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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第二十一章 帰還
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6

「みんなただいま!私は無事だからね!」


 イリアだ。無事に戻って来てくれた。特に怪我もないようで、ホッとした。ただ表情がどこか暗い気がする。きっと最高の帰郷というわけではなかったのだろう。


「おかえり。無事に帰ってきてくれてよかった。」

「えへへ、ありがとね!そう言って貰えるのは嬉しいかな。」


 まあ向こうの世界がどうだったかはおいておいて、まずは彼女の帰還を喜ぼう。


 ミルナ達も口々におかえりと言っている。皆に出迎えられ、イリアはどこか照れ臭そうだ。しかしそんなイリアを見ていると、こうして帰る場所があるというのはやはり素晴らしい事なんだなと思える。


「1回リビングに戻ろうか。少しゆっくりしてから話しをしよう。」

「うん、私もそれがいいかな。」


 イリアもひと息つきたいのか、アキの提案に頷く。


「アリア、悪いけど美味しい珈琲をお願い。」

「はい、アキさん喜んで。」


 準備してきますとアリアは早速キッチンへ向かった。アキ達もそれに続くように隠し部屋を後にし、リビングへ戻る。


「まずは珈琲でも飲んで一服しよう。」


 イリアには話したい事や聞きたい事は山ほどある。きっと彼女もそうだろう。だがそこまで急ぐ必要はない。イリアは怪我もなく無事帰還してくれたのだから、まずは珈琲を飲みつつ再会を楽しもう。話はそれからでいい。






「イリアが無事でよかったよ。」

「もうアキ……何回いうのさ。大丈夫だって!」


 イリアが頬を膨らましながら照れている。


 確かに心配し過ぎていたのかもしれない。だがアキはイリアを異世界に送還した張本人だ。もしイリアに何かあったらアキは後悔しか残らないだろう。いくらそれがイリア本人の希望だったとはいえ、アキは責任を感じずにはいられない。心配するのは当然だ。


「そ、そうかな……?でも、ありがと。」


 イリアが嬉しそうに笑う。


 そんな彼女の姿をみたソフィーが勢いよく立ち上がって叫ぶ。


「これはイリアもすぐにアキさんの女になりそうですー!」

「ちょっとこのバカエルフ!帰ってきて早々何を言っているのかな!?」


 イリアが慌てた様子でソフィーに食ってかかる。


「えへへ、その反応!満更でもなさそうですー!」


 ただソフィーはどこ吹く風で好き勝手にはしゃいでいる。さすがうちのエルフは自由だ。しかし帰還早々これではイリアが可哀そうなので、いつものトレーをソフィーに向かって投げつける。


「ぐへっ……」


 乙女らしからぬ奇声を上げるソフィー。綺麗にクリーンヒットしたようだ。


 続けてエリスに処理をお願いする。


「エリス、あれを1回庭に捨ててこい。」

「うむ!任せるのだ!」


 ソフィーの首根っこを掴んで引き摺っていってくれた。


「イリア、あのエルフの事は気にするな。」

「う、うん。助かったよ。ほんとにアレはまったく……。」


 庭に放り出された駄エルフを呆れた顔で見つめるイリア。


「でもイリアはアキさんの事嫌いですの?アキさんのお嫁さんになるのは嫌なんですの?」

「ち、ちょっと!ミルナまで何言ってるのかな!?」


 ソフィーがいなくなった次はミルナだ。どうやらうちの子達は本気でアキとイリアをくっつけようとしているらしい。いつもはすぐに「お話ですー!」とか言うくせに、イリアの事に限っては絶賛勧めてくる。


「ミルナ、それ以上はやめておけ。イリア自ら望むならいいけど、無理にする事じゃない。イリアの好きにさせてあげなさい。」

「あ……はい。すいません。イリアもごめんなさい。」


 ミルナは素直に謝罪する。アキの言いたい事をちゃんと理解してくれたようだ。


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから!それにミルナ達の気持ちはわかってる。ちゃんと全部が終わってから考えるから。だから……それで今は勘弁してよね?」


 どうやらイリアもミルナ達にはあまり強く出られないようだ。でもその気持ちは凄くわかる。ミルナ達に悪気は一切なく、自分の事を想って言ってくれているだけ。だから怒るに怒れないのだ。


