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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 ユーフレイン
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 イニステラの街はミスミルドやレスミア同様平原に位置しており、辺りは森に囲まれている。やはり見通しの良い場所に街を作るのが定石なのだろうか。


 ただイニステラの雰囲気は外壁のせいでまだよくわからない。ある程度高い建物や王城であろう城は見えるが、その程度だ。ただ街の外からでもはっきりとわかる事が1つある。イニステラはエスペラルドの王都であるミスミルドに非常に酷似しているという事だ。


「文明もベルフィオーレと同等程度の可能性が高いな……。やはりここは異世界ではなくベルフィオーレと同じ世界か……?」


 アキは独り言のようにつぶやく。


 勿論断定は出来ないが、今までの状況を鑑みるに、その可能性は極めて高い。イニステラがベルフィオーレの街の1つだと言われてもなんら違和感ない。そもそも異世界であればそのあたりに違いは必ず現れる。「やはりベルフィオーレとは違うな……」そう感じる事があってもおかしくはないのに、ユーフレインへ来てから、そう思う事が一度もないのだ。


 そんな考察をしていたら街の正門付近に到着した。


 正門は途切れる事なく人の出入りがあり、そこそこ活気がある。街の外へ出ていくのは貿易商人や魔獣討伐を生業としているハンター達だろうか。


 アキとイリアは特に隠れたりする事なく、正門の真横で様子を伺っている。だが誰かがこちらに気づいた様子はない。


 光学迷彩が問題なく発動しているという事だろう。


「イリア、話すときは小声でな。」

「う、うん……。」


 繋いでいた手を引き寄せ、抱きしめるようにしてイリアの耳元で囁く。このくらい声量であれば街の喧騒がかき消してくれる。


「嫌かもしれないけど我慢してくれ。」

「ううん……大丈夫だから。その……恥ずかしいだけだから。」


 俯いているから表情は見えないが、イリアの耳が赤くなっているので、彼女の言う通り本当に照れているだけなのだろう。


「とりあえず気づかれてないようだし、俺達も街へ入ろう。」


 イリアの返事を待たずしてアキは歩みを進めるが、彼女は文句を言う事なくついて着た。全部アキに従うという事だろう。これなら街に入ってからの行動を逐一説明しなくても問題なさそうだ。


 ユーフレインの事を「どうにかして」とお願いしてきたイリア。自分ならどうにか出来ると信頼してくれている。だから今も何も言わず、素直に従ってくれている。イリアは英知聡明で純真無垢な子だ。疑う事をしらない真面目な女の子。そんな彼女からの信頼を裏切るわけには行かない。ちゃんと彼女の希望に応えられるように頑張るとしよう。






 アキ達は特に気づかれることなく、イニステラへ入ることが出来た。幸いにも正門は大きく作られていたので、すり抜けるのは容易だった。後は人にぶつかったり、話声が聞こえないよう注意すればいい。不用意な事をしなければアキ達の存在がバレる事はないだろう。


 正門を抜けるとちょっとした広場があった。そしてその周囲には建物が所狭しと建てられている。造りは中世ヨーロッパ風で、やはりミスミルドと似ており、主に木材や石材が建築材料に使われている。ただぱっと見、ベルフィオーレのように街が地区ごとに用途分けされている気はしない。商業、工業、住居用の建物が無秩序に並んでいる感じだ。まあこの煩雑さもある種の風情があるので、アキとしては嫌いではない。ある程度散らかっている部屋の方が、心地良いと感じる人がいるのと同じ。それときっと似たようなものだろう。


 街中は思っていたより綺麗で、それほど汚れてはいない。裏通りや路地まではわからないが、大通りなどは綺麗に整備されており、掃除も行き届いている。


 そんな街を行き交う人々の人種は多種多様。だがイリアの報告にあった通り、獣人比率が少し多い気はする。人々の身なりも様々で、防具に身を包んで武器を携えた冒険者らしき連中、小綺麗な格好をしている裕福層、商人や職人。


 ただベルフィオーレと違って目を引くのが……貧困層だ。


 ベルフィオーレにも多少の貧困層らしき人はいたが、ここまでではなかった。孤児、ホームレス、ボロボロの服を着ている人の割合がかなり多い。数字にすると3~4割くらいだろうか。日本では貧困層は約15%と言われている。だが住所不定、明日の衣食住の目途がないレベルでは数%程度だ。そう考えるとユーフレインのこの割合はかなり大きい。極貧と言っても差し支えない層が3割強は居るという事になるのだから。


 そして街の人達はあまり「交流」という概念がないようで、忙しそうに無言で行き来を繰り返している。立ち止まって談笑したりなどはほぼ見かけない。そんなことをしている余裕がないのか、他人と極力関わらないようにしているのか。


 まあここで他人と関わりたくないという気持ちはわからないでもない。スリや万引きを働こうとしている孤児、言い争いしている大人達が先ほどからちらほら見受けられる。まだ暴力沙汰には発展してないようだが、何時そうなってもおかしくない雰囲気が漂っている。だから街の人達は余計な火種に巻き込まれないよう交流を避け、我関せずを通しているのだろう。


 それにこんな世界だと、好き好んで貧困層に手を差し伸べようとする物好きもいない。だって彼らに足元を掬われる可能性だってあるのだから。


 食うに困り、どうしようもなくなった貧困層は犯罪に手を染める。最初は罪悪感があっただろう。だが次第に慣れてしまい、生きる為ならばと犯罪を躊躇しなくなる。エスカレートする犯罪、そして悪化する治安。政府が経済を活性化しない限り、この悪循環は止まらない。職を増やし、教養を与え、犯罪に対する処罰を施行しなければ無くならない。


