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「最後に氷姫の噂についてだな。」
この話が終わったら、明日の予定を少し話して今日は終了だ。
「ルティア、伸びしたいからちょっとどいてね。」
アキは起き上がる為、上に座っているルティアを一旦どける。
「うん、ごめん。」
「ミルナもありがとね。」
「ふふ、またさせてくださいませ。」
やっと膝枕から解放されたので、アキは伸びを何度かする。
しかしよくもまああんな真剣な話を寝転がってしていたものだ。ミルナ達的には「アキさんは疲れてるのだから当然です」との事らしいが、何か釈然としない。本当にそれでいいのか。
だがもうここまで来たら最後までそうしてもいいだろう。
「アリアちょっと来て。」
「なんでしょう?」
ミルナに席を空けさせ、アリアを無理やり座らせる。そして今度はアリアに膝枕して貰う事にする。
「な、なんですかアキさん。急に。」
アリアが頬を染めて慌てている。変態な事は平気で要求してくるのに、何故かこういうスキンシップは恥ずかしいらしい。変なところで初心なアリアだ。
「偶にはアリアがいい。駄目か?」
「べ、別に大丈夫です。しょうがないご主人様ですね……」
優しく微笑んでくれるアリア。
やはり彼女の笑顔はソフィーに劣らないくらい可愛い。普段仏頂面だから尚更そう感じるのかもしれない。昔に比べれば、アリアは大分表情が豊かになった。うちの子達に比べればまだまだ喜怒哀楽は乏しいが、それでも最近はよく笑う。
「じゃあルティア。」
「ばっちこい。何でも聞いて。」
ルティアがいつの間にかアキの上に座っている。油断も隙も無い。本当にこの子は良い意味でも悪い意味でもブレない。
「それで氷姫の噂ってどういうものなんだ?なんか面白い事をやってるとか言ってたけど。」
昨日始末した盗賊連中は、氷姫の異名を持つエヴァグリーン王女の要求に応えたら何でも願いを叶えてくれると言っていた。エヴァグリーンの為政者に接触すると決めた以上、氷姫は使えるかもしれない。勿論、その要求が無理難題なのであれば挑戦する価値はないが。
「ちょっとまって。」
そう言うとルティアはポケットからくしゃくしゃの紙を取り出す。やはり彼女に綺麗に折りたたむという概念は存在しないらしい。まあそういう無頓着なところがルティアの愛嬌だ。
「えっと……王女を楽しませたらいい。」
「それだけ?」
「それだけ。」
さすがにそれだけではよくわからない。ただルティアにメモを見せてとお願いしても、駄目と言って隠してしまう。結局ルティアに質問して情報を引き出すしかないようだ。
「うん、じゃあとりあえず異名から行こうか。名前はユーリロキサーヌだったよな。なんで氷姫なんて名前で呼ばれているんだ?」
「笑わない。怒らない。悲しまないから。」
つまり喜怒哀楽がないと言う事か。氷のように表情が変わらないから氷姫。どうやら一癖も二癖もある人物のようだ。
さてどうするか。
「落とすんですね?」
「色々とフライングすんな。結論が早い。」
アリアが間髪入れずに余計な事を言って来たせいで部屋の空気が氷点下じゃないか。しかもイリアまでもが何故か不機嫌そうな表情をしているし。何なんだ。
とりあえずルティアの説明を簡潔にまとめると「王女を楽しませて感情を引き出せ」という事らしい。「楽しませろ」と要求に入っている事から、喜怒哀楽の喜を望んでいると考えられる。まあ無理難題ではないが……挑戦するべきだろうか。そもそもそれをする価値が果たしてあるのか。
「アキさんなら出来きますー!」
「ん?なんでソフィーはそう思うの?」
「だってアリアさん今ではすごく笑いますから!」
なるほど。確かにそうだ。
ソフィーの言う通り、ブランという貴族に仕えていた時は、本当に仏頂面で全く表情が動かなかったアリア。ソフィーとミルナは依頼を受ける際、アリア会っているので、昔の彼女をよく知っている。だから今のアリアを見て余計そう思ったのだろう。さっきもアリアはよく笑うようになったとアキ自身思った事だし、ソフィーの考察はきっと正しい。
「アリアはどう思う?」
膝枕してくれているアリア本人に尋ねてみる。
「あ……えっとその……もしソフィーさんの言う通り、私が笑ってるのだとしたら……きっとそれはアキさんのおかげで毎日が楽しいからです。」
照れているのか、少し顔が赤い。だがこの表情をする時点でソフィーの言う通りだ。
「俺は特別な事は何もしてない。」
アリアと接点を持ったのは、ミルナ達の為だ。彼女を利用する必要があったから助けただけ。だから別に感謝される事ではない。
「そんなことはありません!例え私を利用する為だったとしても、結果的には私は助かりました。それは紛れもない事実です。そして新しい人生を頂きました。それだけでも十分なのに……こんな私を凄く大事にしてくださいますし、ずっとお側においてくれています。」
