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「それでだ……ここからが大事な話だ。反論はあるだろうが最後まで聞け。」
アキはそれだけ前置きして話を続ける。内容は今後の活動についてだ。きっとミルナ達も、アキがユーフレインにいつからどれくらい行くつもりなのか気になっているだろう。
「まず俺とイリアだけでユーフレインに行く。同行は許さない。」
「そ、そんなのだめよ!」
エレンが心配そうな表情で叫ぶ。文句を言われるのはわかっていた。ただこれは譲れない。
「とりあえず最後まで聞けって。」
「あ……うん。ごめん。」
「俺とイリアだけ行くって言っても、まずは1時間だけだ。」
ユーフレインに1時間だけ行くのは下見の為。まあ下見というよりは環境状況の確認だ。イリアが報告書を送っていたという小屋へ行き、そこでユーフレインの環境を確認する。1時間後に一旦こちらへ戻り、それを踏まえた上で改めてユーフレインに本格的に乗り込む。
「次に俺とイリアだけの理由。」
まずイリアを連れていくのは、単純に既に1回行っているからだ。彼女以外の同行者を許さないのは、戻って来られるかわからないから。確実にこちらの世界に戻る為、ミルナ達を敢えて残していくのだ。
「もしユーフレインの魔素濃度が低かったりしたら俺の力だけじゃ戻れないだろ?」
オリハルコンを使って大気魔素を直接操作し、転送魔法を発動できなかったら、アキにはこちらの世界へ戻る術がない。魔法印を描けば可能なのかもしれないが、この世界への転送指定座標が不明なのでそれも不可能。
なのでもしアキが自分自身の魔法で戻れない事態に陥った際は、こちらにある魔法印から呼び戻してもらう必要がある。だから大勢ではなく少人数で行く。
「俺の隠し部屋に召喚魔法印を残していく。1時間で戻らない場合はミルナ達はそれを発動させて俺を呼び戻してくれ。」
「確かに全員で向こうに行って戻れなくなりましたなんて最悪ですわね……。」
それが一番あってはならないことだと納得するミルナ。
「今回イリアを召喚するのに使ったオリハルコンは8本だった。俺が1本ユーフレインへ持って行くから間違いなく足りなくなる。ベル、夕方までにあと3本なんとか用意しろ。最悪エリザ経由でアイリス女王に頼んで貸して貰え。やりかたは任せる。」
「はい、わかりました。」
無理難題を振ったのに、ベルは何事でもないかのように了承してくれる。まあ彼女なら問題なく集めるだろう。
ちなみに追加で3本にしたのは何があるかわからないからだ。イリアの時は8本だったが、アキの時は10本必要かもしれない。以前立ち入り禁止エリアを見学した際、魔獣の命令付与に必要な魔素量に個体差がある事を確認した。必要な魔素の量、つまりオリハルコンの本数は、魔獣の個体によって異なる。そして同じ生物である人間に、それが適用されない理由がない。
「オリハルコンが揃い次第行ってくる。1時間で戻らない時は魔法印で俺を召喚しろ。」
「うん……でもアキ、無理はしないでね?」
リオナが心配そうな顔で見つめてくる。尻尾もすっかり垂れ下がっている。
「わかってる。大丈夫だ。」
今回の渡航はあくまでも下見。危険な事をする予定はない。戦闘を行うわけでもないし、街に行くわけでもない。ただユーフレインという世界を少し調査するだけだ。
「その次のユーフレイン訪問では街に向かう。同行者はイリア、ルティア。」
2回目の渡航ではルティアが増えただけだ。てっきり自分達も行けると思っていたミルナ達が当然納得するわけがない。
「なんでよ!それは絶対だめよ!」
「そうなのだ!私も連れてくのだ!」
エレンとエリスが真っ先に声を上げる。特にエリスは「アキの騎士なんだから絶対行く」と何が何でも譲らない様子だ。ただアキとしても絶対にこれを曲げるつもりは無い。
「イリアから世界情勢聞いただろ。ミルナ達を連れていけるわけないだろうが。」
ミルナ達みたいな美少女を大勢連れて歩いていたら、間違いなく面倒な事に巻き込まれるだろう。いや面倒な事ならまだいい。何かしらの犯罪に巻き込まれる可能性だって十分にある。
だからユーフレインの情報収集が終わるまでは、彼女達を連れていくつもりは絶対にない。もしかしたらイリアが言う程ユーフレインは混沌としてないかもしれない。偶々イリアの見た場所が悪かっただけで、案外平和な可能性だってある。だが今の段階では何の保証もない。イリアが見た事が全てだ。
まずはアキが自身自分の目でユーフレインという世界を確かめる。だから今はミルナ達を連れていけない。
「大丈夫なのだ!私はSランクだぞ!」
だがエリスも引き下がるつもりなはいようで、絶対に行くと言い張る。
「そんな事はわかってる。エリスだけじゃなくミルナ達冒険者組は全員実力者だ。でもみんながちょっかい出されたら俺が我慢出来ない。」
最悪そいつらを殺してしまうかもしれない。まあ殺す事は別にどうでもいい。ただユーフレインの法律、文化がわからないままそんな事をしたら、どんな面倒な事になるかわからない。国から指名手配なんてされたら二度とユーフレインに行けなくなってしまうかもしれない。
「後、暫くは目立ちたくないんだ。」
ミルナ達を連れていたら間違いなく目立つ。こちらの世界でもそうなのだからユーフレインでそうならないはずがない。色々と情報収集が終わるまではアキ達の存在を一切知られたくないのだ。
「それに何も連れていかないと言っているわけじゃない。ちょっとだけ待って欲しい。俺の我儘だけどね……駄目か?」
その言葉を聞いたら何も言い返せない……といった表情を浮かべるエリス。ミルナ達もどこか嬉しいけど寂しい、そんな顔をしている。
「それに1人で行かせてはくれないだろ?」
「当然ですー!それは絶対だめですー!」
ソフィーがドヤ顔で宣言してくる。まあそうだろう。だからこそのルティアとイリアを連れて行くのだ。ルティアは影に潜めるから目立つことはない。多分ユーフレインでも彼女の隠密性は通用するだろう。あと1人は正直誰でもよかったのだが、案内できる人物がいないといけないという理由でイリア。彼女には外套を被ってもらって目立たなくする予定だ。
「イリアも美少女だからな、悪いけど顔は隠してくれ。」
「う、うん。わかったよ。」
美少女と言われたのが恥ずかしいのか、恥ずかしそうに俯くイリア。
「アキさん!それなら私も行くですー!外套被ります!」
「そうだな!私もだ!」
ソフィーの発言に、それはいい案だとエリスが飛びつく。
「アホか。外套被った連中が5人も6人も歩いていたらそれはそれでおかしいだろうが。逆に目立つからダメだ。」
そんな集団が街中にいたら、秒で衛兵に職質されるか捕まる。
「ユーフレインにもすぐに行けるから我慢してくれ。それに皆には別で頼みがあるんだよね。」
「頼み?なんなのだ?」
エリスが首を傾げる。
「うん、皆でイリアを鍛えろ。」




