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「とりあえずこの屋敷買いますので手続きをお願いできますか?」
ミルナ達の事は気にするなとだけフォローして、早速手続きをお願いする。案内人はすぐにわかりましたと頷いてくれた。切り替えが早い。商売人の何事にもめげないこの根性はさすがだ。
「それでお支払はいかがいたしますか?分割なども出来ますが。」
「今一括で払います。」
アキは白金貨を6枚取り出し、机の上に並べる。
「かしこまりました。では書類を準備しちゃいますね。」
書類の束を取り出しながら笑顔で頷く案内人。しかしアキが大金を出したのを見ても、目の色一つ変えなかった。めげない根性だけじゃなく、この辺りもさすがだ。高級物件を扱う不動産だけはある。
「まってくださいませ!」
ミルナが急に声をあげる。
一体どうしたのだろう。この屋敷を買う事に今更文句でもあるのだろうか。不思議に思い、ミルナの方に視線を向ける。
だがその瞬間、エレンとリオナが机の上においた白金貨を回収してしまった。本当に何をやっているんだ。
「ふふふー!アキさん!このお屋敷は私達4人で買いますー!」
そしてソフィーがドヤ顔で高らかに宣言する。同時にミルナ達が白金貨を2枚ずつ机の上に置いている。
「それではこの屋敷の名義はみなさんでよろしいですか?」
案内人の子が尋ねる。彼女に特に驚いた様子はない。まあ不動産屋からしてみれば、物件が売れるのであれば誰が買おうが関係ないのだろう。
「いえ、アキさんでお願いしますわ。」
ミルナが迷う事無く即答する。
「いや、色々おかしいだろ。別にミルナ達が買う必要ないよ?」
あまりにも淀みのない流れで口を挟む隙が無かったが、さすがに止めなければ。そもそも屋敷を買うと決めたのはアキだ。この子達がお金を出す必要はない。
「駄目よ!ここは私達が買うの!アキは黙って見てなさい!」
何故かエレンに怒られた。いや多分これは照れ隠しだ。少しエレンの頬が赤い。しかし一体全体どうしたものか。何故急にこの子達は代わりに買うとか言い始めたのだろうか。
アキがうーんと首を捻っていると、リオナが教えてくれた。
「あのね、私達結局アキになにもプレゼントできてないでしょ?だから昨日4人でお屋敷を買う事になったら私達で買ってアキに上げようって決めたの。まあ結局はアキから貰ったお金なんだけどね……。でもダメかな?」
リオナが尻尾をぱたぱたさせながら聞いてくる。これはずるい、可愛い。
「気持ちは嬉しい。でもそれはリオナ達のお金だ。自分達の為に使いなさい。」
ただこの子達がそう決めたなら、アキが何を言っても曲げないだろう。だがアキとしても黙って素直に頷くわけにはいかない。
「こんな大金使いきれませんわ。それに私達は欲しい物なんてないんですの。だってここにもうあるんですから。ね?」
ミルナがそっと手を握ってくる。うーん、ずるい。こう言われたらもう何も言えない。きっとミルナもそれをわかっててやっている。やはり何を言っても無駄だったようだ。この子達はアキなんかよりずっと頑固なのだから。
「それでは私はこれで失礼します。お買い上げありがとうございました。」
案内人がそそくさと引き上げていった。もう手続きも終わったから気を遣ってくれたのだろう。まあこんなしょうもない茶番に付き合ってられるかという表情をしていた気がしなくもないが。
しかし今回は上手くミルナ達にしてやられた。アキが屋敷を買う瞬間に割って入り、お金を自分達のと差し替える。そしてアキが下手に口を挟めないよう、ミルナ達が代わる代わるアキの気を引く。そこまで計画していたのだろう。うちの子達もなかなかやるようになったものだ。
「大事にしてくださいませね?」
「喜んでもらえましたですー?」
「か、感謝しなさいよね!」
「身に着けられるものじゃないけど、ごめんね?」
それぞれが花が咲いたような笑顔を向けてくる。まあエレンだけは相変わらずのツンデレで、口を尖らせてそっぽを向いているが。
「ありがとう。大事にする。本当に嬉しい。さすがうちの子達だな。」
アキを喜ばせようとここまで計画してくれたのは嬉しい。素直にうちの子達の贈り物としてもらっておくことにしよう。しかしまさかプレゼントがこう来るとは思ってもみなかった。中々にいいサプライズだ。てっきり「プレゼントは私です!」とか言ってきそうな気がしていたのだが、ミルナ達も成長しているという事か。
「アキ!私はプレゼントがない!だからプレゼントは私だ!好きにしてもいいのだ!」
「私もよ!アキ君!さあ私を好きにして!」
頭が痛い。
ミルナ達は言ってこなかったが、エリスとエリザが「プレゼントは私です」をやってきやがった。結局この子達の場合、誰かが必ずこういう方向に暴走してしまうということなのか。しかし何故そういう結論に達するのかは甚だ疑問だ。
とりあえずアリアから渡されたいつものトレーで2人を殴っておく。
「痛いじゃないアキ君!なにするのよ!」
「そうだぞ、アキ!なにするのだ!」
ぶーぶーと文句を言ってくるので、もう1発ずつ殴っておく。
「ええい、黙れ。このバカ猫に妄想剣士。別にプレゼントなんてしなくてもいいから気にするな。だから落ち着け。」
エリスとエリザからは何も貰った事はないが、そんな事は気にしなくてもいい。別にプレゼントが欲しいわけではないのだから。確かにアリアとセシルからは従者の指輪を以前貰った。エアルとミリーからはネックレスだ。ただそれはあくまで感謝の気持ちを表す為のお礼として貰った物だ。だから何も他の子達がそれを真似する必要はない。
……あれ?