だから……とアリアが穏やかな声で静かに呟く。
「私は今、笑えているんだと思います。」
最高の笑顔を浮かべるアリア。
「そうか。」
もしこの表情を引き出したのが本当にアキなのであれば、それは光栄な事だ。たださすがにちょっと照れ臭い。アキはアリアからそっと視線を逸らす。
「まあアリアが笑うようになったからと言っても、ユーリロキサーヌ王女に挑戦するかはまだ決められないな。」
うちの子達が「何故?」という顔をしている。
確かに氷姫は為政者とのつながりを作れる切欠にはなるかもしれない。ただ失敗すれば、今後接触しにくくなるというデメリットもある。王女の好感度を下げる事になってしまう。だから現段階では氷姫を利用するか決めるには、情報が圧倒的に足りない。
「そうだな……何故そんな事をしているのかまずは知りたい。」
ユーリロキサーヌが何故そんな挑戦を受けているのかを知る必要は絶対にある。そもそもこの依頼をしているのが本人なのか、それとも王や王妃なのかでも見方は大きく変わってくる。親である国王が本人の意思を無視してやっているのであれば、正直手を出すべきではないだろう。氷姫自身そんなこと望んでいない可能性だってあるし、失敗すれば国王からも反感を買うかもしれない。だが本人が自らの意思で「私を楽しませてみなさい」と言っているのだとしたら、挑戦してもいいとは思うが。
どちらにしろそんなイベントを開催する愉快な王族である事に変わりはない。アキとしては下らない理由でない事を願うばかりだ。のっぴきならない理由があってやっているのであればまだいい。もしただの道楽でやっているのなら、エヴァグリーンの為政者に接触する気が失せる。
「国の治安も経済も安定してないのにそんな事している王家だからな。」
「なるほど……アキさんの気持ちは痛いほどわかります。」
本当にそんな王家だったらどうしましょう……と言った表情のベル。
「性格が悪い王女で、暇つぶしでやっているとかじゃないといいんだが。」
ただただ暇を持て余していて、平民に無理難題を押し付け遊ぼうと考えているだけとかなら最悪だ。まあその場合は氷姫への接触は諦めるが。触らぬ神に祟りなしというやつだ。それにもしそんな王家なら、逆に接触する意味はないだろう。そんなことをしている王女なんて碌な人間ではないし、そんな行動を許している王家にも価値はない。
「その場合は革命でも起こして王家転覆させるしかないかな?」
「為政者が腐っている場合ですね。そんな王家なら……さっさと潰れればいいんです。」
ベルが口を尖らせて断言する。
民の為の君主なのにその責務を放棄して好き勝手しているのが彼女には許せないらしい。相変わらずうちの王女様は真面目で潔癖だ。
「アキさん、許せる理由というのはどういう場合でしょうか?そんな理由ありますか?」
ベルは思いつかないのか、首を傾げる。色々自分でも考えてはみたが、どう考えても腐りきった王家という結論にしか辿り着かなかったようだ。
「笑い合える友人が欲しい。楽しい事がしたい。と思っているとかかな?ベルやステラだってそうだっただろ?」
「あ……そ、そうですね。」
ベルが恥ずかしそうに頷く。
過去の自分を思い出したのだろう。
氷姫がベルと同じような理由でこれをやっているのであれば挑戦してもいいと思う。仏頂面の統治者より笑顔で民に寄り添う統治者になるほうが絶対にいい。他にも、「楽しませろ」という要求はあくまで建前で、本当は民の声を聞く為に場を設けているとか色々まともな理由は考えられる。
「そうであってほしいけどな。革命とか面倒だ。」
「アキさんなら容易に出来ると思いますが?」
アリアがさらっと呟く。だがそう言う事じゃない。
「仮にそうだとしても、単純にユーフレインの情勢にそこまで関わりたくないんだよ。出来る出来ないの話しじゃないって。」
ユーフレインには進むべき道を示唆するだけにしたい。深く関わり過ぎると、色々と巻き込まれるだろうし、程々にしておきたい。それにアキみたいな別世界の異分子が介入しすぎても、状況を悪化させてしまうだけだ。
「面倒なお願いしてごめんね、アキ。」
イリアが申し訳なさそうにしているが、別に彼女のせいではない。彼女のお願いを叶えると言ったのは自分なので自分の責任だ。
「ちゃんとやり遂げるさ。」
「うん!じゃあとりあえず氷姫の事をもっと調べるって事かな?」
「そうだね、それは明日シズに聞いてみるよ。王家に仕える騎士なら王女を目にする事もあるだろ。だからある程度の事はわかるんじゃないかな。」
シズとはある程度仲良くなれたはずだ。それにエヴァグリーンの事は何も知らないと印象付けてあるので、何を聞いても怪しまれない。
「その後に氷姫の件はどうするか決めよう。」




