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「アキ、予定通り街に向かうって事でいいのかな?」
イリアが尋ねてくる。
現在、アキ達はイリアがベルフィオーレの活動報告書を転送していたユーフレインの小屋にいる。ミルナ達をベルフィオーレに残し、イリアとルティアだけを連れこちらへ来た。当初の予定では、街へ移動した後、活動拠点となる場所を決めるという計画だ。
「うーん、そうなんだけどね。」
「アキ、問題?」
ルティアが首を傾げる。
「いや、街に向かって拠点を作る計画でいいんだけど、その方法がな……。」
目的は単純明快、難しい事ではない。ただ過程に問題がある。街へ到着してすぐに屋敷を購入できるわけがない。宿が見つかるかもわからない。
そう言う意味では、円滑に事を進めるのであれば、暫くユーフレインに滞在し、活動拠点を確保。それからベルフィオーレに帰還するのが一番効率的なのだが……。
「でも、ミルナ達がそれを許すわけないだろ。」
「あははー……あー、うん。」
イリアは全てを理解したのか、苦笑交じりに頷く。
「ちゃんと毎日帰らないと俺が殺される。」
「大袈裟……じゃない……っ。」
ルティアも察してくれたようで、神妙な面持ちで頷いている。さすがにうちの子達の恐ろしさはわかるらしい。
そもそもミルナ達に説明したユーフレインでの活動予定時間は9~16時。つまり夜はベルフィオーレに戻り、向こうで過ごすと宣言したのだ。
勿論基本的にはこの方針で問題ないのだが、それは活動拠点を見つけ、土台をある程度固められてからのつもりだった。だからそれまでは、ユーフレインに滞在し、ベルフィオーレに戻るつもりは正直なかった。
だがアキの説明する順番が悪かった。初めにそういう活動の方向性を決めてしまった手前、「でも活動拠点が見つかるまでは戻らないからね」をミルナ達は断固として許可してくれなかった。ハイライトが消えた目のソフィーやベルに「戻ってきてくれないんですか?アキさん嘘つきなんですね?」と脅された。怖かった。どれだけ説明しても、同じ文言をひたすら繰り返すだけの2人に恐怖を覚えた。めっちゃ怖かった。
そして気づいたのだ。「毎日帰らなければ殺される」ということに。
「まあ……気持ちは嬉しいけど。」
アキは溜息を吐く。心配してもらえるのは嬉しい。
だがユーフレインとベルフィオーレの転移は人目につかない場所で行わなければならない。街への移動と活動拠点の確保を1日で終わらすのは当然不可能。つまり毎日16時までに人目につかない場所を探さなければならないという事だ。見知らぬ土地でそれがどれだけ大変かは想像に容易い。
「拠点を見つけるまでそれの繰り返しだ。その時間を省く為に、数日こちらにいたかったんだよね。それなら3日でなんとか出来るだろ。」
だが数日こちらにいるのは却下された。
「うーん、だったら3日じゃなく、拠点を構えるのにもっと時間をかければどうかな?それだったら大分楽になるんじゃないかな?」
イリアが代替案を提案してくれるが、それもダメだ。
「そしたら間違いなく『あれ?3日経ったのに私たちを連れてってくれないんですか?アキさん嘘つきなんですね?』と脅される。」
活動拠点が決まったら、あの子達もこちらへ連れて来ると言ってしまった。そして3日あれば見つかるから我慢しろと説得した。つまり下手にその期間を過ぎてしまうと、それはそれでアキが殺される。あの子達を何とかして説得する為に、早計に物事を決め過ぎたようだ。そもそも3日なんて日数制限を付けなければよかったのだ。説明する順番ももっと熟考すればよかった。
まあそんな事を後悔しても、今となっては後の祭りなのだが。
「よし、こうなったら全部イリアのせいにしよう。イリアが帰らせてくれなかった。イリアの提案だった。それなら俺は安全だ。」
「なんで!?待って!それは待って!そしたら私が殺されるから!あの子達すぐ本気になるから!アキならわかるよね!?わかってるよね!?」
イリアが必死に止めてくる。そしてお願いだから本当にやめてと懇願してくる。
