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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 ユーフレイン
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12

 翌朝。


 本日もユーフレインへと向かう。


 アキは転移の為、毎度の事ながら屋敷の隠し部屋に来ている。尚、今日の予定はイニステラの街で情報収集と活動拠点の下見。


 しかし相変わらず全員が見送りに来てくれている。嬉しいが、別に来る必要もないのに。こいつらは暇なのか。


「イリアとルティアは一緒に行くからいなきゃ困るけど、わざわざ見送りに来なくてもいいよ?別に寝てても怒らないから。」

「駄目ですわ。絶対します。」


 ミルナが間髪開けずに返事をする。そしてベルからはいつもの「何故なら妻は夫を~」のセリフが聞こえてくる。


「あのね、私たちが勝手にやってるんだから気にしなくていいよ?」


 そう言いながらリオナが尻尾をぱたぱたさせている。


 いや、アキとしては文句があるわけではないのだ。こういうのはなんか慣れないから居心地が悪い。ただそれだけ。まあ前の世界では見送りなんてされた経験がなかったのだから仕方ないとは思う。そのうち慣れるとは思うが、まだ無理だ。


「大丈夫です。そのうちお見送りじゃなくて一緒にいけます。なので大丈夫です。」


 可愛い兎耳をぴくぴくさせながらセシルが笑う。


 まあとりあえず握る。


「なんでっ!?なんで今触るのっ!?そんな雰囲気じゃないよおおおお!」

「朝っぱらからそんなに兎耳を動かしてけしからん。触りたくなるだろうが、この兎め。」

「そ、そんなアキさんの私見なんてしらないから……ふぇ……ん……まぁ……気持ちいいので……いいですけど……」


 文句を言いつつも、なんだかんだこうして好きに撫でさせてくれるセシル。本人も気持ちよさそうだし、これはまさにウィンウィンの関係といえよう。


 ただあまり団欒している暇はない。ユーフレインでの活動時間は決まっているのだから、準備が出来たなら早めに向かったほうがいい。


「じゃあ行くか。でもその前にエリザだな。」


 ユーフレインへ行く前に、エリザをミレーへ送らなければならない。彼女は魔法学校で学園長としての仕事がある。ここ数日はアキの為に休みを取ってくれていたが、さすがにそろそろ仕事も溜まっているだろう。


「ええ、アキ君気を付けてね。私もお仕事頑張ってくるわ。」

「ああ、頑張れ。また夜にな?いってらっしゃい、エリザ。」

「ええ、わかったわ。いってきます。アキ君もいってらっしゃい。」


 簡単な挨拶だけ交わし、エリザをミレーの屋敷へ転移させる。


 後はアキがイリアとルティアを連れユーフレインへ向かうだけ……なのだが、何故かソフィーやミルナが不機嫌そうにしている。


「え、なんで拗ねてるの?」


 エリザとの一連の会話に拗ねる箇所があったかと頭を捻るが、まったくわからない。どういう事だ。そんな様子のアキを見かねてか、ベルが答えを教えてくれた。


「みなさんはですね、アキさんとの『いってらっしゃい、いってきます』のやりとりが羨ましいんです。アキさんが『いってらっしゃい』って言う側になるのはあまりないですもん。ちなみに私は登城予定で今から出来るので拗ねてません。」


 口元に手を当て、くすくすと上品に笑うベル。


 しかしなんだその理由は。相変わらずわけのわからないところで拗ねる子達だ。まあ確かにベルの言う通り「いってきます」はよく言うが、「いってらっしゃい」はほとんど言ったことがない。エリザやベルに対してくらいだろう。2人は学園長や王女としての仕事がある。


 仕方ない、ミルナとソフィーの望み通り、言ってやるとしよう。


「ミルナとソフィーも食って寝てを頑張れ、いってらっしゃい。」

「やめてくださいませ!?さらに心を抉りに来ないでください!」

「アキさんのばか!ダメ人間みたいに言わないでくださいですー!」


 ミルナとソフィーは余計拗ねてしまった。


 ちなみに最初から不機嫌そうにしていたのはこの2人だけ。アリア達、そしてエレンやリオナはそんな素振りは一切見せず、笑顔でアキを見送ろうしてくれている。結局手がかかるのはやはりミルナとソフィー。


「そんな事で拗ねるな。とりあえずいってくる。いい子に待ってろ。」


 アキはそう言って、ミルナとソフィーを撫でてやる。勿論アリア達もだ。そんな羨ましそうな顔で見てたら撫でて欲しいのは丸分かりだ。


 まあベルだけは撫でないでおくが。


「アキさん!私は!?私も!」

「だってベルは今から『いってきます』できるからいいんでしょ?」

「違います!それとこれとは別です!別なの!!!」


 早く撫でてと喚くベル。いつからだ、アキの前で王女の衣を全く纏わなくなったのは。でもそんなベルも悪くない。


「はいはい。ベルも頑張ってね、いってらっしゃい。」

「えへへ、はい!頑張ってきます!今日はお父様に色々提案がありますので!」


 おそらく昨日話した会議の事や改革の進め方についてだろう。とりあえずベルには進捗があったら教えてくれとだけ言っておく。


「じゃあそろそろ行く。だらだらしてると帰りが遅くなるしな。それはダメだろ?」

「「「「絶対ダメ!」」」」


 声を揃えて叫ぶミルナ達。やはり駄目らしい。やはり今日も時間通り帰らなければ殺されるようだ。


「よし、じゃあ行くか。イリア、ルティア。」

「くっつく!」


 ルティアが背中にしがみついてくる。もうここが自分の定位置だと言わんばかりに躊躇がない。一方のイリアは、控えめにアキの腕を掴んでくる。さすがルティアほど大胆にはなれないようだ。


 とりあえず身体的接触さえしていれば問題はない。アキはオリハルコンを抜刀し、転移魔法を発動させる。


「いってらっしゃいませ。」


 アリアが丁寧にお辞儀する。


「ああ、いってくる。」


 次の瞬間、アキ達は光に包まれ、ユーフレインへと転移する。


「アキさん!怪我!怪我はダメですー!あなたの……」

「いや、それもういいから。」


 だが転移する直前、いつものソフィーのセリフが聞こえてきたので、言わせるものかと言葉を遮る。


 まあ……今日も平和な1日になりそうだ。

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