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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 帰還
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8

 まだまだイリアの報告は残っているので、続きを話すように促す。


「次は『世界の言葉』についてだね。アキから渡された紙に書いてあった通り、文字は全然わからなかったよ。でもしゃべってる言葉はわかったし、通じた。これがアキが言っていた言語の違いなんだね。やっとわかったよ。」


 イリアを転送する前、報告書の文字について確認した。その時はよくわからないと言っていた。やはり地球のように多種多様の言語がないと「言葉の違い」なんてそもそも考えたりしないのだろう。とりあえずイリアに報告書を試しに書いて貰ったら、この世界の文字で書いてあるのが確認できた。


 ちなみにイリアは魔法印の術式模様がわからないと言っていたので、そのことからこの世界とイリアの世界の言語は異なると推測できる。


 ただ会話は成り立つ可能性があると予想していた。もし魔素が存在するのであれば、アキがミルナ達と会話できているのと同じ原理が適用されると思ったからだ。最初に魔素の有無を調べさせたのはその為もある。言葉もわからない、文字も読めないだと調査が難航するのは想像に容易だ。その場合の対処も一応指示書に記しておいたが、必要なかったようだ。


「次に『世界の名前』だったね。そんなものあるのかなと思ったけどあったよ。世界の名前は『ユーフレイン』。アキはよくあるとわかったね。」

「ああ、それね。ミルナにも以前言ったんだけど、この世界や俺がいた世界に『名前』なんてないんだ。」


 この世界の人間も地球の人間も「他の世界」が存在するとは考えてない。世界しかり、言語しかり、1つしかないものに名前を付けない場合は多い。イリアの世界は召喚魔法を実現し、この世界に魔獣を送り込んでいた。つまり異世界が存在すると理解している。だから自分達の世界にも名前を付けているだろうと考えただけだ。


「なるほどね!うんうん、納得だよ!」

「ちなみにどうやって調べたの?」

「あ、そっか。えっとね……。」


 転送後、イリアは小屋を出て、隠密行動に徹したらしい。まずは水源を頼りに、数日かけて森を抜け、最寄りの街を発見した。ここで文明が滅んでない事を確認。そしてそこに忍び込んで世界の名前等の情報収集を行った。きっと言語の確認もその時にしたのだろう。


 森や街の雰囲気はエスぺラルドと類似しており、この世界と似ていると感じたらしい。他にもユーフレインの情景について、イリアは色々詳しく説明してくれたが、いまいちピンとこなかった。アキは情景描写に関する想像力はそれ程豊かな方ではないので、実際に見に行くしかなさそうだ。まこの辺りについては詳細にわからなくても問題はない。


 重要なのは世界観だ。イリアは帰還した時、少し浮かない表情をしていた。つまり何か相談事があるという事だ。結果、アキが行く必要があるかもしれない。だからそのあたりの情報はできるだけ知っておきたい。


 ちなみにユーフレインは魔獣召喚元の世界だけあってか、この世界より遥かに多くの魔獣が闊歩している。そして街は魔獣の襲撃を防ぐ為、ミスミルドやレスミアのように高い壁に囲まれていたらしい。人類の生活基盤は街が中心で、街の外にはほとんど人はいなかったのだとか。


 聞けば聞くほど確かにこの世界と類似している。アキはもしかしてという考えが頭をよぎるが、一旦頭の隅においておく。何かの結論を出すにしてもまずはイリアの話を全て聞いてからだ。


