↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 帰還
337/1143

9

「じゃあ次は文明についてだな、イリア頼む。」

「あのね、アキ、ごめん。私バカだからそういうのよくわからなくて……何を調べればいいのかわからなかったんだよね……。」


 イリアが申し訳なさそうに呟く。


 だがそれは別にイリアのせいじゃない。文明を調べろなんてアキの指示が曖昧過ぎた。しかもイリアはわからないなりに調べられるだけ調べてくれたらしい。だからイリアはバカでもないし役立たずでもない。むしろそこまでしてくれたのだからベル並みに優秀だと思う。


「じゃあ俺が質問する。わかるなら答えて。わからないのはわからないでいい。」

「うん、それなら大丈夫かな!」


 元気よく頷くイリア。


 ちなみにミルナ達は一切会話にはいってこない。アキの邪魔をしないようにしてくれているのだろう。アキが雑談を始めない限り、絶対にはいってこない。天真爛漫な子達だが、この子達はそういう子達だ。


「まずは基本的なとこからいこうか。この世界とは結構違ったか?」

「うーん?どういうこと?」

「そうだな……」


 イリアに文明について詳しく説明する。例えば交通手段。この世界では移動手段は馬車か徒歩だ。地球なら車や飛行機がある。他には食べている物や着ている物、それに住んでいる場所などが文明レベルの判断基準になる。


「別に細かいところはわからなくてもいい。」


 イリアが「この世界とは全然違う!」と驚いたなら、それは文明レベルが大きく違うと言うことだ。


「見た事も聞いた事もない物があったとか、理解できない物がいっぱいあったとか……そういうのはあるか?」

「それならわかるかな!なかった!この世界と大体一緒!」


 難しい事を聞かれなくてよかったと安堵の表情を浮かべるイリア。


 とりあえず彼女が一緒だと言うのであれば、文明レベルはこの世界と同等と考えていいだろう。技術がやたら進歩しているとかはなさそうだ。


「なるほど。それは逆に安心だな。わけのわからない物に遭遇する事はなさそうだからね。」

「なるほどね!とりあえずユーフレインでは不思議な事とかはなかったし、特に問題なかったかな!」


 ユーフレインの文明レベルはこの世界と同じくらい。そして魔素があり、魔獣もいる。これはやはり異世界ではなく別大陸なのかもしれない。アキの予想では異世界だったが、話を聞く限り、別大陸の可能性が非常に高い気がする。


 それなら……アキは続けて質問する。


「じゃあ次。冒険者という職業はある?」


 この世界以上にユーフレインでは魔獣が跋扈している。だとするならばそれを討伐する職業があってもおかしくない。この世界とこれだけ類似しているのであれば、おそらくはある。それにアキ達がユーフレインに行くことになったら間違いなくカモフラージュに使える職だ。


「うん、あったね。詳しくはわからないけど。冒険者じゃなくてハンターって名前だったかな?『今日のハンターの依頼は~』って会話を幾度となく聞いたよ。」


 呼称は違えど、やはり魔獣討伐系の職業はあるようだ。きっとこの世界の冒険者同様ランク付けなどもあるのだろう。まあさすがにそこまでは調べられなかったようだが。だがそれは一週間という限られた時間しかなかったのだから仕方がない。


「ちなみにハンターの戦闘レベルはどうだった?こっちのSランク相当の人間はいたか?」


 世界が違えば、基本的な実力が変わってくる可能性は十分にある。日常的にいるハンターのレベルがこちらのSランク冒険者相当の実力という事もありえる。もしその世界の人間が圧倒的な戦闘力を持っているのであれば、アキ達が訪問するには少々リスクが高い。


「うーん、私が見た限りはいなかった。こっちのC、Dランクくらいはいっぱいいたけど。多分ハンターでも実力者ならSランクレベルの人もいるんじゃないかな……?」


 イリアが両手を擦り合わせるようにしながら呟く。必死にユーフレインでの出来事を思い出しているのだろう。両手をこすっているのは考え事をする時の彼女の癖なのだろうか。さっきから考え込む度、手を可愛らしくすりすりさせている。


