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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 ユーフレイン
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17

「アキさん、おかえりなさいです!お話ですー!」

「だからなんでだよ。」


 ベルフィオーレに帰還して早々ソフィーがお話モードだ。まだ何の説明もしてないのに。というか「おかえり」すら言われてない。


「私の『お話探知機』が反応してるからですー!」

「だからそんな訳の分からない物は捨ててこいと言っただろうが。今すぐ庭にでも埋めてこい。」

「えー!」

 

 頬を膨らませるソフィー。


 拗ねたいのはこっちだ。ユーフレインで頑張ったのに、労いの一言も言って貰えない。もうこの駄エルフごと庭に埋めてやろうか。


「アキさん、おかえりなさいませ。」


 アキが溜息を吐いていると、うちの王女様が笑顔で出迎えてくれた。


「うん、ただいま。ありがとう、ベル。」


 ソフィーとは違い、ちゃんと労ってくれた。勿論ベルだけでなく、他の子達も口々に「おかえり」と言ってくれる。


 これだよこれ。おかげで疲れが取れる。


「アキさん、珍しくお疲れですね?先にお風呂いかれますか?」


 さすがアリアだ。自分の事をよく見ているし、よくわかっている。


「うん。街に潜入したりで1日気を張りっぱなしだったからね。お言葉に甘えて風呂にするよ。いつもありがとな、アリア。」

「当然です。ではお話はお風呂から出てからですね。」


 アリアがさらっと酷い事を言ってくる。お疲れでしょうと心配してくれたのはなんだったのか……。


 すると今度はミルナがくすくすと笑いながら近づいてきた。


「それとこれとは別ですわ。アキさん?心当たりありますわよね?」

「……まだ何も説明してないんだが?」


 何とか誤魔化せないものか。


「そんなのイリアとルティアの表情見れば何があったかなんて大体わかるわよ!アキ、覚悟しなさい!!!」


 エレンがビシッっと指を差して指摘してくる。どうやら誤魔化すのは無理そうだ。ちなみにリオナ、セシル、エリスもにこやかに笑っているが、さっきから静かに威圧してくる。


「……とりあえず風呂に行く。それからエリザを呼び戻す。話はその後にして。」

「はい。シャルが風呂の準備しておりますので。いってらっしゃいませ。」


 アリアが外套を脱がせてくれる。さらには月時雨やオリハルコンも外してくれた。さすがだ。うちのメイドの所作には無駄が一切ない。


「ありがと、アリア。」


 自分で出来るからと、こういう世話はずっと断っていたのだが、その都度アリアが凄く悲しそうな顔をするので、最近はもう彼女の好きにさせている。


「はい。」


 嬉しそうに微笑むアリア。


 やはり彼女は根っからのメイドなのだろう。普段仏頂面の彼女がこれ程嬉しそうにするのはアキの世話をする時くらいなのだから。







「ではユーフレインでアキさんが見た事、教えてください。」


 早く聞きたいですとベルが身を乗り出してくる。


 少し前に風呂から出て、エリザの事も先ほどミレーから呼び戻した。今はみんなでリビングに集まり、いつも通り夜の団欒しているところだ。


「それはいいんだけど、なんでこの体制なんだ?」


 何故かミルナに膝枕されている。というか無理やりさせられた。


「アキさんがお疲れだからですわ。駄目ですか?」

「別にいいけど話をする体制ではないよね。」

「特別ですわ。」


 もう何を言っても無駄だろうしミルナの好きにさせよう。それに今更退いたら泣きそうだ。ミルナは泣き虫だからな。


「さて……どういう形で報告するのがいいかな。俺もルティアの報告はまだ全部聞いてないんだよね。」

「そうなんですね。それでしたらアキさんが決めてください。」


 お任せしますとベル。


「そうだな……」


 わかりやすい方法としては、先ずルティアに報告して貰い、それからアキの報告をする事だ。ただ口下手なルティアは、こういう話を主体でするのは苦手だ。それならアキが彼女から情報を巻き取って、皆に改めて説明するのが一番だろう。