「イリア。人種、通貨、文明についてはどうだった?」

「うーん……」


 イリアは眉間に皺を寄せながら唸る。必死に思い出してくれているようだ。人種や通貨はともかく、「文明」なんて抽象的過ぎて調べるのは難しかったかもしれない。


「人はね、この世界と変わらなかった。人族が基本だったね。エルフや獣人、他にも見た事ない種族がいた。でも獣人が結構多かった。特に兎や猫が多かったかも?」


 それを聞いた瞬間、アキは立ち上がって叫んでしまう。


「なんだその世界は!パラダイスか!よし、今すぐ移住しよう!」

「はいはい、アキ落ち着こうね。私の尻尾触ろうね。」


 リオナが慣れた様子でアキに近寄ってきて、尻尾を押し付けてくる。


 とりあえず目の前に出された尻尾は撫でるのが主義だ。さすがリオナ、手入れの行き届いた良き尻尾だ。


「あはは……えっと、リオナ、何してるの?」


 イリアが呆れ顔だ。


「アキは獣人となると頭がおかしくなるから落ち着かせているんだよね。」

「失礼な、これが世界の常識だ。」


 モフパラ王国を作るのは全人類の夢のはずだ。それは間違いない。もしそれを理解できないという人物がいるのであればそいつは絶滅すべきだ。


「アキさん、人類絶滅させないでくださいね?さあ次は私の耳を触りましょう。」


 セシルが兎耳をぴくぴく動かしながら差し出してきた。目の前に差し出された兎耳は撫でるのが主義だ。なんか今軽くデジャブった気がしたが、気のせいだろう。


「うむ、いい尻尾と耳だった。今日もいい日だ。そろそろ昼寝でもするかな。」

「いやいや!まだ私の話の途中だからね!勝手に終わらせないでね!」


 イリアが何言っているんだこいつといった表情で非難してくる。


「兎耳や尻尾のない者に発言権はない!生やしてから出直して来い!」

「それ一生無理だよね!むしろ来世の私に期待だよね!」


 意外とこの赤髪の美少女は使えない子らしい。異世界の人間なのだから、兎耳くらい生やせる能力くらいないのか。


「そんな使い道のない能力絶対いらないからね!ねえ、アキはばかなの!?」


 必死に突っ込むイリア。いい子だ。


 ちなみにアキはリオナの尻尾を顔面に押し付けられ、手にはセシルの耳を握らされ、強制的に癒されている。そしてエリザは出遅れたようで、羨ましそうにこちらを見ている。後でうちの猫のも触ってやろう。


「冗談だ。」

「半分以上本気だったよね?私にはわかるからね?まあ……それだけ私の尻尾好いてくれているのは嬉しいから……いいんだけどね……。」


 リオナがどことなく嬉しそうに呟く。


「とりあえず人種はわかった。他についてはどうだ?」

「まったく……私そんな急に話題切り替えられないんだから、やめてよね。」


 イリアが少し拗ねたように頬を膨らませる。


「とりあえず続けるね。通貨だけど、それもこの世界と基本的には同じだと思う。」


 イリアが机に銀貨、銅貨を並べる。たださすがにこの世界の物とはデザインが違う。銀と銅があることから、おそらく金貨等もあるだろう。


 しかし実物があるのは非常にわかりやすい。でもイリアはこれをどうやって手に入れたのだろう。稼ぐ暇なんてなかったはずだ。


「あはは、短剣を売ってみたんだよね。」


 イリアは何気なく言うが、自分の武器を手放してまで調査してくれたらしい。本当にいい子だ。これはお礼に何かあげなければと思い、アキはちょっと待ってと伝え一旦自室に戻り、ガランから定期的に届けてもらっている短剣を持ってきた。


「イリア、これ新しい短剣だ。使いなさい。」


 イリアはありがとうと素直に短剣を受け取り、鞘から抜く。ただ光り輝く短剣が出てくるとはさすがに思わなかったのか、目を見開いてすぐに納刀すると、アキに返そうとしてきた。


「こ、こんなのは貰えないかな!私の売った短剣は安物だから!」


 アキはそれを手で制し、いいからとイリアを落ち着かせる。


「必ず役に立つ日がくるだろうから持っておいてくれ。」


 武器はミルナ達にも以前あげた。ならイリアにもあげておきたい。それにもし彼女がまた異世界へと行くのであれば、武器は持っておいた方がいい。


「それに剣の方も俺の世界の知識で新しく作る。見せてもらってもいいか?」


 だから彼女の主要武器である剣も当然新調してあげるつもりだ。


「そ、それは別にいいけど!で、でも!」

「いいから。」

「うー……とりあえず、はい……」


 イリアは遠慮しながらも、自分の得物を渡してくれた。


 アキは重さや長さなどをメモする。後でガランに使いを出し、イリア用の武器を大至急作らせよう。数日以内に作ってくれるだろう。


「俺がイリアに持ってて欲しいんだ。だから受け取ってくれ。」

「わ、わかった。ありがとう……えへへ、なんか得した気分だね!」


 イリアが嬉しそうに笑う。彼女の笑顔もソフィーに負けじと劣らず凄く魅力的だった。

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