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「じゃあとりあえず次ね。明日からの事についてだけど……」
質問は最後にと前置きし、今後の予定を伝える。
まず明日はイニステラの見学だ。街の雰囲気を確認し、実際にどの程度の治安なのかを見てみたい。後はハンター連盟について調べたり、為政者の噂の確認、そして活動拠点となる場所の下見。
「そして屋敷を1件調達するつもりだ。その方が行動しやすいからね。転移もしやすいし。」
物件や価格の確認を明日行い、夜にミルナ達と相談。明後日に屋敷を購入するという流れでいいだろう。
「とりあえず明日の予定はこんなところか。屋敷を買ったらそこを拠点に本格的に活動する感じになると思う。」
どういう方向で活動していくかは未定だ。情報収集の結果次第で変わってくるので今は決められない。
とりあえず屋敷さえ購入出来ればミルナ達も連れて行ける。だからもう少しだけ待って欲しい。
「当面の予定はこんなとこだな。じゃあ質問はある?」
アキが尋ねると、ミルナが真っ先に手をあげる。
「では私からよろしいですか?お屋敷を買うお金はどうするんですの?ベルフィオーレの通貨は使えないんですわよね?」
やはりその質問は来るか。まあ想定通りだ。アキはミルナ達に物質召喚魔法を使い国庫から資金調達する旨を説明する。強引な手法だが、短期間で屋敷を調達する為には仕方ない。
「でもアキさん……それは……強盗では……ありませんの?」
「うん、まあそうなんだけど。」
「ダメですわ!アキさん、そういうのはよくないと思いますの!」
イリア同様正義感の強いミルナ。当然反対するとは思っていた。勿論ミルナだけでなく、他の子達も複雑そうな表情を浮かべている。エレンやエリスは険しい表情で睨んでくる。さらにベルに至っては「それは国のお金です、絶対許しません。」とムスっとした仏頂面を浮かべている。
「まあ……皆が反対ならしないけど。でもそうなると屋敷をすぐには買えない。多分数週間くらいかかる。当然ミルナ達にはその間こっちで留守番して貰う事になるけど我慢してね?」
「アキさん!好きなだけ資金調達してくださいませ!」
「そうね!遠慮することないわ!じゃんじゃんやりなさい!」
「うむ、アキの好きにするといいのだ!」
「国のお金は皆のお金。ですから大丈夫です。ええ、全然大丈夫です。」
それならばと代替案を提示した瞬間、コロッと手のひらを反すミルナ、エレン、エリス、ベル。あまりにも躊躇がなさすぎて呆れてしまう。
「あはは、さすがアキ。説得が早いね。」
さすがのイリアも苦笑いだ。
とりあえず一番文句を言っていた4人が反対してないのであれば問題ないだろう。ちなみにリオナは「今回は仕方ないけどあまり悪用しちゃだめだよ?」と尻尾をぱたぱた振っている。可愛い。ソフィーやエリザは「仕方ないです」といった表情だ。アリアとセシルにおいては基本的に「アキのする事が絶対的に正しい」と考えている節があるので、そもそも反対するわけがない。
「私も。アキはいつも正しい。」
ルティアが「私もいる、忘れないで」と頬を膨らませながら膝の上に乗ってくる。確かにルティアもそうだ。ただいちいち膝に乗って来なくてもいいものに。
しかしこの子達のこういう反応はいちいち面白い。せっかくなので燃料でもぶちこんでみよう。
「あ、でもイリアは『そんな急ぐ事ないし、数週間かけてもいいんじゃない?ミルナ達は留守番させればいいよ』って言ってた。それじゃミルナ達が可哀そうだからって却下したけど。」
「ちょ!アキ!?何言ってるのかな!」
イリアが否定しようとするが、もう遅い。既に部屋の温度は絶対零度まで下がっている。特にうちの子達のイリアへの威圧感が凄い。
「イリア、ちょっとあちらでお話しませんこと?」
「お話です。今すぐお話です。」
ミルナとソフィーがハイライトの消えた目でイリアの両肩を掴む。
「ち、ちょっと!言ってない!待って、痛い!引っ張らないでってば!」
連れてかれまいと必死に抵抗するイリア。
「あんたちょっとこっち来なさい!」
「イリア、私ともお話だね?」
そしてエレンとリオナがそこに加わる。2人とも笑顔だが目は全く笑ってない。
「怖いよ!?ねえ、リオナにエレン、その目怖いから!」
流石に4人がかりでは力が及ばないのか、隣の部屋へ引きずられていくイリア。
「イリア、楽しんでおいで。」
とりあえず手でも振っておく。
「アキのせいだよね!?助けてよ!ねえ!アキってば!」
仕方ない、助けてやるとしよう。
「冗談だから離してあげなさい。ほら、こっちにおいで。」
アキがそう言うと、ミルナ達は無言でイリアの事をあっさりと離し、何事もなかったかのように近寄ってきて、撫でろとおねだりしてくる。
「ねえ!?あっさり捨てられるのはそれはそれでなんか嫌なんだけど!?」
