12
アキは改めて自分の考えをミルナ達にわかりやすく説明する。
ユーフレインは魔獣が跋扈している上、国同士が争っていて、さらには犯罪も蔓延している。まあ平和とは程遠い世界という事だ。
ただ「平和じゃないんだから仕方ないね」と全ての人が納得するわけがない。そんな自分の世界に絶望する人がいてもおかしくはない。そしてそれを何とかしようとする人間も当然いるはずだ。
こちらの世界でも過去には国や人が争っていた。だが魔獣はいなかった。そんなこの世界の存在を何らかの方法で知ったユーフレインの人間が、魔獣による犯罪者抑制制度を導入させた。おそらくその効果を測定する為だ。もしそれによって争いや犯罪に抑制効果がみられるのであれば、ユーフレインでも導入しようと考えた。魔獣はユーフレインにいくらでもいるのだから、効果が立証されれば実行は容易というわけだ。
「まあこっちの世界に制度を導入した人は善意でやった部分もあったかもね。」
完全なる善意とは言い切れないが、悪意だけでやったわけではないのかもしれない。ユーフレインだけでなくこちらの世界もよくしたい。そう言った気持ちからこの実験に踏み切ったのかもしれない。当然事態が悪化する可能性はある。だが実験にリスクはつきものだ。それなら滅んでもその人物に直接影響がでないこちらの世界で実験をした。そんなとこだろう。
「それをこちらの世界の人達が許すかどうかは別問題だけど。」
「なるほど……王女として言わせてもらうと、私の国でそんなことしないでって感情と、国の為なら犠牲は止む無しといった感情が……あります。」
複雑そうな表情を浮かべるベル。
「ベルは王女だからそれでいいんだよ。それでイリアの報告書が放置されていた件だけど、可能性としては2つ。」
国ぐるみで実験をやっていたが、内乱や戦争でそれどころじゃなくなり、破棄された。もう1つは、国ではなく個人や組織がひっそりとやっていて、その個人が死んだか組織が壊滅して、事実を知る者は誰もいなくなり闇に葬られた。
「俺の想像だけど後者な気がする。国が関与しているなら小屋を放置したままにするのは考えにくい。敵国に見つかったら重大な機密情報の漏洩になるからね。」
オリハルコンの使用方法などが特にそうだ。これは戦争で戦況を変えられるようなレベルの魔法が使える道具だ。
「なるほどですわ。」
ミルナが感心したように頷いている。
「俺がしたいのはその事実の裏付け。そして記録の抹消だね。」
アキの予想通りなら、それほど時間はかからないと思っている。オリハルコンを手掛かりに探せばすぐに実験を行っていた張本人を割り出せるはずだ。こんな特殊な素材を扱っているのだから、情報さえ掴めば特定は容易だろう。そしてその個人か組織が現存するかを調査する。しているなら潰す、していないなら記録を抹消する。
「そしたら俺の目的は終わり。あとはイリアの依頼のほうだな。ただユーフレインの事は基本的にユーフレインに任せた方がいいと思う。多少の手助けはするけどね。別世界の人間が不用意に干渉しても仕方ない。」
アキはユーフレインの要人でもなければ王族でもない。ベルのような知り合いがいるわけでもない。そこまでする義理はないし、するべきではない。地球でもよくあった事だが、国の情勢に他国が介入していい方向に進んだ試しなどほぼ無い。悪化するか、多大な犠牲の上に偽りの平和が訪れるだけだ。
「政策の指針、犯罪抑制の手助け、そういった指摘を裏から少しだけする。ユーフレインの文化も何もしらないのに、俺達がしゃしゃり出て『戦争は良くない事です止めましょう』って言うのはダメだろう?」
「そうだね、うん。アキの言う通りだよ。それはただの偽善だ。ユーフレインの人からしてみれば『何も知らないくせにいきなり出てきてふざけた事いうな』だよね。」
アキの説明にイリアも納得したようだ。不用意に世界を変えるとか言い出さなくてよかった。世界を変えるのはその世界の国の仕事。アキ達の仕事ではない。まあその手助けや知識の共有くらいはするつもりだが。
「だからまずユーフレインへ行って、状況を確認して、この世界の記録を抹消。そしてユーフレインに対するささやかな手助けをする。って感じかな。」
「アキさん、しばらくは向こうに行く感じになりますの?」
ミルナの質問にアキは頭を振る。
「昼間は向こうに行ったとしても夜はこっちだ。俺はこっちの世界の人間のつもりだからね。俺はこの世界で暮らしたいんだ。ダメか?」
つまりユーフレインへの渡航は仕事のような物だと考えればわかりやすい。平日の昼間はユーフレインで過ごし、夕方になったらこちらへ戻る。そして休日はずっとこっつちで過ごす。
「いいえ、ダメじゃないですわ。」
小さく微笑むミルナ。アリア達もアキの言葉を聞いてどこか安心したような表情だ。特にベルは満面の笑顔になっている。まあ彼女は王女としてこれからもミスミルドいなければならない。だからアキがこちらの世界にずっといると断言した事が嬉しいのだろう。




