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「アキさーん!おかえりなさいですー!」
ソフィーが抱き着いてくる。普段なら鬱陶しいと引っ叩くとこだが、今日はこれが安心する。無事ベルフィオーレに戻って来れたのだとわかる。
「無事でよかったですわ。」
「べ、別に心配なんてしてなかったんだからね!ちょっとだけよ!」
「えへへ、おかえり、アキ。」
ミルナ達も口々におかえりと言ってくれる。相変わらずのツンデレが1人いるが。
「ただいま。とりあえずイリアを呼び戻さないとな。」
「あ、そうですわね。」
ミルナが頷く。
アキは早速オリハルコンを構え、ユーフレインからイリアを召喚するイメージで召喚魔法を発動させる。魔法印を使わないユーフレインからの召喚はこれが初めてだ。だが自分自身の転移が上手くいったのだから問題ないはず。
「イリア、戻ってこい。」
端的な詠唱と共に魔素をオリハルコンから解放。すると先ほどと同じように、オリハルコンの剣先に光が灯り、次第に広がっていく。
そして眩い光が収まると、そこにはイリアが立っていた。
「ただいまー!」
イリアが元気よく叫ぶ。
無事戻ってこられたようで一安心だ。ユーフレインでトラブルがなかった事より、転送や召喚が上手くいったことに安堵する。
何故なら生物の転移なんて物理的に証明できない。アキが造った地球からベルフィオーレへ転移する装置も、物理的な原理は正直よくわかっていない。あくまで次元を移動する為の扉を開くというだけで、そこを生物が通過した際、どういったプロセスでこの世界に転移するのか一切わからない。理論だけで言うと、空間を無理やり繋いで、移動しているのだろう。いわゆるどこでもドア的な原理だ。ただ生物がどうやって元いた場所から分解され、転移先で再構築されているのか。どうやって空間を物理学的に移動しているのかなんてわからない。だからこそ、ユーフレインからの転移が上手くいき、無事に帰ってこられた事に何より安堵してしまう。
イリアが戻ってきて、これで全員揃った。ただ隠し部屋で話をするのも落ち着かない。とりあえずいつも通り、みんなでリビングへと向かうとしよう。
ちなみに隠し部屋からリビングへ行くには、地下から2階のアキの自室へ戻り、皆の部屋の前を通過し、階段を下りて1階に行かなければならない。
つまり当然その移動中、ミルナの部屋の前を通りかかる。
「ミルナ、部屋見ていい?」
「え?あー……はい!大丈夫ですわよ!」
ミルナは少し考えた後、胸を張って返事をする。部屋が片付いていたかどうかを思い出していたのだろう。一応綺麗にする努力はしているみたいだ。ただアリア曰く、汚しては片付けての繰り返しらしいので、タイミングによっては大惨事になっているのだとか。まあ、片付けているのであれば文句はない。彼女にしては精一杯頑張ってくれているほうだろう。
ただ今回はその為に部屋を見たいわけではない。そう、あの実験の結果を確認する為だ。ユーフレインから戻って来た際、ミルナは何も文句を言ってこなかった。転移が上手くいかなかったのかと心配したのだが、どうやらミルナ達は1時間ずっと隠し部屋にいてアキの帰りを待っていたらしい。だからミルナの部屋を直接見て実験結果を確認する必要がある。
「はい、どう……ぞ……!?ち、ちょっと待って!アキさんちょっと待って!」
ミルナは自室の扉を開け、中へと招待してくれようとしたのだが、自分の部屋の惨状に気づいたらしい。彼女の反応を見るに、無事報告書の転送は成功していたのだろう。ちなみにイリアはアキの隣で引き攣った笑みを浮かべている。
「いいからいいから。」
アキは強引にミルナを押しのけ部屋へ入る。
ミルナの部屋はシンプルで、あまり生活感がない。エレンのようにぬいぐるみなど女の子らしい物は特になく、衣服や香水など必要なものが最低限おいてあるだけだ。最近はシャル作のアキ人形が追加され、ベッドの上においてあるが、女の子らしい可愛い物はそれくらいだ。
そんなミルナの部屋だが、アキは清潔感があって、結構好きだ。まあ散らかっていなければという注釈はつくが。勿論エレンのような乙女な部屋はそれはそれで可愛らしい。自室には個人の性格が出ると言うが、実際にその通りで、ミルナ達それぞれの個性が出ていて面白い。
「ち、違うんですの!これは私しりませんわ!ちゃんと綺麗に!綺麗にしてましたの!」
ミルナが必死に言い訳してくる。
まあ知らなくて当然だろう。これは先ほどアキが転送した物なのだから。むしろ1時間も隠し部屋で待っていたこの子達のほうが驚きだ。ミルナ達曰く「アキさんを心配をするのも私達の役目です」との事らしいが、そんな1時間が永遠に感じられる待ち方をしていた事に呆れた。それにちゃんと自室に戻っていれば、汚されてるのに気づけたはずなのに。
「これイリアがユーフレインに送っていた報告書だ。実験の為に俺がユーフレインから転送したから知らなくて当然だ。」
アキが淡々と事実を告げると、ミルナはアホみたいに口を開け、言われた事を必死に理解しようとしている。
しばしの間、部屋が沈黙に支配される。
「な、なんで私の部屋にするんですの!?人の部屋を汚さないでくださいませ!」
数分後ミルナが再起動したようで、叫びながら文句を言ってくる。
「いや、どうせ散らかってるからいいかなって。」
「散らかってないし、よくないですわよ!これ誰が片付けると思ってるんですの!?」
確かにミルナの言う事には一理ある。アキが汚したのをミルナに片付けさせるのは申し訳ない。つまりこれはアキが片付けるべきだ。
「俺が片付けるから心配するな。ベッドの下からクローゼットの中まで完璧に片付けておいてやろう。」
ミルナに安心しろと伝えるが、彼女は一ミリも納得できないようだ。
「やめて!?もう私が片付けますから!アキさんは触らないで!」
まあミルナが片付けてくれると言うのであれば、ありがたくお言葉に甘えるとしよう。
「ねえ、アキ?今のがやりたかっただけなのかな?だからミルナの部屋に転送したのかな?」
「え、そうだけど?」
イリアの質問に当然の顔で答える。すると彼女はくすくすと笑い始めた。
「へぇ、それだけミルナの事が好きなんだね。」
イリアが余計な事を言ってきた。先ほど下着を召喚した事への仕返しだろうか。
「そんなんじゃない……。」
アキはそれだけ言うと、オリハルコンを抜刀し、ミルナの部屋にある報告書を隠し部屋へと転送する。後で整理して隠し部屋にでも保管しておこう。
「あー!アキさん照れてるですー!」
目敏く気づいたうちのエルフが指摘してくる。こういう時だけやたら鋭いから困る。図星なので居心地が悪くなる前にリビングへと逃げようとしたのだが、ミルナが不敵な笑みを浮かべながら腕を絡ませてきた。
「うふふ、アキさん、ダメですわよ。一緒に行きましょう?」
何か癪だが、ミルナの機嫌がすっかり直ったのでまあいいだろう。
しかしこれだけ嫁候補がいると、誰かしらには考えが見抜かれてしまう。質が悪いのが、全員が心から慕ってくれている事だ。常に自分の事をちゃんと見ようとしてくる。さすがにこれだけの視線からは逃れられない。喜ぶべきところなのだとは思うが、段々と自分自身が丸裸にされていく気がして戦々恐々としてしまう。
うちの子達怖い。