せっかく「お話」を回避させてあげたのに納得がいってない様子のイリア。
「あら、本当にそんな事を言っていたら極刑でしたのに。残念です。」
するとベルがくすくすと笑いながらイリアに追い打ちをかける。
「言ってないから!?ねえ、アキ!」
「え、そうだっけ?」
「そうだよね!?言ってないよね!?アキってば!」
「ああ、うん、冗談だ。本当に言ってない。」
アキがフォローした事で、ホッとした表情を浮かべるイリア。そして小声でアキに囁いてくる。
「あはは……アキが殺されるっていった意味を今改めて実感したよ……。」
「だろ?」
ただそんな内緒話をしていた2人をあざとく見ていたソフィー。
「あれー?アキさん、今イリアと何話してるんですー?」
ソフィーが首を傾げながら尋ねてくる。
これはあれだ。選択肢間違うと死ぬやつだ。
「ソフィーがどれだけ俺の事を大事にしてくれているかを説明したんだよ。」
あらかさまなお世辞だが、ソフィーならこれで誤魔化せるはずだ。
「えへへ、なるほどですー!」
満面の笑みを浮かべるソフィー。うん、本当に単純で助かる。
「とりあえず話を進めよう。他に質問はある?」
「ではよろしいですか?」
今度はベルが手を挙げる。
「イリアさんの『ユーフレインをよくしたい』というお願いに対してどういう方法を考えてるんでしょう?参考までに是非教えてください。ベルフィオーレというぬるま湯で暮らしている私にはわかりません……。」
「いや、ベルは十分に立派に王女をしているよ。そこまで自分を卑下しなくてもいいと思うけど?」
しかしベルの言う通り、その説明しておくべきかもしれない。実際にどう動くかは情報収集の結果次第ではあるが、大まかな方向性くらいは考えてある。
「えへへ、ほんとですか?やった。もっと褒めてください。」
嬉しそうにはしゃぐベル。
ちょっと褒めるとすぐにこれだ。王女の仮面を躊躇なく投げ捨てる。
「まあ……まずは情報収集するだろ?その結果にもよるけど、基本的にはその情報を使って情報操作をする方法になるかな。」
ユーフレインの状況を徹底的に調べることが先決だ。それに応じてどの程度の修正が必要か決める。
「内乱や戦争が思った程は起きておらず、犯罪だけが問題だったとしよう。その場合はベルフィオーレで施行する予定のあの政策情報を流す。」
だがこれはあくまで例えばの話。本当にどうするかはユーフレインの状況によるので、細かい計画を考えるのは情報収集後だ。
ただどちらにせよ、そこまでユーフレインの事情に深入りする気はない。アキはこれからもベルフィオーレの人間でいるつもりだ。ユーフレインには手助け程度の介入しかしたくない。
「なるほど。ちなみにその場合、情報を流す方法はお考えで?」
「とにかく統治者の耳に届くように。方法は統治者達の人間性次第だな。」
ユーフレインの統治者がベルやアイリスのような立派な為政者であれば、街中に情報流すだけでいい。彼女達は街の噂ですらちゃんと検討する統治者だ。ただそうじゃない場合は少しめんどくさくなるだろう。
「場合によってはある程度統治者、多分どの国も君主制なので王族、と接点を持ち、意見を伝えて意識改革をして貰う事になるかもな。」
その辺りは街で為政者の噂を聞いて回ってから判断しよう。
「とりあえずはエヴァグリーン王国からだな。」
まずは1国。エヴァグリーンが変われば自然と他の国にも伝わる。そこからはユーフレインにまかせてもいいだろう。全ての国を巡って世界を変えるなんて事はさすがに荷が重い。
「そうですね、そこまでする必要は確かにないです。何はともあれとりあえずは情報収集ですね。また方向性が決まったら教えてください。勉強になるので。」
「ああ、もちろん。俺もベルに相談もするだろうからよろしく頼むね。」
「はい!」
ベルが「私に出来る事なら喜んで」と笑顔で頷く。
そんなうちの王女様の素敵な笑顔を見たところで、話も終わりでいいかと思ったが、1つ大事な事を忘れていた。
「そうそう、ベルフィオーレに干渉した組織の情報も調べないとね。」
イリアの依頼も大事だが、正直これが最重要事項だ。金輪際ベルフィオーレに干渉されるのは困る。これからベルが魔獣政策を廃止して、色々と改革を行うのだから邪魔されたくない。
ただこれに関しては本当になんの手掛かりもない。イリアが活動報告書を転送していた小屋にもヒントになる物は何も残されていなかった。どうやらユーフレインの治安改善を行いつつ、その傍らで情報を集めて行くしかなさそうだ。
「そうですね、アキさんの言う通りそっちは成り行きに任せるしかなさそうです。手掛かりが何もない時点で全て手探りになりますし。」
ベルもアキの意見に同意のようで、うんうんと頷いている。
「じゃあ他に質問がないなら、とりあえず今日の報告はお終わりでいいかな?」
今度こそ終わりでいいだろうとアキは軽く伸びをする。だがそんな都合よくこの子達とのお話が終わるわけがない。終わった試しがない。どうせ今日も一波乱あるに違いない。
