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爺さん達と合流し、屋敷を購入したことを伝え、予定通り温泉に向かった。その後は昨晩と同じように皆で夕食を取る。そして夕食後は早速購入した屋敷へ。
ちなみに爺さんは屋敷を買わなかったらしい。なんでもどうせアキとしか来ないから自分で持っている意味は無いのだとか。来られる時だけ宿を取ればいい。確かにその方が合理的だ。
「思ったより早く1人になれた。これは想定外だ。」
現在アキは新しく購入した屋敷の主寝室にいる。さっきまでリビングにいて、部屋決めをしようと提案したのだが、アキは主寝室だと真っ先に強制指定された。そしてミルナ達は「誰がアキの近くの部屋を取るか争奪戦」を始めたので、とっとと引き上げてきたのだ。
確かに6室はアキの部屋の真下にあり、残りの6室は少し離れた2階下になる。とは言っても、1階しか変わらない。しかも同じ屋敷内だろうがと呆れたのだが、なんでも負けられない女の戦いなんだとか全員が言っていた。よくわからない。ちなみにシャルだけはどこでもいいと大人な対応をしていた。一番年下なのに。
「やれやれ、いつ争奪戦は終わるのやら。」
苦笑しつつ窓から街を眺める。やはり主寝室からの眺めは素晴らしい。高層にあるから街が一望できる。
マリミアに到着した時、夜はさらに美しい街になると思ったが、やはりその通りだった。オイルランプがいたるところで灯されており、とても神秘的な光景が目下に広がっている。街全体にオイルランプの淡い光が灯っており、それが夜の森の木々と絶妙な調和を織りなして、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
「あれ、庭に誰かいる。うーん?あれはエレンかな。」
銀髪のツインテールが揺れた気がしたのでおそらくエレンだ。しかし何故こんな夜更けにエレンは1人で庭に出ているのだろう。アキはなんとなく気になり、庭へと向かう。
エレンに気づかれないようそっと庭に出て、彼女の様子を伺う。どこか憂いある表情で街を見下ろしている。何か落ち込むことでもあったのだろうか。エレンのあんな表情は滅多に見ない。どこか儚げで、それでいてとても美しい。エレンはいつも生意気で子供っぽいが、ああやって静かに佇んでいると本当に美少女だ。妖精ではないかと間違うくらいだ。
「エレン。」
アキはそっと声をかける。
「あ……アキ。ど、どうしたのよ。」
「街を見下ろしているエレンの姿が美しくて見惚れてた。」
正直な感想を述べる。
「な、なに馬鹿なこといってるのよ!」
顔を赤くして後ろを向いてしまうエレン。
「あとちょっと悲しそうな顔していたから気になった。どうしたの?」
「な、なんでもないわ……。」
「そうか。」
アキはそれだけ呟くとエレンの横に立ち、彼女の肩に手を回して抱き寄せる。
「少し寒いからこうさせて。」
「あっ……うん。ア、アキが寒いなら仕方ないわね……。」
基本的にエレンは「したいからさせて」って言い方をすれば、素直に「いいよ」と言ってくれる。「エレンがしたいならしてもいいよ?」と言うと素直になれずに反発してくる。この猛獣系女子の扱い方は完璧に覚えた。最初はチョロいし単純だなくらいしか思わなかったのだが、今となってはこんなエレンが凄く可愛い。表情がころころ変わるし、見ているだけで癒される。正直ツンデレなんて小説の中だからこそ可愛いと思っていた。現実でいたら苛立って速攻で殴るだろうと。でも事実は小説よりも奇なりといったところで、ツンデレは案外魅力的なんだと、エレンを見ていて気づいた。
「ね、ねえ、アキ?」
そんなくだらない事を考えていたら、エレンに声を掛けられる。消え入りそうな小さな声だ。そしてやはりどこか寂しそうな表情をしている。
その表情の理由を話してくれる気になったのだろう。まあこうやってそっとエレンの側に寄り添ってあげていれば、話してくれるだろうとは思っていた。この子は素直になるのにちょっとだけ他の子より時間がかかる。
「なに?」
「私って……その……魅力ないかしら?」
エレンが恐る恐る尋ねてくる。どんな深刻な悩みかと思ったので拍子抜けだ。
「ふっ。」
