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「ふー!満足です。今日はこれで勘弁してあげますー!」
ソフィーが何か偉そうなのでとりあえず殴っておく。
「無言!無言で殴るのはダメです!せめて何か言ってください!」
人がおとなしく「お話」されてやっているのだから少しは慎ましやかな態度を取ってほしいものだ。でもまあ自分達の関係はこれでいい。
ソフィーを撫でてあげると、彼女も嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃあお話も終わりでいいか?」
「あのアキさん……最後に1つ。お屋敷の方はどうなんですか?」
ベルが聞いていませんでしたと遠慮がちに手をあげる。「お話」に夢中で肝心な事を聞き忘れていたと申し訳なさそうにしている。まあ「お話」していて忘れていたのであれば少しは反省しろとは思うが、ベルはちょっと気にしすぎだ。それに屋敷の話をし忘れていたのはアキも一緒だ。
「そうだな、でもその前にベル。」
「はい、なんでしょう?」
「そんな申し訳なさそうにしなくていい。あの駄エルフを少しは見習え。」
「無理です!あそこまで無神経でアホになれません!」
酷い言われようだ。
勿論そんな事を言われてソフィーが黙っているわけがなく、ベルに食ってかかろうとする。だがベルとの話の邪魔になるのでアキがトレーで殴って黙らせておく。
「他人行儀すぎだ。ベルにそこまで気にされるのはちょっと寂しい。」
ソフィーのアレはアキに対する信頼の表れでもある。どんな失礼な事を言っても、どんな態度をとっても、怒られたり嫌われたりしないと信じて疑っていないのだ。ソフィーとはそれだけの信頼関係がある。だからベルにもそうであって欲しい。真似をしろとまでは言わないが、もう少し傲慢でも問題ない。
「ベルの丁寧さは逆に慇懃無礼だと思うよ。例えは極端だけどね。それに俺はベルの事信頼してるしね。ベルはそうでもないの?」
「そんな事ありません!勿論してます!じゃあ……もっと私は我儘になってもいいんですか?」
今でも十分我儘ですけど……と言いそうだったベルだが、その言葉は何とか飲み込んだようだ。遠慮するなと言ったのだからそれでいい。
「うん、いいよ。」
「わかりました。じ、じゃあそうするね?」
滅多に出てこない素のベルだ。むしろアキとしてはずっとこっちでもいいと思う。王女の仮面をつけるのは国務の時だけで十分だろう。
「なら今のを踏まえてさっきの質問してみて。」
アキがそう言うと、ベルはコホンと咳払いを一つして質問を言い直す。
「アキさん、ま、まだ屋敷の事……聞いてません。ち、ちゃんと教えてください!」
いつもは丁寧に尋ねてくるから、こういう言い方は不慣れなベル。言葉を必死に選んでいたし、言い淀んだ。
「大丈夫。それでいいんだ。」
「は、はい。」
まだ丁寧すぎるくらいだが、ベルにしてみれば頑張ったほうだろう。
「屋敷の事だけど、今日は結局見られなかったから明日内覧する予定。」
エルとの一部始終を説明する。イリアとルティアは一緒にいたから説明する必要はないが、ミルナ達にはちゃんと最初から経緯を説明しないとわからないだろう。とりあえずミルナ達に予定通り屋敷を見学出来なかった事を謝るが、それはしょうがないですと理解してくれた。
「結局俺の独断で決める事になる。申し訳ない。」
アキは皆に頭を下げる。だがミルナ達は気にした様子もなく「やれやれ」といった表情だ。
「まったく問題ありませんわ。そうですわね、エレン、リオナ?」
「そうね、ミルナの言う通りよ。なんの問題があるのかわからないわ。」
「だね。アキのお屋敷なんだからアキが決めればいいんだよ?」
ベル達も3人に完全に同意らしく、うんうんと頷いている。アキとしては皆で住む屋敷だから皆で決めた方がいいと思っているのだが……。
「アキといれればなんでもいいのだ。」
エリスが迷う事無く口を開く。
まあエリスを筆頭に、アリア、セシル、ルティアは従者的立ち位置の子達だからそれでいいのかもしれない。でもベルやミルナ達は何か意見があるのではないだろうか。屋敷にこだわりがあるのであれば言って欲しい。
「ないですよー?アキさんと一緒にいれるなら別に屋敷なんてどうでもいいです。その辺の馬小屋でも私はへーきです。」
ソフィーがさらっととんでもない事を言う。
何をバカな事を呆れるが、「何当然の事聞いているんですか?馬鹿です?」と罵られた。どうやら本気で言っているらしい。そしてミルナ達も「何当たり前の事を」と呆れた表情を浮かべている。
「え、それまじで?」
「はい、まじですよー?」
この子達が自分の事を慕ってくれているのはわかっている。それは嬉しい事だし、身に余る光栄だ。でも優雅な暮らしがしたいとか、美味しい物を食べたいとか、こんな屋敷に住みたいとかの希望はあると思っていた。でもそんなものは一切ないらしい。どんな生活レベルでもいいからアキがいてくれればいい。そう言ってくれているのだ。
「えー……。」
「何が不満なんですか。そう思うのはダメなんですかー?」
アキの不満そうな返事にソフィー達も不満そうだ。
別に彼女達のに文句があるわけではない。それだけ想ってくれているという事でそこに感謝はあっても不満はない。
「俺はまだまだだなって。」
ただ自分の不甲斐なさに納得出来ないだけだ。
「その気持ちだけで十分ですから。それに私達が勝手にやってる事ですから気にしないでくださいませ。」
別にこれ以上頑張らなくていい、今のままで十分だとミルナは言ってくれる。
でもそれは嫌だ。アキにとって頑張るのを止めるという事は停滞を意味する。後悔したくないから自分に出来る精一杯の事はしたい。胸を張って「俺は頑張った」と言えるようにしていれば、どんな未来になっても後悔は残らないからだ。
例えば、もしミルナ達がアキを見限る日が来てしまったとしても、頑張っていたのであれば後悔はない。自分では彼女達に見合わなかったのだと諦めもつく。だが頑張らずに皆の優しさに胡坐をかいていただけだったら、それはもう後悔しかないだろう。何故そうなる前に自分は頑張らなかったのかと自問自答する事になる。
「だから頑張るのはやめない。」
「アキさんを見限る事がまずありえません!」
ベルの言葉に全員が「そうだ、そうだ」と声を揃える。
「だからそう言う事じゃなくて。」
これはあくまで例え話でアキの言いたい事はそこじゃない。
「アキさんの言いたい事はわかってます。でもそこだけは絶対否定したいんです。」
「なるほどね、まあじゃあお互いこれからも頑張るって事で。」
「ふふ、そうですね、そうしましょう。」




