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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 ユーフレイン
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 とりあえず説明を続けよう。


 ルティアから聞いた話を纏めると、ユーフレインは基本的にどの国も君主制国家。そしてイリアが以前持ってきてくれたユーフレインの世界地図通り、国は全部で10ヶ国ある。ベルフィオーレとは違い国数も多い。まあこれは戦争の結果だ。内乱や政治的思想の食い違いで独立に独立を繰り返し、現在の形になったというわけだ。ちなみに各国の歴史は結構似たり寄ったりで、地域の特色はあるもののそれほど大きな違いはない。


 各国の歴史については必要な時にまた調べればいいだろうから今は省略する。


「エヴァグリーンについては歴史も話しておこう。今俺達がいる国だしね。」


 アキ達が転移で辿り着いた国はエヴァグリーン王国。その歴史は300年程前まで遡る。古い国は1000年以上の歴史を持っていると考えると、エヴァグリーンはどちらかというと新生国家だ。昔は隣国の一部だったが、独立戦争が起こり、300年程前にエヴァグリーン王国が成立した。独立戦争の訳は、為政に不満を持った者達が革命を起こしたというよくある理由だ。そしてその時の革命軍のリーダーだった男がエヴァグリーン初代国王となり、以後は世襲制で君主が引き継がれている。


 世襲制なのはエヴァグリーンだけでなく他の国も同じ。基本的に国の名前は初代国王の家名から来ており、現在どの国も国名=王の構図。これはベルフィオーレと一緒の部分だ。例えばうちの王女様であるベルのフルネームはアイリーンベル・エスぺラルドであり、国の名前はエスぺラルド。つまり国の名前さえ知ってしまえば、その国の王の名前がわかるという事になる。アキからしてみれば余計な事を覚えなくていいのでこのシステムは非常に楽だ。


 さてそんなエヴァグリーン国王だが、名前はクレミスフラミリラム・エヴァグリーン。現在、5代目。王家の構成は、王妃、第1王女、第1王子。そうなると次期王はてっきり第1王子になるのかと思ったのだが、ルティア曰く、どうも違うらしい。どうやらエヴァグリーンでは必ずしも王子が王位を継いで国王になるわけではなく、女王の時もあるそうだ。実際史実ではエヴァグリーン2、3代目は女王だったらしく、誰が実際に王位を引き継ぐかは、その時の君主の判断という事なのだろう。


「で、噂の人物である氷姫様はその第1王女というわけか?」

「そう。名前はえっと……ユーリロキサーヌだった。」


 ややこしい名前だ。王族ともなれば長くて覚えづらい名前というのが様式美なのだろうか。地球でもそういう傾向にあったし、ユーフレインでも同じなのかもしれない。実際、王も「クレミスフラミリラム」と言うだけで噛みそうになる名前だ。それと比べると、アイリーンベルことうちのベルはわかりやすい。まあベルフィオーレの王族はほとんどが簡潔な名前だったので、伝統的にそうなだけなのかもしれない。サルマリア王女のステラはステラベルだし、ミレーの女王であるアイリスなんてそのままだ。


「とりあえずその噂話は後回しで。」


 今は情勢についての話が先だ。大まかな歴史は話せたので、次は現在のエヴァグリーンについてミルナ達に説明する。


「他国の事も気になるが、今俺たちがいるのはエヴァグリーンだからね。」


 他国の事は必要になったらまた色々調べればいいだろう。


 まずはエヴァグリーンからだ。


 そんなエヴァグリーンは大陸中央に位置している国であり、四方を他国に囲まれている。世界地図を元にルティアが説明してくれたのでわかりやすかった。ちなみに国土の面積は不明。尺度がないのでルティアでも調べる事は出来なかったそうだ。「隣国と同じ大きさ」みたいな情報はあったらしいが、そもそも隣国の大きさもわからない。まあこれは冒険してればそのうちわかるだろうし、さほど重要な問題ではない。