つい鼻で笑ってしまった。
「な、なによ!」
ただエレンはそれが気に入らなかったのか、おもいっきり睨んでくる。
「いやいや、何を馬鹿な事言っているのかなと思って。魅力ないわけないだろ?むしろなんでエレンはそう思ったのさ。」
「だ、だって!素直じゃないし!すぐにアキの言ったことに噛みつくし!む、胸だってないし、背も低いし!女らしいとこないじゃない!」
色々と自覚はあるらしい。
しかしこうしてちゃんと自己分析出来ているのは凄い事だと思う。なかなか自分で自分の欠点は認められないものだ。それなのにエレンはちゃんと客観的にそれを見れているし、理解している。さらにはなんとかしたいと悩んでまでいる。普通の人には中々できない事だ。
「まず背が低い事や胸がない事は欠点じゃないから。それもエレンの魅力の一つだ。」
「そ、そうなのかしら……?」
心配そうに確認してくるので、はっきりとアキは頷く。
「それにエレンは美少女だ。綺麗な髪。吸い込まれそうになる美しい青と赤のオッドアイ。あと小柄で……胸だってないほうがエレンらしい。だからまず外見的にエレンはすごく可愛い女の子だと思うよ。」
「は、恥ずかしいからそんな事言わなくていいわよ!」
「いいや、言う。聞いたのはエレンだろうが。最後まで黙って聞け。」
一度はっきり言ってあげたほうがエレンも少しは自信が持てるかもしれない。いつもは小出しにしていたが、今日は徹底的に言ってやろう。
「次に性格だけど、素直じゃないとこが可愛い。短気ですぐに飛びかかってくるけど、俺が痛くないように気遣ってくれてる。そういうとこが凄く優しいなって思うよ。それにいつも俺を支えてくれるし、必死に守ってくれるだろ。だからむしろ魅力しかないと思うけど?」
言いたい事は大体言い終えたので、改めてエレンの方を見る。すると見た事がないくらいに顔を真っ赤にして俯いているエレン。顔から煙が出て爆発しそうな勢いだ。
「俺がそう思ってるのはダメだったか?」
「ダメ……じゃない……。」
エレンは俯きながらアキの袖口をぎゅっと掴んでくる。
「エレン、ここから見る夜景綺麗だよね。」
庭から街を見下ろす。さすがにアキの主寝室からの眺めには負けるかもしれないが、この庭もまだ周囲より高い場所にある。十分に綺麗だ。それに庭から見る街はまた違った美しさがある。
「そうね、うん、綺麗だわ。」
「エレンは夜景を見ながらキスするのが理想なんだっけ?」
「……!ち、ちがっ!……」
反射的に否定しようとするエレン。だが途中で言葉を止めてしまう。そして少し逡巡し、何かを決意したようにエレンは真っ直ぐにアキを見つめてくる。
「違くない。して欲しいわ……ダメ……?」
素直なエレンは卑怯なくらいに可愛らしい。
アキはエレンの頬に手を添え、彼女と唇を合わせる。緊張しているのか、少し震えているのがわかる。でも決してアキから離れようとはしない。しばらく口付けした後、そっと唇を離して呟く。
「夜景も綺麗だけど、エレンのほうが綺麗だ。」
「ば、ばかじゃないの!?何恥ずかしいこと言ってるのよ!でも……う、嬉しいわ。」
今は少しだけ素直になることにしたらしい。
「理想通りだった?」
「うん。私、今とても幸せよ。」
そしてエレンは見たことないような笑顔を浮かべる。夜の明かりに照らされるそんなエレンはとても魅力的に見えた。
「それはよかった。いつもありがとな、エレン。」
「ううん、私のほうこそいつもありがとう、アキ。」
エレンがつま先立ちになり、彼女の方からそっとキスをしてくる。猛獣らしい彼女も好きだが、たまにはこんなしおらしいエレンも悪くない。
「風邪ひく前にそろそろ戻ろうか。」
「ええ、そうね。」
「そういや部屋割りは?エレンはどこになったの?」
「えへへ……それはまだ内緒よ!」
そう言ってエレンは楽しそうに屋敷の中へと駆けていった。
明日で旅行も終わり。明後日はイリアが戻ってきてまたドタバタな日々が始まるだろう。その他にもいろいろ予定は盛沢山だ。ミレーでの音楽祭、彼女たちの故郷巡り。大変な事もあるだろうが、彼女達となら何があっても大丈夫な気がする。
「なにしてんのよ!早くアキも中に入りなさい!」
「やれやれ。」
アキは苦笑しつつもエレンの後を追い、屋敷へと戻る。