「世紀末ほどではないが治安はよくないな。」


 アキはイリアを連れ、人気の少ない路地へと入る。ここであればそこまで周囲を気にせずイリアと会話出来るだろう。


「孤児の子達、助けてあげたいな……」


 イリアが悲しそうに呟く。


 アキにも当然その気持ちはある。ただ目の前の1人を助けてどうなる。その1人を助ければ他の子達が「私も」とハイエナのように群がってくるのは間違いない。下手をすれば身ぐるみ剥がされる。それに1人だけを助け、もう無理だからと残りは助けないのならそれはただの偽善。自己満足でしかない。


「今は耐えろ。」

「うん。」

「ただ悪い人ばかりではなさそうだ。悲観的になる必要はないぞ。」

「え!?そうなのかな!」


 イリアの声のボリュームが上がる。だがすぐに大声を出した事に気付いたのか「ごめん」と呟く。


「うん。街の人達の中にも慈悲深い人はいた。孤児達を見る目に憐みを感じたよ。」


 アキは貧困層だけではなく、富裕層の人達にも目を配っていた。すると孤児達を見る目に視線に同情が含まれていると気付いたのだ。助けはしないが、同情や憐みは感じる、そんな感じがした。それに言い争いをしている連中や万引き等の犯罪に対しても、辟易している雰囲気が感じ取れた。


「じゃあなんでなにもしないのかな……?」

「怖いから関われないんだろ。誰でも自分が一番可愛いものだからな。」


 だがそういう気持ちが人々に残っている限り、希望はある。ユーフレインもまだ完全には捨てたものじゃない。


「うん。アキがそう言うなら信じる。」


 普段は元気いっぱいで活発なイリア。だが不安になるとすぐにこうして意気消沈してしまう。そんなイリアを見ていると、なんか守ってあげたくなるという庇護欲を掻き立てられる。


「街の雰囲気は一通りわかった。後はルティアの報告を聞いてから考えよう。とりあえず俺達は屋敷を探さないとね。」

「う、うん……!何かいい案でもあるのかな?私に出来ることないかな!」


 イリアがガッツポーズをして気合を入れている。気持ちを切り替えようとしているのだろう。


「そうだな……」


 この煩雑とした街を適当に歩いてても見つかるとは思えない。それに人との関りを避けているこの街の連中が、アキ達に親切にしてくれるとも思えない。運よく不動産を見つけられても足元を見られるか、邪見に扱われるだけだろう。


 つまり、アキ達はまず信頼できる人間と友好関係を築く必要がある。そしてその人物に信頼できる不動産関連の人間を紹介してもらうしかない。


「というわけで誰かと接触する必要があるな。よさそうな人物が見つかったら教えてくれ。」

「なるほどね。うん、わかった。私も注意して見てるね。」

「助かる。頼りにしてる。」

「あはは、まあ私は役立たずだろうけどね……」


 イリアは役に立てないと思っているようだが、そんなことはない。ずっと観察者として生きてきた彼女の人を見る目は信頼している。アキやベルのように理論的に人間分析する事は出来ないだろうが、その人が信頼していい人がどうか、直観的に分別できる眼力をイリアは持っている。


 だからイリアにはアキが見極めた人物が大丈夫か確認してもらいたいのだ。自分自身の観察力に自信はあるが、絶対ではない。アキが選んだ人物に対して意見が貰えるのであれば貰っておくに越したことはない。それにイリアからOKが出れば、ミルナ達も文句を言わないだろう。むしろその文句と言う名の「お話」を回避出来るのだから、イリアには心から期待している。


「そんな理由なの!?変な人にOK出したら私もお話されちゃうよ!?」

「イリア、殺されるときは一緒だ。」

「やだよ!あの子達バカだから怖いんだよ!特にあのエルフはすぐ本気になるんだから!私を巻き込むのはやめてよね!」

「冗談だ。半分くらいは。」


 とりあえずイリアを連れ、大通りに戻る。「半分本気なの!?」となんか後ろで騒いでいるが……放っておこう。


 まあイリアの言う通り、ミルナ達との「お話」は楽しいが、怖い。目が本気だから怖い。あれが「この世で一番恐ろしい物」という認識が出来つつあるくらいには恐ろしい。でもアキはもう諦めた。ミルナ達といる限り、あれはずっとついて回ることになるのだから。


 とりあえずそんな事より今は目的の人物探しだ。街に入ってから早数時間。ルティアと合流する時間まであと1時間ちょっと。


 アキは早速大通りを見渡す。


 相変わらず人通りは多い。だが誰でもいいわけではない。人選は慎重に行わなければならない。ミルナ達に接触した時のように、こちらも有益なものを提供でき、ウィンウィンな関係が築ける、そんな相手が理想的だ。お互いにメリットがあるのであれば、表面上の信頼は築くことが出来る。


「うーん、都合よくそんな人物いないよな。」

「良い人そうな感じの人なら結構いると思うんだけど、駄目なのかな?」

「確かにね。でもそれだけじゃこっちの頼みを聞いてくれるとも思えないからな。」


 ミルナ達と接触した時の事をイリアに説明する。すると彼女は「なるほど!」と心底感心したようで、尊敬の眼差しを向けてくる。アキとしては普通の事だと思ので、その視線は少々照れ臭い。


 丁度その時、面白いものがアキの目に留まる。


「ん?あれは使えるかもしれないな。」

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