15
「ふぁー。」
ついつい欠伸が出る。さすがにこれだけのんびり温泉を楽しめば気だって抜けるだろう。この世界に来てずっとあれこれ考えていたから、これだけ頭を空っぽにするのも久しぶりだ。まあたまにはこういうのも悪くない。アキは空を見上げ、ゆったりとした時間の流れを楽しむ。
「……さーん!」
今一番聞いてはいけない、聞きたくない声が聞こえた気がするのだが、気のせいだろうか。いや、本当に気のせいであって欲しい。
ただそんな祈りも空しく、脱衣場の扉が勢いよく開く。
「アキさん!きましたー!」
そしてそこに立っていたのは当然ながらうちの金髪エルフ。髪はいつものサイドポニーではなく湯船につかる為か髪留めでアップにしており、うなじが見えとても色っぽい。男であれば理性なんてすぐにふっ飛んで襲い掛かるレベルではないだろうか。そして体にバスタオルは巻いているもののかなり際どい。ちょっとタオルがずりあがればかなり危険だ。
というか本当に何しに来た。
ただ一応こういう事はあるだろうと想定していたので、焦りはしなかった。心の準備をしていた分理性が持つので、とりあえずこの暴走エルフは何をやっているのかと問いただす。
「アキさんと温泉はいりたくてきました!」
「『きました!』じゃない。で、他の連中はどうした。」
「え?それならあそこにいますよ?」
ソフィーが入り口のほうを指を差すと、ミルナやアリア達が恥ずかしそうにこちらの様子を伺っている。顔だけ出して覗かせているところを見ると、きっと全員ソフィーと同じ格好なのだろう。
そんなに恥ずかしがるなら来なければいいのに。
「そんな格好でそこにずっといたら風邪ひくからとりあえず全員温泉に入れ。あ、タオルは取るなよ。俺は向こう向いておくから。」
タオルを巻いたままはマナー違反だが仕方ない。それに幸いにも湯船は白濁湯なので浸かってさえしまえば目のやり場にもそれ程困らないだろう。
しばらく後ろを向いて、ベルが「もう大丈夫です」と声をかけてくれたので振り返る。全員がアキを囲う用にして温泉に浸かっていた。何でだよ。
「ソフィーを止められなかったのはわかった。じゃあ何故お前らまで来たのか理由説明しろ。あとなんでイリアナやミントさん、リカさんまでいるんだよ。」
「だって!仕方なかったんですの!」
ミルナが必死に説明してくる。
最初はみんなで普通に温泉に浸かってたらしい。暫くしてソフィーが先にあがると言い始め、これはおかしいと思った。当然何をしようとしているか全員がすぐに理解して、必死に止めてくれたらしいが、ソフィーが「お湯は濁っているから大丈夫、皆は一緒に入りたくないんですか?」と言って説得したのだとか。
つまり全員でここにいるという事はその説得に見事に負けたという事なのだろう。
「それのどこか仕方ないんだ。結局は自分の意思だろうが。」
「だ、だって……『じゃあエレンとリオナはここにいればいいのです』とかいうから……!」
エレンも仕方なかったのと言い訳してくる。なるほど。上手くソフィーに乗せられ、結局皆が行くなら自分も行くと便乗したらしい。
「ミルナやベルもそうなのか?」
「わ、私も一緒に入りたいのは本当ですもの……。」
恥かしそうに頷くミルナ。
「べ、別にいいんです。好きなだけみてください。どうせこの体も全部アキさんのものです。さあ!どうぞ!」
ベルはもう吹っ切れたのか完全に開き直っている。ヤケクソになっただけな気もするが。
「見ません、やめなさい。ちなみにルティアはどこだ?」
「こ、ここ……。」
背後から声がする。振り返ろうとするとルティアに止められる。
「み、み、見ちゃダメっ。」
さすがのルティアも声が上ずっている。というかソフィー以外は全員そんな感じだ。そこまで恥ずかしいなら本当になんで来たのだろう。
「まあ、もう来たならいいけどさ。楽しい?」
「えへへ……うん、楽しいかな。」
リオナが恥ずかしそうに頷く。
「それならいいけど。で……お前らは何でいる。」
そう、問題はイリアナ、ミント、リカの方だ。なんで彼女達までついてきたのか。百歩譲ってミルナ達は良いとしよう。だがこいつらはダメだ。
「将来の夫と裸の付き合いをしておこうかと思いまして。」
「そんな予定はない。お前は帰れ。」
だがまあイリアナにはもう何を言っても無駄なので諦めよう。ソフィーのように変に暴走はしないだろう。
「ミントさんとリカさんは本当に何でいるの?きちゃダメだよ?」
イリアナも一万歩譲ってよしとしよう。でもミントとリカは嫁入り前のうら若き乙女。さすがに不味いだろう。
「うーん、まあ……襲われてもアキさんなら別にいいかなと。」
「そうですねー、アキさんならいいです。責任取って貰えばいいですし。」
ミントとリカが平然と告げてくる。だが嫌だ。そんな形で責任なんて取らされたくない。まあきっと彼女達はイリアナについてきただけだろう。
「それでアキさんはこれだけの美人に囲まれても欲情しないんですか?」
イリアナがわざとらしく首を傾げる。そんな質問するなといいたいが、まあここは正直に答えてやろう。
「しないと言ったら嘘になるな。俺も男だし。でもこれだけいると逆に理性が働く。」
1人だけとかだったら襲っていたかもしれない。でも逆にこれだけ集まってしまうと、悟りの境地に到達した気になる。もうどうにでもなれといった心境だ。
「エレンしかいなくて、迫られたら無理かもね?」
「そ、そうなの……?む、胸とかないのに……?」
エレンが自分の胸を確認するようにぺたぺた触って俯いている。
「そりゃそうだろ。それに胸は関係ない。」
「う、うん……ありがと。」
嬉しそうに微笑むエレン。
一方うちのエルフは不機嫌だ。
「やっぱり私1人でくればよかったです!皆さん出てってくださいー!」
「もうお前が1人で出てけ。」
ソフィーは相変わらずだ。
「とりあえずのんびりさせろ。」
もう追い返すのも面倒なので、このまま温泉を楽しむことにする。そんなアキを見てか、ミルナ達もそれ以上をアキを邪魔する事はなく、静かにしていてくれた。




