさんがいなくなったから影に入ったのでしょうか。」
ミルナが首を傾げる。皆も分からないと首を振っている。ただエリスだけは気付いていたようで、そっと厨房の方を指差す。
「ルティアならアキが連れて行ったのだ。というよりルティアが勝手にアキの背中にくっついていたのだ。だからアキはそのまま厨房に向かっただけだな。」
エリスの言葉に全員が「ああ……」と口を揃える。誰しもがその光景を容易く想像できる。ルティアは気付いたらアキの背中にくっついているのだ。
「ルティアはすぐアキに甘えるんだよね。」
「それを許してるアキもアキよ!ルティアには甘いんだから!」
リオナとエレンがどこか羨ましそうな表情を浮かべている。
「でもアキさんは私達にも甘いですわ。」
「そうですね。さっきもなんだかんだ全員を構ってくれました。」
ベルはミルナに同意する。
だがまあそんな事は全員わかっている。アキは1人だけを依怙贔屓しない。全員に対して優しいし、いつも必死に自分達の為に頑張ってくれている。
ただ偶に特別扱いしてくるところがずるい。依怙贔屓はしないが、特別扱いはしてくれる。それがあるからベル達はいいいように扱われてしまうのだ。
「チョロいって思われても仕方ないのかしらね。はあ……おねーさんなのに。」
「仕方ないです。別にアキさんにならチョロくてもいいかなって思いますし。」
エリザとセシルが苦笑いを浮かべる。
そう、気づいたら彼の手のひらで転がされている。「お話」に関してだってそうだ。自分達がお話したいのを察して、ちゃんとさせてくれる。そしてそれに文句言う事なく、みんなが満足するまで嫌な顔一つせず黙って聞いていてくれる。
「一番疲れているのはアキさんのはずです。」
アリアがぼそっと呟く。
確かに彼女の言う通り、今一番頑張っているのはアキだ。ユーフレインで活動するのは色々と気を遣うし疲れるだろう。イリアやルティアは姿を隠して行動しているからアキ程の疲労は無いはずだ。
それなのに彼は自分達にわかりやすくユーフレインの説明をしてくれる。さらには全員を構って、「お話」までも皆が満足するまで付き合ってくれた。極めつけには自分達の食事も絶賛準備してくれている。
「何が『もっと頑張る』ですか。そんな事言ったら私達なんてどれだけ頑張らないといけないんですか。しかもメイドの私よりお屋敷のお仕事しています。本当にアキさんは酷い人です。」
だからこそ大好きなんですけど……とアリアが最後に付け加える。
でも彼女の気持ちはわかる。自分が出来る事なんて彼がしてくれた事やしている事に比べると足元にも及ばない。アキはまだまだ不甲斐ないとか言うが、逆だ。自分達の方こそどうしようもない。
「何もできないからこそ、アキさんの傍に居られるだけでいいって意味なんですけどねー。アキさんはわかってないですー。」
「ソフィーの言う通りですわ。寧ろ私達が見限られるんじゃないかと思いますもの。」
くすくすと笑いながらミルナがソフィーに同意する。勿論アキがそんな事をするはずはない。だがそれを想像すると泣きたくなる。アキが自分達の事を好いてくれているのはわかるが、いつか捨てられるじゃないかと不安で不安で仕方ない。
「だから私達こそ頑張らないとですわ。『お前使えないしもういらない』って言われないようにしませんと。」
ミルナの言葉にソフィー達が力強く頷く。ベルも激しく同意だ。先に惚れたほうが負けと言うが、本当にその通りだと思う。結局自分達は彼が大好きでどうしようもないのだ。
「でもこういう女子会、悪くないですね。」
「ええ、王女様のおっしゃる通りですわ。」
「ミルナさん、もうベルって呼んでくださっても大丈夫ですよ。」
自分の事をベルと呼ぶのはアキだけだ。ミルナ達は「王女様」だし、アリア達は「ベル様、ベル王女様」と呼んでくる。
しかし自分がこんな事を言う日が来るなんて思ってもみなかった。言った後に自分でも吃驚したくらいだ。彼女達に対する仲間意識が芽生えてきたのだろうか。もちろん全員ライバルで、友達ではないけど、同じ人を慕っているという仲間意識は確かにある気がする。もしかしたらそれは下手な友情より強い絆なのかもしれない。
「いえ、やっぱり王女様のままでお願いしますわ。」
だがミルナが遠慮してきた。
ただ別にミルナは「ベル」と呼びたくないわけじゃないらしい。単純にアキのように使い分けをする自信がないから、王女様で通しているだけなのだとか。確かに屋敷の外で「ベル」と自分を呼んだりしたら面倒な事になる。まあその気持ちはわかる。ちょっと残念だが、仕方ない事だろう。
「ほんとみんな仲良しだよね!」
ほのぼのとしたミルナとベルのやり取りを見て、イリアが楽しそうに笑う。
「仲良くないわよ!前アキに怒られたから尊重してるだけよ!」
エレンが昔あったことをイリアに説明する。
そう、少し前、ベルとミルナ達が言い争っていて、その時にアキがものすごく怒ったのだ。だからそれ以来はお互いを尊重して喧嘩するようにしているのだとエレンが偉そうに語る。
それを聞いたイリアは「結局喧嘩はするのか」と苦笑している。
「仕方ないです、みんなアキさんを独占したいんですー!」
「ソフィーの言う通り仕方ないですわ。そのくらい慕ってますもの。でも私、1つだけ気になってる事があるんですの。」
ミルナがちょっとだけ悲しそうな表情を浮かべる。
「もし私達が慕っていますと言ってなければ……今の関係にはなれてなかったかもしれない。それがちょっと寂しいんですわ。」
ミルナやアリア達、ここにいる全員が、自分達の方から側にいさせてくれとアキに言っている。エリザに関してもそうだ。「側にいるか?」とアキは聞いたが「側にいてほしい」とは言っていない。
「私達の我儘をきいてくれただけ……とかだとちょっと悲しいですね。」
確かにベルもそれに関しては少しだけ寂しい。アリア達も言われてみればそうかも……とどこか切なそうにしている。
その時、空気をぶち壊すかのように、話題の人物が乱入してくる。
「そんなことはないぞ、ベル。皆が言わなかったら俺から言ってたよ。」
「えっ……?」
まさかの登場にベルは狼狽してしまう。
「だから安心していいぞ。」
彼は優しい笑みを浮かべてくれるが、そういうことじゃない。
「ち、ちがいます!そこじゃないの!だから毎度毎度……!」
「安心しろ。独り言は聞いてない。女子会を聞いてただけだ。」
「一緒です!アキさんのばか!鬼畜!外道!どこから聞いてたんですか!!!」
本当にこの人は……。いつもいつも乙女の会話を勝手に聞いて。何してるんですか。そしてそれをネタにベル達で遊んでくるのだ。
本当に酷い人。
「さあ?とりあえずご飯にしようよ。」
「うふふ、何をいってるんですか?まずはじっくり私達とお話です。」
でも優しくて大切な大切な人だ。