「俺が質問するからルティアは答えて。」

「わかった、任せて。」


 可愛らしくガッツポーズするルティア。


 ちなみにルティアは、アキのお腹の上にちょこんと座っている。別に重くないからいいんだが、傍から見たら凄い体制だ。ミルナ膝枕されているアキがいて、その上に座っているルティア。もうどう考えても話をする格好ではない。


 そしてうちの子達も何か言いたそうな顔をしているが、ルティアには何を言っても無駄だとわかっているので、全員口を噤んでいる。それに変に噛みつくと、すぐに秘密を暴露され、自分達が火傷する。さすがのミルナ達も学んだようだ。


「順番は……そうだな、街の情勢からにしよう。俺も直接イニステラを見てきたわけだし、それがいいだろう。」


 アキはミルナ達にイニステラで見てきた事を話す。格差社会で貧富の差が大きい事やそれを起因とした犯罪が多かった事を説明する。


「イニステラの人は極力他人に関わらないようにしていたよ。」


 もちろん家族や友人等、信用できる人との交流はするだろう。関わらないというのはあくまで他人との話。身分の違う者や生きてく上で関わる必要がない者といった見ず知らずの人とは極力距離を置いている感じだった。


 これも面倒ごとに巻き込まれない為の防衛策だ。変に手や口を出すと自分の身に火の粉が降りかかる可能性がある世界だから仕方ないと言えば仕方ないが。


「ベルフィオーレを優しい世界と例えるならユーフレインは冷たい世界だね。」

「なるほど。あの……参考までにアキさんのいた世界はどうなんです……?」


 ベルが申し訳なさそうな表情を浮かべている。アキの昔話を聞いて、大泣きしていたくらいだ、きっとアキが地球でいい思い出を持っていないのを気にしてくれているのだろう。


「俺のいた世界は中間くらいかな。国によって情勢が大きく違ったからユーフレインのような場所もあればベルフィオーレのような場所もある。俺がいた国でいうとベルフィオーレ7、ユーフレイン3くらいの割合じゃないかな。」


 あくまでアキの感覚だ。基本的に日本は優しい世界だが、冷たい部分も当然ある。


「……そうなんですね、べ、勉強になります。」


 やはり申し訳なさを完全に拭えないのか、ベルの表情が少し暗い。


「ベル、そういうの気にしなくていいから。わかったな?」


 そっと彼女を撫でてやる。


「は、はい。えへへ、ありがとう。」


 目を細めて嬉しそうに返事をするベル。


「話を戻すけど、ユーフレインはそういう場所。」

「なんか寂しいね。」


 リオナが尻尾を悲しそうに揺らしている。


「リオナ、そんな悲観的になる必要はないよ。ユーフレイン自体はそこまで捨てたもんじゃなかったよ。」

「そうなの?」

「うん、自分が巻き込まれない為、他人と関わろうとしてないだけ。助けたい、可哀そうって感情は見え隠れしてたからね。本心では何とかしたいって思ってる人も結構いると思うんだ。」


 人が腐ってしまっている世界ならどこから手を付ければいいのかわからない。でもまだ人としての感情が残っているそんな世界なら、きっと何とかなる。


 それがイニステラを見たアキの率直な感想だ。


「やはり為政者にちょっかいを出す必要がありそうだね。ユーフレインを変えるのであれば、それは避けて通れなさそうだ。」


 と言う訳で、先ずは為政についてルティアが調べた事を確認する。さすがに街をうろついていただけのアキではそこまではわからない。


「為政関連の質問をしていいか?」

「うん。だいじょうぶ。」


 ルティアが「何でも聞いて」と可愛くガッツボーズしてくれる。






「アキ、どういうことなの!説明してよね!」


 エレンが教えなさいと偉そうに言ってくる。


 結局あれから30分くらいルティアと為政について問答した。大方彼女が調べてくれた事は聞き出せた。ただそれをずっと隣で聞いていたはずのエレンは全くわからなかったらしい。


