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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 帰還
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19

「いらっしゃい、アキ。」


 眩い光が消えると、イリアが目の前に立っていた。


 辺りを見渡すが、アキがさっきまでいた隠し部屋ではない。埃臭いぼろい小屋の中だ。机の上や床に書類が乱雑に散らばっている。これらがイリアが転送していた報告書だろう。確かに埃が積もっており、長い間放置されている事がわかる。


「イリア、問題ない?」

「うん、まったく人の気配はないよ。魔獣も今のところは大丈夫かな。」


 それは一安心だ。とりあえず1時間しかないので、やることをさっさとやってしまおう。


「イリア、時間ないから始めるね。」

「うん、わかってる。アキは必要なことをして。周りの警戒は私がしておくから。」


 イリアが胸を叩いて任せてと微笑む。彼女が周囲警戒をしてくれるなら安心して調査に集中出来そうだ。


「ふーん……景色はベルフィオーレと大差ないんだな。」


 アキは小屋の窓からそっと外を伺い、ユーフレインという世界を観察する。窓からみた風景は、エスペラルドやサルマリアの森林に近い。見た事のある植物が生えているし、植生もほぼ同じと言っていいだろう。勿論植物学的な検証をしたわけではないので、断定はできないが、葉の色や形が酷似しているし、生物学的にもおそらく同じ植物だ。


 これでベルフィオーレとユーフレインが同じ世界の別大陸の可能性は高まった。植物は風で種子を飛ばせる。海を越える事は容易だ。植生が似ているのは当然と言える。それにそもそも異世界なら、同じ植物が現存するわけがない。


「まあ異世界という可能性も捨てきれない。魔獣の体に種子がくっついて、ユーフレインの植物がベルフィオーレに到達し広まった可能性は0ではない……。とりあえずは同世界と仮定して話を勧めるか……。」


 森林の植生が似ている事から、この地域の気象環境はサルマリアやエスペラルドに近いと考えられる。ただサルマリアの高山地帯とは少し違う。あそこまでの肌寒さは感じない。どちらかというとエスペラルドの温暖湿潤気候に近い気候だ。


 ただベルフィオーレには四季がない。つまり地球の気候区分に当てはめる事が出来ない特殊な気候ということだ。ミレーは少し暑い、サルマリアは少し寒い、エスペラルドは丁度いい夏の気温が一年中続く。ミルナ達に聞いたところ、雨季というものも特になく「雨って一年中適当に降るものですわよね?」とか言っていた。


 だから果たしてユーフレインもそれと完全に同じなのかは、さすがにわからない。もしかしたらユーフレインには四季があり、偶々ベルフィオーレと同じ気候の時期に来た可能性はある。まあこれはある程度の時間をこちらで過ごさないと、なんとも言えないだろう。


「とりあえず細かい事はわからないけど、エスペラルドに近いと考えればいいか。今の気温と植生を見る限り大きく間違ってはいないだろう。もし四季があるならその時にまた考えよう。」


 気候についてはあくまで確認だけ。今はさほど重要な事じゃない。


「よし次だ。」


 他に確認したい事、それは重力や太陽の位置などだ。とは言っても、細かい測定機器なんてないので、全て体感だが。

 

 「地球から召喚しておいてもよかったかな……」


 ただそんな文明機器を、ベルフィオーレに持ち込んでいいのか迷ったので保留にしている。環境を測定する為にはどうしても機器を屋敷の外に持ち出す必要がある。その際不測の事態があって盗まれたりしないとも限らない。


「他世界の技術を持ち込んでもいい事なんてない。」


 そういう理由から、アキがエスタートに提供している商品も限定している。爺さんもそれをわかっているので、2人で徹底的にチェックを行っているのだ。アキが問題ないと思った物を提案し、爺さんがそれをベルフィオーレに適しているか確認する。それで問題ないと判断された物だけがミレンド商会で販売されている。


「……っと……まあこんなところか。」


 そんな事を考えながら環境の検証をしていたのだが、大方確認は終わった。30分くらいは経っただろうか。


 とりあえず結論から言うと、やはり環境はほぼベルフィオーレと同じ、それもエスペラルドにかなり近い事がわかった。


「最後に最重要事項である魔素についての確認だな。」


 どう検証をしようかと一瞬悩んだが、とにかく魔法を使ってみればいいという結論に達した。というかそれしかなさそうだ。


「炎魔法で火事を起こすわけにもいかないし、氷魔法にするか。」


 アキは窓の外にあった大木めがけ、氷刃を放つ。ベルフィオーレで魔法を使っていた時と同じイメージで魔法を発動。もし同じ速度、威力で魔法行使が出来れば、大気中の魔素もベルフィオーレと変わりないと考えていいだろう。


「うん、全く同じように発動するな……寸分の狂いもない。」


 一応炎魔法、水魔法なども大災害が起こらない程度に試したが、こちらも同様に発動できた。


 ちなみに治癒魔法も効果を測定する為、実験した。その際、短剣で指に傷をいれたら、イリアにめちゃくちゃ説教された。「実験とはいえそういうのは見たくない!二度としないで!」と凄い剣幕で怒られた。まあそれだけ心配してくれているという事なのだろう。嬉しい事だが、最初あった時のイリアとは大違いだ。


「最初はイリアだって俺を傷つけようとしたくせに。」

「あ、あれは!……あの、その……ごめんね……?」


 怒っていた表情が一転し、目に薄っすらと涙を浮かべるイリア。少し苛めようと思っただけなのに、そこまで凹まれるとアキの罪悪感が半端ない。


「とりあえず……あとはオリハルコンを使っての実験だな。イリア、この報告書、俺の屋敷に転送してもいいか?実験するのに丁度いい。それにこれをこの世界においておきたくない。」

「うん、別にいいよ。」


 抹消する予定だった資料だ。実験に使えるなら好都合。


「どれどれ。」


 アキは適当な報告書を拾い上げ、少しめくってみる。するとそこには可愛らしい丸文字で、ベルフィオーレの世界情勢が記されていた。


「あれ?この可愛い字がイリアの字か?」

「ち、ちょっと!アキ!恥ずかしいから筆跡の事は言わないでよね!」


 顔を赤くして文句を言ってくるイリア。


 そんなに照れる事ないのに。女の子らしくて可愛い字だと思う。それにルティアの字より大分綺麗だ。まあルティアの文字はあれはあれで愛嬌があるが。


 とりあえずベルフィオーレへ転送する為、アキは小屋にあった報告書をかき集め、一山にまとめる。


「よし、早速実験してみるか。」

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