「まだ駄目ですー!私が質問しますー!」
元気よくソフィーが手を挙げる。
やはりか。間違いなく今日も混沌を持ってくるつもりなのだろう。
「それでアキさんは『氷姫』って人を落とすんですね。お話ですー!」
「待て、それは質問じゃない。」
もう尋ねるとかそういうレベルではなくただただ断言してきやがった。
しかしさすがソフィー、「お話」に繋がるような話題はしっかり覚えているようだ。アキがその話をしなかったのは事実。というより現段階でそれ程重要じゃない事だったので、しなくてもいいかなと思い、敢えて話題にあげなかったのだ。大体その氷姫とやらと接点を持つかまだ決めてもいない。必要であれば、盗賊達がしていた氷姫の話を深堀し、王家と接点を持つ切欠に出来ればいいなと考えていた程度だ。そして勿論、それは為政者に対する意識改革を行う為の活動の一環であり、新たな王女様を落として娶ろうなんてやましい気持ちなど一切ない。
「言い訳は許しません!ダメですー!」
だが当然そんなアキの言い分は聞いて貰えるわけがなく、無事お話タイムに突入した。ソフィー曰く「油断するとすぐに落とすから前もって潰すですー!」だそうだ。油断ってなんだ。意味わからん。
「理不尽だ。」
アキは溜め息を吐く。もうこの子達が満足するまで付き合うしかない。
「あ、質問!もしアキがその『氷姫』を気に入ってお嫁さんにしたいって言い始めたら皆はどうするのかな?」
せっかくお話がひと段落しそうだったのに、イリアが余計な燃料を投下してきた。
「言わんからお前は黙れ。」
おかげでここから追加で1時間コースだ……と思ったが、意外にもミルナ達は黙り、そっぽを向いている。
「アキさんが……したいなら……別にそれでいーです。」
ボソっと呟くソフィー。
「そうですね。いっぱい文句は言うと思いますが最終的には許すでしょう。」
「ふふ……ええ、結局私達はアキさんには弱いんですわ。」
ベルとミルナが顔を見合わせ苦笑している。
「そうね、落とすってことはアキが認めてるって事よ。」
「だね。アキが認めるような人なら文句言えないよ。」
エレンとリオナも仕方がないと言った表情だ。
「私は最近ここにいる事になった身だし……何も言えないわ。それにアキ君が……ちゃんと私の事構ってくれるならなんでもいいわよ。」
確かにエリザがこの屋敷に滞在するようになったのは最近だ。ミルナ達がこれだけ寛大じゃなかったら、エリザがここに加われていないのだから、あまり強く言えないのだろう。
ちなみにアリア達、アキ絶対主義の子達は『アキが望むなら何でもいい』との事だ。拗ねたり文句は言うけど、最終的に反対は絶対にしないらしい。
「俺には勿体無い子達だ。でも1つ言わせろ。落とさないから。落とす気はないから。なんで落とす前提で話進めるんだ。」
この子達の寛容さは嬉しいが、そこだけは納得がいかない。
「あはは……でも逆に言うと、それだけ慕われてるアキは凄いって事だね。」
イリアが苦笑している。
別に凄くは無いと思うが、この話をこれ以上続けるのはなんか照れ臭いので、話題を逸らすとしよう。
「じゃあイリアも嫁仲間に入るか?」
「はい!はいりまーす!」
即答でオッケーしてくれた。
ソフィーが。
「何でソフィーが答えるのかな!?おかしいよね!このバカエルフ!」
イリアが顔を真っ赤にしながらソフィーに食ってかかる。
ただそういう反応をするとソフィーが調子に乗るのでやめた方がいい。
「あ、その反応!落ちる3秒前です!アキさんもうちょっとですよー!」
「ちょっと!?違うから!アキ!違うからね!」
「素直になりましょー!楽ですよー!」
「もう黙ってくれないかな!アキ助けて!」
最近うちの子達の処理に困ると、アキに助けを求めてくるようになったイリア。なんでもソフィーの扱いにおいてアキは『プロ』だかららしい。まあ……この駄エルフにはアキも散々苦労してきたから、扱いにも慣れるというものだ。
しかしイリアのような可愛い子に頼られるのは悪い気はしない。だから喜んで助けてやるとしよう。
「素直になろう。楽だよ?」
「まさかの立ち位置そっち!?助けてよ!」
イリアでも遊べたことだし、今度こそ本当に助けてやる。
「ソフィーやめなさい。とりあえず今度こそ話は終わり。いい?」
これで今日の報告はとりあえず終了だ。
なんだかんだ脱線しまくったので、かなりの長話になってしまった。まあ楽しかったのでいいのだが。
それよりさっきからアキには我慢している事がある。
「セシル、耳!リオナ、尻尾!早くしろ!」
「はいはい、どうぞ。兎耳ですよね、わかってますよ。」
「しょうがないね。まったくもう。はい、尻尾。」
さすがうちの兎と狼は良くわかっている。アキが口にしたと同時に耳と尻尾が目の前に差し出された。
「よきかなよきかな。」




