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「今日も大漁だな。イニステラは盗みも捗るな。」
「まあ、でかい街だからな。女も多いし。」
「まったく、いい世の中だぜ。今日の女の具合はいまいちだったけどな!」
「ああ、あの女か、あれは……」
概ね想像通りだ。盗賊たちは強奪や強姦など、今日の戦利報告をしているようだ。
そんな会話を聴いたイリアとルティアは、黙ったまま苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。怒っているのか、怯えているのか。多分両方だろう。まあ気持ちはわからないでもない。
「だから聞いてもいい事ないって言ったろ。」
「そんなことない。聞いてよかった。」
「うん、こんな世界があるって、知れてよかった……かな。」
色々と思うところはあるようだが、後悔はないらしい。
ベルフィオーレは魔獣政策のおかげで、盗賊等の犯罪がほとんどいない平和すぎる場所だ。彼女達にとって汚い世界なんて御伽噺レベルの物に違いない。実在するなんて思ってもみなかっただろう。
「……手……いい?」
ルティアが手を握ってくる。
「いいよ。」
そっと握り返してやる。
「怖い。殺したい。あのゴミを。」
そして汚物を見るような目で呟くイリア。いつもの明るい口調は消え失せ、淡々とした感情のない声だ。
まあ初めて犯罪を目の当たりにしたらこうなるだろう。
アキも実際に犯罪を目にした事などないが、ニュースで聴いた事はあるし、ドラマや小説などでもよくある展開だ。そういう意味ではこの子達に比べ、ある程度免疫はある。
「俺のいた世界でもこういうのはあった。人間である以上、欲望を理性で制御できない人間は一定数必ず出てくる。勿論ベルフィオーレにもいる。あそこはその数が極端に少ないってだけだ。」
やはりどの世界にもこういう人種は存在するものだ。原因は色々挙げられるので、ここで語りはしないが。ただそれらを抑制する為、地球だったら法律があり、ベルフィオーレだったら魔獣制度がある。そう言った仕組みを取り入れる事で、無法者を少数に抑える事が可能だ。
ユーフレインにも何かしらの法律や制度があるのかもしれない。ただ彼らのような無法者が蔓延しているのであれば、それは効力を発揮していない無意味なものという事になる。
「イリア、『ユーフレインを変える』というのは治安維持の仕組みを改善していくという事だ。俺の言っている意味わかるか?」
「うん……。今ならわかる。これはアキや私では出来ない事だね。このユーフレインという世界がしないといけない事なんだね。やっとわかったかな。」
横にいるルティアもイリアに同意するように頷いている。
「ベルフィオーレに戻ったらミルナ達にも教えてやってくれ。イリアとルティアが何を感じ、何を思ったか。」
「うん、わかった。じゃあアキ、私達がこの世界に出来る事は何なのかな?」
イリアが不安そうな顔で聞いてくる。
「治安維持の仕組みを作る手伝いだな。直接的な改善は出来ないが、手伝いくらいなら出来る。……あ、ほら、ちょうど面白い会話が聞こえるぞ。」
イリアとルティアに盗賊達の会話に意識を戻すよう伝える。
「あーそういや……あのエヴァグリーンの王女様も俺らの物にしてえな。」
「無茶言うな、アホが。さすがに氷の王女は無理だ。命賭けてまではごめんだね。」
「ただあの氷姫、無理難題に答えたら何でも願いを叶えてやるとか言ってるらしいじゃねーか。」
「確かに!そしたらヤりたい放題だな!」
「やめとけやめとけ。そんな頭イイ事が俺らにできるわきゃねーだろ。」
「確かにそうだわ!お前頭イイな!」
下品な笑い声と共にそんな会話が聞こえてくる。ルティアとイリアは「何が面白い話なのかよくわからない、むしろ不愉快だ」という表情だ。
そんな2人に説明してやる。
「この世界を変えるなら、先ずは為政者の意識に食い込まないとだろ?」
犯罪を取り締まるにしろ、戦争を無くすにしろ、為政者との繋がりは大事だ。それはベルとの関係を見てもわかる。あの子がいたから、アイリス、エルミラ、そしてステラといった各国の王族と繋がりが出来た。そしてそのおかげで、魔獣制度廃止の方向にベルフィオーレは現在動いている。さらにそんな各国との繋がりがあるからこそ、イリアの元に辿りつけたし、今ユーフレインに来られていると言っても過言ではない。
「うん。確かにそう。アキがいなかったら……私はまだ1人だった。」
「そうだね。アキが私を見つけてくれたから今私はここにいるんだね。」
アキと出会い、ベル達王族の考えを理解したから、ルティアは今ここにいる。イリアだってそうだ。エスペラルドやミレー王家が協力してくれたから、オリハルコンを使ってユーフレインに来られている。どれも国の協力がなければ困難な事だ。