 そして王都はイニステラ。エヴァグリーン最大の街で、当然人口も1番多い。エヴァグリーン王家が、イニステラの中心部に聳え立つイニステラ城を本拠地としている事も特色の1つとしてあげられるだろう。そして街は様々な商店や工場が入り混じった形で存在しており、ミスミルドやレスミアのように秩序よくは作られていない。まあ富裕層が住む地域など、多少の地区分けはあるようだが、その程度だ。おそらくシズがお薦めしてくれた屋敷はそういったとこにある屋敷なのだろう。


「治安についてはもう言うまでもないだろうから省略する。ただその原因については少し話しておこうか。」


 犯罪率の高さの原因は貧富の差に起因する。その格差があまりにも顕著であるが故、犯罪に手を染めるものが後を絶たない。


 ではそもそもその格差は何故起きているのか。ユーフレインの治安改善を目指すのであればまずはそこを理解する必要があるだろう。


 ルティアが調べてくれた情報によると、貧困の1番の原因はやはり戦争。現在は大規模な争いはしていないらしいが、毎年どこかで何からの小競り合いはあるらしい。様々な国が争いを仕掛けては休戦を繰り返している。きっと他国に自分の国の力を誇示するのが目的なのだろう。だが小競り合いにせよ、ひとたび戦争が起きれば、犠牲は必ずでる。村が地図から消える事も普通にあるだろう。家族を失う、家を失う、仕事を失う。どれも貧困層に落ちるには十分な理由だ。


 一応穏便派の国家も一定数いるらしいが、過激派も多いので、中立という立場は許されないのだとか。まあそれも当然だ。攻め込まれたら国としては抵抗しなければいけない。だからどの国も軍隊を持っているし、必然的に争いごとに時間を費やす事になる。国によっては徴兵制度もあるようで、それが切欠で貧困層に落ちる事もあるらしい。理由は言うまでもなく想像に容易い。後遺症の残る怪我を負ったりしたら、仕事は解雇されるだろう。資材などを軍隊に無償提供させられ閉業に追い込まれる商会だってあるに違いない。


 しかし例え戦争があっても、国の対策がしっかりしていれば、貧困層に落ちる事もないはず。落ちたとしても救済処置を行えばいい。だがユーフレインでは1回その身分まで落ちてしまうと基本的に抜け出すことは不可能なのだとか。


「国内の経済も安定してないからだろうね。」


 国内の秩序が保たれていないのに、他国と戦争をしているのだからそれもまあ当然だ。自国の治安回復、犯罪対策、貧困層に対する支援など、やることは山積みだが、どれも手が回ってない。しかし自国にばかり目を向けていれば他国が攻めてくる。そして他国と戦争すれば、自国の秩序がさらに乱れる。見事な悪循環の完成だ。


 国民も貧困層に落ちたら抜け出せないとわかっているから、他人を蹴落としてでも、見捨ててでも、自分の身を守る。逆に落ちた人達は生きていく為、抜け出す為、犯罪に手を染める。そして誰も自己を犠牲にしてまで他人を救済しようとしない。こちらもこちらで悪循環の完成だ。


 最初は愚王だから、こんな状況に対して何も改善策を打っていないのだと思った。だがエヴァグリーンに関しては、何もしてないわけではないらしい。ルティアの調べによると、エヴァグリーンは色々な改善対策を打ち出しては撤廃してを繰り返している。例えば、貧困層に対する税率を下げ、市民の負担を減らす。だがその結果、政策資金が足りなくなり結局税率を戻す。まあ何もやらないよりはましかもしれないが、悪手だろう。市民の反感を余計に買うだけだ。


 つまり他国はともかく、エヴァグリーンに関して言えば、為政者はなんとかしようと自国の改善に取り組んではいる。だが上手くいっていない。愚王ではないが賢王でもないと言ったところだろう。


