2
「よし、じゃあまずはこの小屋から街に向かって移動。イリア、先導してくれ。街に着くまで休憩はなしだ。そこで転移場所を確保して今日は終了。ルティアは影になって行動しろ。俺も念の為に索敵魔法を常時発動しておく。他人との接触は厳禁。魔獣との戦闘も極力避ける方向で。」
「わかった。頑張る。」
「了解だよ!案内は任せてね!」
特にルティアとイリアに異論は無いようで、素直に従ってくれる。
いくらイリアがユーフレインを下調べしてくれたと言っても油断は出来ない。自分達では対処できないレベルの魔獣や人間と相まみえる事だってありえる。ある程度情報収集が完了するまでは表立って動くことは避けなければならない。
だからルティアには影にいてもらう。ルティアの事は出来る限り認知されたくない。ちなみにアキが念の為に索敵魔法を発動させているのは、未知の技術や魔法でルティアの隠密を見破られるかもしれないからだ。だがこうして影に1人潜ませられるというのがアキ達の強みなのは間違いない。
「さすが、アキ。」
ルティアが尊敬の眼差しを向けてくる。ただそこまで真っ直ぐに褒められると少々むず痒い。
「ありがと。でも影に入ってもらってばっかでごめんね。」
「平気。私がアキを守る。」
ルティアはそれだけ言うと、スッと姿を消した。近くにいるはずなのに、まったくどこにいるのかわからない。さすがだ。
「すごいね!全然わからないよ!こんな影がいるんなら不意打ちとか無理だね!」
イリアが苦笑交じりに驚く。アキを襲った時のことを思い出したのだろうか。相変わらずアレの事をイリアはまだ気にしているらしい。
「もう気にするな。」
アキはそれだけイリアに伝えると、改めてルティアがどこに隠れているのか考える。何故なら、アキが索敵魔法を発動させるのであれば、その魔法にルティアが検知されてしまう。だからただ発動させるのではなく、味方と敵の識別が出来るように索敵魔法を展開する必要がある。
「ちなみにルティアの居場所、イリアにはわからない?」
「うん、全然だよ!」
イリアはすごいすごいと感心しているが、実はアキにはわかっている。何故なら今試しに索敵魔法を発動したら、小屋内にルティアの存在を感知したからだ。アキの索敵魔法は、サーモグラフィのようなものを想像し、展開しているので、生物が発する熱源を確実に検知する。
「ここにいる。」
アキは小屋の窓にかかっていたカーテンのような布をそっと捲る。するとその裏側には、必死にカーテンにしがみついているルティアがいた。
何だこの可愛い生き物は。
「ば、ばか!それはやっちゃダメなやつっていった!」
居場所をばらされたルティアが顔を真っ赤にしてぽかぽかとアキを叩いてくる。怒っているというよりは、隠れている姿をバラされたので羞恥に悶えているといった感じだ。まあアキにしてみたらあの姿は微笑ましいだけだが、本人的には相当恥ずかしいのだろう。
「あはは……。」
イリアが顔を引き攣らせて笑っている。
「悪い。ルティアが可愛いからつい。」
「むぅ……。アキだから……別にいい。」
まだ恥ずかしいのか、そっぽを向いてアキを見ようとしないルティア。
「でも敢えてルティアを見つけたのには意味があってね。」
隠れているルティアを見てみたかったのは正直ある。だがそれよりもちゃんとした理由があるのだ。アキの索敵魔法は生物の熱源を感知する仕様なので、やはりルティアも探知に引っ掛かってしまう。その確認だ。
まあ細かい理論を説明しても2人は理解出来ないだろうから、ルティアやイリアが索敵魔法に反応するということだけ分かってもらえればいい。
「つまり2人を索敵魔法から除外した方がいいと思ってね。どうやるべきか確認したかったんだよね。」
「なるほど。納得。」
ルティアは一応納得してくれたようだ。誤魔化せたと言った方が正しいかもしれないが。正直ルティアの居場所をバラす必要は別になかった。アキが索敵魔法を展開し、さりげなく効果を確認すればよかった。でもルティアの反応を見たかったのでやっただけだ。反省はしている。後悔はしていない。
「でもどうやって索敵から除外するのかな?何か考えがあるんだよね?」
イリアが尋ねてくるので、勿論だと頷き、自分の考えを説明する。
参考にしたのは魔獣の命令付与に使われていた識別魔法だ。あれと同じ原理でイリアとルティアに識別を刻印。そして2人以外の生物からは異なる識別信号を発するよう索敵魔法を構築する。体内魔素だけでは到底実現不可能な魔法ではあるが、オリハルコンがあるのでなんら問題はない。
「体に傷を入れるとかそういった刻印ではないから安心してくれ。」
「別に平気。アキの言う通りにする。」
「そうね、私も別に心配してないから大丈夫かな!」
無条件の信頼は嬉しいが、そこまで信頼されるとなんか恥ずかしい。
「ありがとう。じゃあ手を出して。」
アキが言うと、イリアとルティアは躊躇なく手を差し出してくれる。
「ではちゃちゃっとやっちゃうね。」
オリハルコンを抜刀し、2人の手の甲に対し魔法を発動。所謂GPSのようなものを埋め込むとイメージ。まあ正確には「埋め込むイメージを魔素に伝達し、魔法を発動する」だけなので実際には傷も残らないが。
「はい、終わり。」
「え、もう終わり?何をしたのかな?」
イリアが不思議そうに手の甲を見つめている。
「これでもう私の場所、バレない?」
ルティアが「大丈夫?」と首を傾げる。どうやら彼女は索敵魔法云々よりも、アキに居場所がバレるのが何より恥ずかしいらしい。
「いや、居場所はわかる。ただルティアとイリアってわかるようにした。」
完全に索敵から除外しようかとも考えたのだが、もしはぐれたりでもしたら、2人の位置が分からないのは困る。それに何者かに襲われたりした場合も、ルティアの位置がわかっていれば作戦も立てやすい。だから索敵から除外するのではなく、味方と識別出来るように魔法を構築した。
「なるほどね!」
「むぅ……。」
アキの説明にイリアは納得したようだが、ルティアは少し不満気だ。というより口を尖らせて拗ねている。
「ごめんね。でもルティアが俺を守ってくれるように、俺もルティアを守りたいだけだ。さっきみたいに隠れてる場所をばらしたりしないから我慢してくれないか?」
「へ、平気。恥ずかしいだけ……だから。」
顔を赤らめてそっぽを向くルティア。
「ふっ……。」
そんなルティアの姿が愛らしくてつい笑ってしまう。
「ばかっ!笑うのだめっ!」
「ごめんごめん。」
しかしのんびり団欒している時間はあまりない。打ち合わせが終わったらさっさと行動しないと不味い。時間制限があるのを忘れてはならない。
「よし行くぞ。俺たちが今夜を生き延びる為にも迅速に行動しなければならん。」
アキにとってはユーフレインの未知なる世界より、あの子達に問い詰められる方が恐ろしい。ミルナ達から生き延びる為、頑張らねば。
「イリア、魔獣の位置は俺が知らせる。その都度適宜道順を修正し、最短で街へ案内してくれ。ルティアは俺の指示が聞こえる位置にいろ。もし魔獣以外の不審な者が索敵に引っ掛かったら連絡する。だからあまり離れないようにしてくれ。」
「「了解。」」
「よし、では出発。」