「うん、だから今の盗賊達の話を街で調べよう。ユーフレインの為政者と接点を持てるかもしれない。な?面白い話だろ?」
「「なるほど!さすがアキ!」」
イリアとルティアは感嘆の声をあげる。
しかしそんな尊敬の眼差しを向けられるのは恥ずかしい。こんなのは誰でも思いつく事だ。でも否定しても「そんなことない」と言われそうなので、アキはさっさと話を続ける事にする。
「とりあえずわかった事を纏める。この国の名前はエヴァグリーン、そしてあの街がイニステラ。後は氷姫とかいう王女様がなにか面白い事をしているって事だな。もしその王女様があの街にいるのなら、あそこが王都なのかね?あいつらの話からして居るような口調だったし。」
まあこれだけわかればもう今日は十分だ。後は明日、街で情報収集すればいい。アキとしては街の名前といったの基本的な情報を拾えたらラッキーくらいのつもりだったのだが、あいつらが余計な事まで話してくれたおかげで、ユーフレインでの活動の方向性が見えたのは都合がいい。
「もういいだろう。あいつらがこれ以上建設的な話をするとも思えない。」
アキは改めてオリハルコンを抜刀し、大気魔素を集約する。
「アキ、早く……殺って?」
ルティアが呟く。さっきもう言わないといった言葉を言うくらいには怒っているらしい。
「うん、ルティアの言う通りかな。早く殺しちゃって。」
イリアも先ほどとは違い、揺るぎのない力強い口調で、はっきり「殺せ」と口にした。盗賊連中の話を聞いて「覚悟」そして「重責」を改めて実感する事が出来たのかもしれない。次からは自分でもやると言う決意を感じる。
盗賊達の会話を聞かせたのはある意味正解だったかもしれない。
「ああ、今回は俺に任せろ。」
偉そうな言い方をしたが、アキとてそれほど修羅場を潜って来たわけではない。人を殺し続けている人生でもない。ただベルフィオーレでは、ミルナやベル達の目的の為、幾人かは殺めている。少なくともイリアとルティアよりは先輩だ。
「さて、まずは寝て貰おう。」
アキは集約した魔素を解放して魔法を発動させる。
まずは吸入麻酔薬で使われる亜酸化窒素、いわゆる笑気、を魔素で生成、洞窟内に充満させる。その後に集音魔法で彼らの意識がなくなった事を確認。そして洞窟内に超高温の燃焼を発生させ、全てを燃やし尽くす。仕上げに風魔法で全体的な洞窟内の換気を行って終わりだ。
「アキ、なんで。優しすぎ。」
ルティアは盗賊達に苦痛を与えなかった事が不満そうだが、別に彼らを苦しめて殺す必要はない。アキ自身は彼らに私怨や憎しみは特にないのだから。それに阿鼻叫喚の地獄絵図を2人に見せたくもないというのもある。
「不必要な事はする意味はない。必要な事を淡々とするだけでいい。それにルティア達が傷つけられたわけでもないからね?もし2人が何かされていたら……生まれてきた事を後悔させてから殺すけど。」
あまり重い話にしたくないので、軽口を叩いて適当に話を締める。ただ人を殺める感覚に慣れ始めている自分が怖い。いつかこれが日常だと思ってしまうような日が来るのだろうか。
「ありがと。ちゃんと理解した。でも私も出来る。」
「覚えておくね?アキ、ごめんね、次は私がやるから!」
この子達は本当に察しが良い。アキが何を考え、どういう理由で言葉を紡いだか、ちゃんと理解してくれている。他の事には疎いくせに、こういう時だけはちゃんと核心をついて来る。
「礼を言うのは俺の方だと思うがな……。まあ無理はしなくていいよ。それより……ミルナ達に怒られるからさっさと帰るぞ。」
アキは足早に洞窟内へ向かう。
「アキ、早い、待って。」
「ち、ちょっと待ってよ!」
ルティアとイリアが慌てた様子で追いかけてくる。どうやら2人はまだまだ言いたい事があるようだ。ただこれ以上は照れ臭くなりそうだったので、逃げる事にしたのだ。こういう時、この子達には間違いなく敵わない。さっさと話題を変えてしまうか逃げるのが得策だ。
「話の続きは帰ってからな。よし洞窟を塞ぐぞ。」
ルティアとイリアが洞窟内に入ったのを確認し、アキは土魔法で壁を生成して入り口を塞いでしまう。これで洞窟の存在がバレる事はない。街への潜入もすぐに出来る位置にある。明日はここに転移すれば大丈夫だろう。ここからなら効率的に情報収集と探索を進められる。
「とりあえず転移は奥でやろう。」
アキは適当に光源を生成し、真っ暗な洞窟内を照らす。そして3人で奥の大広間まで移動する。
その後、イリアとルティアを先にベルフィオーレの屋敷へと送り返した。最後に自分に転移魔法を使い、ユーフレイン1日目の活動は終了だ。