「なんでそんなに偉そうなんだよ。」

「う、うるわいわね!いいからさっさと教えなさいよ!」


 まあわかっていないのはエレンだけじゃないが。さすがにベルとエリザは理解しているようだったし、ミルナ、セシル、アリアも何とか大丈夫そうだ。ただソフィー、エリス、エレン、リオナは壊滅的に分かっていなさそうなので、改めて説明してやる必要がある。


「わかりやすく説明するから安心しろ。よしミルナ、行け。」


 とは言え説明するのも手間だし、ここはミルナにお願いしよう。


「ま、待ってくださいませ。なんで私なんですの?」


 穏やかな口調で答えるミルナ。だがどこかたどたどしく、笑顔は引き攣っていらっしゃる。膝枕しているアキの頭を撫でる手も少し震えている。


 どうやら口が裂けても「出来ない」とは言いたくないらしい。ものすごく怖い目付きで「私に振るな」と脅迫してくる。


 だが勘違いしないで貰いたい。アキはミルナにチャンスを与えているのだ。


「お姉さんの威厳を回復させたいといつも言っているじゃないか。ミルナはポンコツじゃない、かっこいい知的なお姉さんだと言う事を皆に教えてあげなさい。」

「こ、ここは私が説明するよりアキさんのほうが適任だと思いますわ。ええ、もちろん私も当然、当然説明出来ますが、アキさんのほうがいいです。絶対いいですわ。」


 自分はわかっているけどしないほうがいいという理由で何としても押し通したいらしい。誤魔化すのが下手糞すぎて逆にバレバレなのに。


「ミルナ、痛いんだけど。」


 アキの頭を撫でていたミルナの手に思いっきり力が込められている。


「……そうですか。」


 文句を言ってみたが、無視された。


 ミルナを見上げると、目にさらに殺気が込められている。間違いなく「ここで私を苛めますか、そうですか。お話ですわ。」と言っている。


 酷い話だ。


 最近ミルナがやたらと「お姉さんの威厳」に拘っているので、アキはその切欠を作ってあげただけなのに。だからこれは優しさなのだ。


「やめてよ……ばか……。あんまり苛めると泣くんだからね。」


 ミルナが小声で耳打ちしてくる。そんな彼女がちょっと可愛い。まあさすがにちょっと苛め過ぎたか。アキも悪かったと小声で囁く。


「アキ!ミルナといちゃついてないで早く説明しなさい!後ミルナ!あんたがわかってない事なんてもうバレてるんだから諦めなさい!」


 アキとミルナの様子を見ていたエレンが叫ぶ。


 2人でひそひそ内緒話をしていたのが気に入らないのか、エレンが茶々を入れてきた。まあ当然エレンだけでなく、ミルナが知ったかぶりしている事なんて全員がわかっている。


「な、何言ってるんですの!?私はちゃんとわかってますわよ!」


 往生際が悪いミルナ。どうやら最後の最後まで足掻くらしい。


 もう面倒なのでその「最後」の芽も早々に摘んでしまおう。


「エレン、悪い。おっぱいお化けはよくわかってないらしいから俺が話すよ。」

「ちょっと!?今の、今の内緒話!!!何のためにしたんですの!後その最低な渾名は金輪際一生使わないでくださいませ!!!」


 ミルナが文句を言ってくるが、膝枕の状態でミルナを見上げると胸がしゃべっているようにしか見えないのだから仕方ないだろう。しかし律儀にちゃんと突っ込んでくれるミルナはさすがだ。


「しりません!ばか!」

「まぁ……ごめん、ちょっと遊び過ぎた。ミルナは頼りになるお姉さんだよ。みんな知ってる事だから安心しろ。」


 アキと合流するまでのミルナは立派なお姉さんをしていたのだからそんなのは当たり前の事だ。ソフィーやエレン達もそんな事はわかっているだろう。


「俺がミルナを構いたかっただけだよ。悪いな。」

「もう……特別に許しますわ……」


 ミルナが仕方ないアキさんですわとどこか嬉しそうに笑う。

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