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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 ユーフレイン
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4

「あるにはあったけど。面倒だな……。」


 アキ達が街に到着した時に居た場所は、街の正門辺りだ。そこから半周ほど外壁を迂回した街の裏手辺りで、洞窟のようなものを発見した。


 街の裏門から先は森になっており、人気もなくひっそりと静まり返っている。その洞窟は、森を少し入ったところにあった。普通に歩いているだけではまず見つける事が出来ない、そんな場所だ。そもそも街の人がこの辺りまで来ることはまずないだろう。ユーフレインも魔獣が闊歩している大陸なのだから、住民が街の外に出ない可能性は高い。


「あはは、確かにちょっと面倒だね。」


 イリアが苦笑しつつアキに同意するように呟く。


 索敵魔法を展開したところ、洞窟から複数の生命反応があったのだ。誰もいなければ最高だったのだが、やはりそう上手くはいかない。




 


 暫く洞窟の様子を伺っていたところ、わかったのは、どうやらあそこが盗賊の根城だという事だ。人数は15人。


 さらには地形探索魔法も使っておいたので洞窟の構造もばっちり把握済み。魔法の仕組みとしては、電磁波レーダーのような物だ。そんな洞窟内部はそれほど大きくなく、分岐などはないただの横穴。洞窟を入って20M程進むと大広間のような場所があり、そこに15人程の盗賊が居着いているようだ。


 本当に魔法は色々と便利だ。


「アキ、早く殺ろ。」


 アキの隣に居るルティアがサラッと物騒な事を言うので、彼女の頬を抓る。小動物のような可愛らしい形姿なのに言う事が恐ろしい。


「むー。アキ、痛い。」


 ルティアが頬を膨らます。ちなみに洞窟を発見した時点でルティアには影から出て着てもらっている。


「ルティア、美少女が殺るとか言っちゃいけません。」

「……っ!もう言わない!」


 ルティアがパァっと顔を輝かせる。どうやら美少女と呼ばれたのが嬉しいらしい。


「はいはい、イチャイチャしないの!で、アキ?どうするのかな?」


 イリアが呆れ顔で確認してくるが、当然やる事は決まっている。


「イリアともイチャイチャする。」

「な、な、なんでかな!おかしいよね!?そういう事じゃないよね!?」

「えっ?」


 何故必死に否定するのだろうか。ルティアとのスキンシップが羨ましかったから、イリアは会話に入って来たに違いないのに。


「違うからね!?っていうか絶対違うってわかってるよね!?」

「嫌か?」

「い、嫌じゃないけど!……ちょ、何言わすの!そうじゃじゃなくて!」


 顔を赤くしながら必死に叫ぶイリア。表情がコロコロ変わるのが面白い。


 ただそろそろユーフレインでの活動時間のタイムリミットも迫ってきているので、イリアで遊ぶのはこのくらいにしておこう。


「私で遊ばないでよね!もー!」


 イリアが地団駄を踏むように拗ねているのが微笑ましい。


 とにかく検討するまでもなくやる事は決まっている。


「まあ、殺るんだけどね。」


 アキはオリハルコンを抜刀する。

 

「アキ、任せて。」

「うん、私も頑張るよ!」


 アキが抜刀したのを見て、ルティアとイリアも剣を抜こうとするが、2人の手を掴んで止めさせる。


 アキが抜いたのはオリハルコンだ。月時雨ではない。つまり今回は月時雨は使わない。直接戦闘は無し、魔法で片付けるつもりだ。何故なら時間もないし、この世界の対人戦闘レベルも不明。イリアの情報だけでは不確定要素が多い。だからなるべく直接戦闘は避けたい。街への移動の際、魔獣などを回避していたのはその為だ。ある程度情報が出揃ったら、直接戦闘で問題ないだろうが……今はまだ早い。


「2人は手を出すな。」

「なんで……っ!」


 反論しようとイリアが口を開くが、アキが睨みつけたので口を噤んでしまう。ルティアもアキの威圧感に押されたのか、少し怯えた様子で縮こまってしまっている。


「まず時間がない。戦闘レベルも不明。だから今回は俺がやる。」


 だがこれはあくまで表向きの理由だ。


 この子達に手を出させない理由は他にもある。1つ目、人を殺めるにはこの2人はまだ早いと感じたからだ。人を殺す覚悟が出来ていない。そしてそれに伴う重責も分かっていない。昔のミルナ達と一緒だ。


 もし人を殺す覚悟があるのであれば、ルティアは王族襲撃の際、確実に王族を暗殺出来る方法を取っていただろう。適当に貴族を唆すだけでなく、確実な策を練ってから実行に移したはずだ。そしてイリアにおいては、アキを襲った際、人を殺めた事がないと直ぐにわかった。


 この2人には剣を躊躇なく振り抜く事がきっとできない。


「俺がやる事をしっかり見てろ。」


 そして2つ目の理由、それは単純にこの子達に手を汚させたくなかったからだ。だが人を斬らなければならない日はきっとそのうち来る。だから2人にはちゃんと理解した上で剣を振れるようになって欲しい。アキが盗賊達を殺すところを見て、何か感じる事があるかもしれない。


「……わかった。」

「ちゃんと見てるね。じゃあアキ、任せるね。」


 ルティアとイリアはアキの言葉の真意を汲み取ってくれたようで、真剣な顔で頷く。聡明な子達だ。「見てろ」の一言だけで彼女達に何を要求しているのか理解してくれたらしい。


「じゃあ、片付けるか。」


 アキはオリハルコンに大気魔素を集約、そして魔法のイメージを伝達……するのを中断し、一旦オリハルコンを納刀する。


「アキ、どうした?問題?」


 ルティアが可愛らしく首を傾げる。


 別に問題があったわけではない。ただ大事な事を忘れていただけだ。


「いや、殺る前にさすがに情報収集くらいはしておかないとね?」


 盗賊達は根城で雑談くらいはしているだろう。殺す前に彼らの会話を盗聴しておくべきだ。


「確かにそうだね!」


 うんうんと納得したように頷くイリア。


 今アキ達が持っているユーフレインの知識は、イリアが集めてくれた情報のみ。世界情勢を分析するにはまだまだ足りない。新たに情報が得られる可能性があるなら、情報収集はやっておかなければならない。


 アキは早速集音魔法を盗賊の根城である洞窟に向かって展開する。


「アキ、私も聴く。」

「私も聴きたいかな。いいよね?」

「む……。」


 2人に聴かせる気は正直なかった。盗賊の会話なんて下世話なものに違いない。この子達にとって有益になるとも思えない。


 ただ2人の真剣な眼差しに駄目とは言い出せない。


「ちゃんと見ておけって言うならちゃんと全部見せてほしいかな。」


 イリアが不敵に笑う。


「そうだな……今回ばかりは一本取られたな。」


 アキを言い負かせた事が嬉しいのか、満足気な表情を浮かべるイリア。ルティアもニヤリといった感じで口角を吊り上げている。


 やはりこの子達には敵いそうにない。ミルナやアリア達でも間違いなく同じ事を言うだろう。こうなった彼女達を説得出来ないのは経験上わかっているので、諦めて2人にも盗賊達の会話を聴かせる事にしよう。

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