さすがのイリアもミルナ達の暴走ぶりはよくわかっている。彼女達がアキの事に関して妥協しないのは、この短い期間で十分理解したらしい。
「アキ、大変。」
ルティアが他人事のように言ってくる。
「うん、じゃあルティアのせいにするね。」
「待って。アキ。私が悪かった。それはダメ。やめて。」
アキの言葉を聞いたルティアが目を見開き、小動物のように慌て始めた。可愛い。
「とりあえずあれだ……この3日で何とかしないと3人の内の誰かが死ぬ。」
イリアとルティアが必死に頷いている。ようやく事の重大さを理解してくれたようだ。何を大袈裟な……と思うかもしれないが、ベルフィオーレに残して来たミルナ達の性格を考えると……いや考えるだけで恐ろしい。
「活動拠点を何としてでも3日で探す。勿論毎日ちゃんと16時にベルフィオーレに戻った上でだ。これしかないだろ。」
「うん、そうだね、それしかないかな。」
「が、がんばる。」
2人も納得してくれたし、とりあえず方向性は決まった。後はこれからの行動予定の確認とその時間配分だ。転移する為の人目につかない場所を探すのに、1時間は欲しい。そしてその場所が本当に安全かの確認、翌日の転移場所として適しているかなどの調査でさらに1時間。つまり逆算して考えると、実際に動けるのは9~14時といったところだろう。
「イリア、本気で走れば街までどれくらいかかる?」
「そうだね……全力で走れば4時間くらい……かな?」
そうなると、1日目は街の近くまでの移動になるだろう。街に入るのは明日。街の探索及び活動拠点探しだ。そして3日目に活動拠点を決定という流れが順当か。
「うーん、ただ拠点を決めるに辺り、資金がな……。」
これが次の問題だ。
ベルフィオーレであればいくらでも使える資金はある。爺さんの商会に提供した商品の報酬が使えきれない程残っている。ただユーフレインでは当然貨幣が異なるので、ベルフィオーレの金貨は使えない。つまりここではアキ達は一文無しだ。
「アキ、大丈夫?どうする?」
「案はある……。けどちょっと強引なんだよね。」
心配そうな顔のルティアを軽く撫で、アキの案を説明する。
オリハルコンとアキが揃えば、出来ない事なんてほとんどない。大気魔素を自由に操れるのだから何でも出来る。つまりお金が欲しいのであれば、召喚魔法でこの国の国庫にでも保管されている金貨を召喚し、資金にすればいい。ただこれは明らかに犯罪行為なのであまり採用したくはないが。
「アキ、犯罪はだめだよ!そういうのはよくないかな!」
イリアはやはり反対のようだ。
勿論アキとしても自分で稼いだ金銭ではないので、この方法を取るのに罪悪感はある。こんな方法は正直使いたくはない。だが……
「2人の意見も聞きたい。この方法を使う?それともミルナ達に3日で拠点を見つけられない理由を説明する?『ごめん、やっぱりもう暫く連れて行けないよ』って言ってくれる?」
「アキの案採用。お金召喚。」
「そ、そうだね!今回はしょうがないかな!アキの方法で行こうね!」
ルティアとイリアが即答で前者を選ぶ。
どうやら2人もミルナ達の「お話」はなんとしてでも回避したいと思うらしい。まあ真摯に説明すれば、ミルナ達は最終的には理解してくれる。ただ必死の説得と説明が必要という注釈がつく。そしてその労力が半端ない。
「そういう意味ではちゃんと説明して、納得してもらい、時間をかける正攻法もありだとは思う。」
「うんうん、理解はするし、許してくれると思う。でもさ……それってアキに対してだけだからね!?だから期限を延ばす案はやめよう!」
そう、イリアの言う通りなのだ。ミルナ達が許すのはアキだけ。イリアとルティアに関しては「2人は使い物にならない」というレッテルを張られ、女の戦いとやらに発展する事になるのは間違いない。
結局諸々を考慮すると、アキ達には元から選択肢などない。
「そうなるよね。資金は召喚魔法で調達、3日で拠点を構える、毎日16時には帰る。これしかない。3人で平和な明日を迎える為、これで行こう。」
イリアとルティアがこくこくと必死に頷く。全員一致だ。
今回ばかりは仕方ない。犯罪になるが仕方ない。ミルナ達に殺されるよりはましだ。