「ねえ、ちなみに……アキは……その、私がそうしたいって言ったらどうするのかな?」


 イリアが俯きながら呟く。


「そしたら当然『喜んで』って答えるな。俺はイリアの事は気に入っているんだよね。ほら、俺達似た者同士だろ?だから話も合うし、一緒にいてなんか落ち着くんだよね。」


 アキとイリアは世界は違えど、同じ異世界出身。そして2人ともミルナ達に影響を受けた人間だ。だからミルナ達の気持ちや考えてる事はお互い手に取るようにわかる。そして彼女達といる時の居心地の良さも、きっと誰よりわかっていると言っても過言ではない。


「あはは、確かにね!それは私もあるかも!」


 イリアが楽しそうに笑う。


「じゃあ、アキ。もし私がそれを選んだ時はよろしくね?」

「ああ、もちろんだ。」


 そんな適当な雑談をしていたら、アリアとシャルが珈琲を淹れてリビングに戻ってきた。丁度いいタイミングだ。さすがうちのメイド達。


「今日は特別に皆さんの分もお持ちしました。」


 アリアが嫌そうな顔で珈琲を全員に配る。いつもならアキの分しか淹れないアリアだが、今日は全員分を用意しろとアキが念押ししたのだ。


 しかしそんなに嫌か。そこまで嫌か。


「普段からそうしてくれ。」

「無理です。」


 はっきりと断言するアリア。


 無理らしい。まあアリアのこれは今に始まった事じゃないし、今日はちゃんと全員分あるのでよしとしよう。


「イリア、とりあえず飲みなさい。」

「う、うん……これなにかな……?」


 イリアが不思議そうに出された珈琲を見つめている。そういえばイリアに珈琲を出したのは初めてだった。


「俺の世界の飲み物で珈琲っていうんだ。大丈夫だから。」

「わ、わかった。」


 見た目から味が想像出来ないからか、イリアは緊張した面持ちで珈琲に口をつける。


「に、苦い……かな……?」


 ブラックではやはり苦いのか、しかめっ面になっているイリア。どうやらブラック派ではないようだ。


「苦いなら甘くするといい。そういうものだ。」


 イリアにミルクや砂糖を勧め、自分好みの甘さに調節するように伝える。すると「それは楽しそう!」と色々試してくれた。


「あ、これなら飲める!うん、美味しい!私はミルクかな!」

「そうか、ベルやミルナと一緒だね。」


 ミルク派がまた1人増えたようだ。


「私としてはアキさんやアリアさんが何も入れずに飲める事が凄いですわ。」

「苦味を楽しんでるんだ。ねえ、アリア?」


 ミルナはブラックを飲めるアキ達が凄いと言うが、こんなものはただの個人の趣味趣向だ。別に凄くもない。それにミルナ達の飲み方が間違っているわけでもない。自分の好きなように飲めばいいだけだ。気にする事ではない。


 だがアリアに話を振ったのがそもそも間違いだった。


「はい。味覚がおこちゃまな皆さまにはこの至高な味はわからないのでしょう。」

「だ、誰がお子様ですか!私は大人の女性ですわ!」


 速攻で喧嘩を売っていくアリア。ミルナだけじゃなく他の子達まで不機嫌になっているからやめなさい。


「アリア、煽るな。珈琲の楽しみ方は自由だから、ミルナはミルナの飲み方でいいんだ。」

「そ、そうですの?」

「うん。好きなように飲めばいい。」

「うふふ、はい。」


 アキがそう言うと、ミルナは嬉しそうに微笑む。他の子達も「アキがそう言うならそれでいいや」と秒で機嫌が治った。相変わらず単純な子達だ。


 とりあえずこれを飲んでしばしゆっくりしよう。話をするにしても、うちの暴走エルフが戻ってくるのを待たなければいけない。イリアからの報告はそれからだ。


「アキさんー!あなたのソフィー、今復活でーす!」


 何時の間にかリビングに戻って来ていたソフィー。


 だがまだ10分も経ってない。今日はやたらと早い。そもそも珈琲もまだ飲み終わってない。なのでアキは再度エリスに命令する。


「復活が早い。エリス、もっかい捨ててこい。」

「なんでですかー!いーやー!」


 必死に抵抗するソフィー。だがそんな抵抗空しく、エリスが速攻で庭にソフィーを放り出してくれた。


 今日もうちは平和だ。


「あはは、相変わらず容赦ないね。でもここは楽しいかな。」


 イリアが楽しそうに笑っている。


「ああ、そうだな。ソフィーのおかげだ。」


 これはソフィーの才能だ。どんなにどんよりしそうな空気でも、あの子がいると場がすぐに明るくなる。そう言った意味では本当に凄い子だと思う。アキには一生出来ない事だろう。

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