「うーん、善人なのかな?ルティアはどう思う?」

「そうかも?そうでないかも?」


 首を捻るルティア。


 国王が色々頑張ろうとしている事は国民は一応わかっているらしい。ただ上手くいってないから無能の烙印を押されているんだとか。為政者の性格までは調べられてないので、善人かどうかはわからないらしい。


 まあエヴァグリーンの国王は統治をする気はあるとわかっただけでもいい。ただそれが善政か悪政かはわからない。現状がそもそも破綻しているので、統治者の心の内までは実際に会ってみないと何とも言えないだろう。


「他の国はどうなのかな。」


 ルティアから聞いた話はあくまでエヴァグリーンに関してだけ。さすがに他国の事までは調べられなかったようだ。


「言い忘れてたっ。他も似た感じ!」


 忘れてただけとは……。なんともルティアらしくてちょっと和む。


 ちなみに他国の王政も似たり寄ったりらしい。色んな政策をやろうとはしているが、上手くいかなくて頭を抱えている。何でもこの手の噂話は市民の間で人気の酒の肴らしく、ルティアが調査するまでもなく勝手に耳に入って来たんだとか。


「エヴァグリーンの王家は穏便派?過激派?」

「多分穏便派……だと……思う。」


 ルティアが難しそうな顔で答える。


 噂話からの推測なので確証はないが、彼女の予想だと穏便派らしい。それなら多少は人の話に耳を傾けるタイプの国王だろう。過激派だと話すだけでも骨が折れるのは間違いない。いずれはそういった国家と対面するかもしれないが、初手であるエヴァグリーン王家は扱いやすい部類である事を願うばかりだ。


「不幸中の幸いか、ユーフレインは聞いていたより世紀末ではないね。人の心が残っている人も結構いるし、これならなんとかなるかもね。」

「はい、そうだといいですね。」


 ベルが静かに頷く。


 彼女は立ち位置的には統治者だ。王女として色々と思うところがあるのだろう。こういう話をする際、アキやミルナ達とは捉え方がいつも少し異なる。


「ほんとベルフィオーレの為政者を見習ってほしいよ。」

「それは違います。そんなことないです。お父様、いえエスぺラルド国王が賢王かと聞かれると……多分違います。他国もそうです。」


 ベルフィオーレの王族は善人かもしれないが賢王ではないとベルが呟く。魔獣政策があったから犯罪もなく平和なだけだと。つまり王として何もしてない。ただ国の象徴として存在するだけ。


「これからいい王になればいいだけだろ。ベルが気にする事じゃない。」

「そ、そうですね……。」


 ただベルの表情はまだ暗い。少し励ましてやろう。


「でもベルは優秀な王女様だと俺は思うぞ。統治者としての自覚はあるし、民の事をちゃんと考えてる。やっぱり俺の王女様は凄いな。」

「そ、それはアキさんが一緒にいてお手伝いしてくれるからで……。」

「いいや。ベルは凄い。なんてったって腹は真っ黒なのに下着はパステルカラーだからな。これからベルの通称は『淡彩賢美王女のアイリーンベル』にしよう。」


 賢くて美しくてパステルカラー。全てを網羅した素晴らしい通称だ。きっとエスぺラルド国民は泣いて称えるに違いない。


「な、何を言ってるんですか!?ばかですか!?淡彩要素を入れる必要がどこにあるの!?称えられませんから!むしろ全世界に恥を晒す事になるだけですから!」


 一気に元気になってくれた。やはりうちのベルはこうでないと。


「これはこれは、失礼しました。アイリーンベル王女殿下。」

「ベール!ベル!もう知らない!ふんっ!」


 ただ最後の一言で、すっかり拗ねさせてしまったようだ。結局一番不機嫌になるのは、ベルをフルネームで呼ぶ事らしい……。いいのかそれで。


「でも……そういうとこが可愛いな、ベルは。」 

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