そう言えば、ベルとルティアからも何も貰っていない。そしてその2人はさっきから一言も喋っていない。激しく嫌な予感がする。
恐る恐るベルの方を見ると……
「不味いです……王女の私が後れを取るなんて!これはなんとかしなければ!そうだ!アキさん!私はこの国!この国をプレゼントします!」
やはりか。予想通り過ぎて言葉を失うだろうが。
「いらん。黙ってろこのバカ王女。」
ついでに一発殴っておく。やはり碌な事を考えていなかった。
あとはルティアだ。しかしルティアはずっと影に潜んでいる。案内人がいる手前、出てくるのは恥ずかしかったのだろう。
「ルティア……おいで。出ておいで。」
「ア……アキ……私ダメな子……。」
刺激しないよう優しく呼びかけて見たのだが、どうやらそれは無駄な努力だったようだ。出てきてくれたまではよかった。だが膝を抱えて部屋の隅の方で蹲っている。
「なんで?」
察しはつくが一応聞いてみる。
「買い物の時……プレゼント買えばよかった。なのに私……食べてばっかりだった……。」
ああ、それは否定できない。本当にずっと食べていたのだから。
ただ美味しい物を食べてルティアはずっと幸せそうにしていた。それが彼女らしくて愛らしかったので、アキは何も気にしていない。ただまあ本人は納得がいってないようだ。
「こうなったら私をアキに食べてもらうしか……。」
「ええい、ルティアもか。」
とりあえずルティアの事も引っ叩いておく。小動物みたいでか弱くて彼女の事はなんか殴れないでいたのだが、不公平はよくない。ここは一発いっておくべき場面だろう。それに腐っても元Aランク冒険者だ。大したダメージはないはずだ。
「うぅ……アキのばか。痛い。」
ルティアが口を尖らせて拗ねている。やはりまったくダメージはなかったらしい。わざとらしく拗ねる余裕があるくらいだ。
「別に何もいらないから。くれるって言うのなら喜んで貰うけどさ。でも国とか『私』とかは却下だ。」
いらないって言うと、間違いなくこの子達は納得しない。ただ国なんて本当にいらない。そして何より「プレゼントは私です」とかやられるのが一番困る。ちゃんと釘を刺しておかないと、この子達なら部屋で待ち伏せされそうで怖い。
ちなみにミルナ達はさっきから勝ち誇った顔で「今回は優勢だ!」とご満悦だ。煽っているようにしか見えないからその顔は止めなさい。ある意味そのせいでこの惨状になっているのだから。
「わかりました、ではアキさんがあっと驚くプレゼントします!」
「私もなのだ!期待しておくのだ!」
「そうね!お姉さんの実力見せてあげるわ!」
「アキ、わたし頑張る。見てて。」
無駄にハードルを上げる4人。いいのかそれで。
まあミルナ達もそんな事を言いつつも上手くサプライズを成功させたのだから大丈夫だと信じよう。彼女達が何をプレゼントしてくれるのか楽しみにしておくのもこれまた一興。
「わかった、期待してる。じゃあそろそろ爺さん達と合流するぞ。その後は街を散策して、また温泉にでも行こうか。」
屋敷も買ったし、今夜はこの新しい屋敷で皆でのんびり過ごせばいい。もう宿に泊まる必要もない。
アキがそう言うと、全員がもの凄い笑顔になった。昨日とは違い、今日はいつも通り寝るまでアキと一緒にいられるのが嬉しいのだろう。しかしやっぱりそこまで素直に表情に出されるとちょっと照れ臭い。