「それについてはそれで十分だ。ありがとう。」


 兎にも角にも、戦闘の実力差がないのであれば問題はない。こちらには大気魔素を使った魔法という驚異的な力がある。さらにはSランク最上位実力者のエリス、隠密に特化した元Aランクのルティアもいる。勿論ミルナ達もSランクで上位の実力者だ。そしてイリアもミルナ達以上の実力だろうから、異世界に乗り込んでも戦闘力的には問題なさそうだ。


 むしろアキの戦闘力が一番不安だ。オリハルコンを失くしたら何も役に立たないのだから。それに頼らなくてもいいよう、もっと訓練しなければ。この子達の足を引っ張りたくはない。






「じゃあ最後の質問だ。人同士の争いはあるか?いや、どの程度あるんだ?」

「そっか、やっぱりアキにはわかっちゃうかー。」


 イリアが少し悲しそうな顔をする。帰還した時と同じ表情だ。


「まあなんとなくはな。」


 アキとて最初から全部わかっていたわけではない。イリアの話を聞いていくにつれ、恐らく彼女が辛そうにしていた理由はこれだろうと推測を立てただけだ。


 ユーフレインはこの世界に魔獣制度を提供した。そして2つの世界は酷似している。そこから導き出される結論は1つだ。やはりユーフレインはこの世界でオリハルコンと大気魔素の実験をしていたのだ。


 この世界は290年前は人々の争いも絶えず、犯罪も蔓延していた。そこに魔獣が現れ、犯罪者を駆逐し、長い年月を経て、平和な世界となった。


 幸いにもこの制度は平和という結果をもたらしたが、必ずしもそうなるとは限らない。だからユーフレインに似たこの世界に魔獣を放ち、世界がどう変わるのかを見たかったのだろう。魔獣にオリハルコンで命令を付与し、各地に解き放つ。それによって人々の争いがどう変わるかを検証する。オリハルコンの使用方法を発見した人物が、ユーフレインで使う前にこの世界で効果を試した。


 だから魔獣制度提供元であるユーフレインでは争いが絶えないのではないかと推測できたというわけだ。イリアの話を聞く限り、これで大きく間違ってはなさそうだ。


 勿論いくつかの疑問は残る。ユーフレインの人々はどうやってこの世界を見つけたのか。そもそもどうやってオリハルコンを見つけ、その活用方法を発見したのか。そして何故実験は放棄され、今は干渉がないのか。そして最大の疑問である「一体誰が?」。まあこれについて今は結論は出ない。ただ看過はできない疑問だ。再干渉を防ぐ為に原因を突き止め、手を打たなければならない。


「アキ?大丈夫かな?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてた。続きを話してくれ。」


 イリアの声で我に返る。


「うん。それでユーフレインだけどね。酷いもんだったよ。犯罪は蔓延しているし、街中でも安全と思えるような場所はないかも。国同士も争っているみたいだね。あ、もちろんいい人もいた……と思う。」


 イリアが言うには、窃盗、殺人、性犯罪となんでもありらしい。完全に弱肉強食な世界。弱ければ搾取され、犯され、殺される。もちろん全てがそうというわけではないだろうが、治安は最悪と言ってよさそうだ。


 街中では人同士が争い、街の外には魔獣が跋扈している。さらには国同士も争っている。まさに290年前のこの世界。そんな場所なのだろう。


「一応街では平和に過ごそうとしている人が大多数だった。でも犯罪も日常茶飯事だから気を付けないとすぐに巻き込まれるかもって感じかな。一番驚いたのは目の前で殺し合いがあっても周りが平然としている事だったよ……。」


 多分ユーフレインに暮らしている人にとって、それが日常なのだ。色々と見慣れてしまっているのだろう。地球でも中東などの紛争が絶えない地域に住んでいる人だったら同じ感覚なのかもしれない。それに比べ、この世界はあまりにも平和すぎる。この世界しかしらないイリアであれば相当ショックを受けただろう。


「この世界は本当に平和だよな。俺の世界でもここまで平和ではなかった。」

「ほんとにね。こっちの世界の素晴らしさが身に染みてわかったかな……。」


 イリアが複雑そうな笑みを浮かべている。まあ彼女の心境を考えるとその感情も仕方ない。育った世界は平和だが、自分の故郷であるはずの世界は混沌なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。