12
エスタートと談笑していたら何時の間にか宿に到着したようだ。
「これはまたお洒落な宿だね。」
ミント達の案内で到着した宿は、複数のツリーハウスが集まって出来ているコテージ型の宿泊施設。この中のコテージを爺さんが手配してくれたのだろうか。
「ほほ、宿ごと貸切っておいたぞ。」
「金に物いわせすぎだろクソジジイ。」
爺さん、イリアナ達、アキ達で4~5つもあれば事足りるのに、何故全て貸切ったのか。確かにその方が誰にも邪魔されず、のんびりできる。特にルティアなどは人見知りするので貸し切りのほうがきっと喜ぶだろう。
「おぬし達にはそのほうがいいじゃろ。」
「まあそうだな。うちの子達は目立つからね。ありがとう。」
ミルナやソフィーは言わずもがな、アリア達も目を惹く美人だ。そして何といってもベルは王女だ。今回はお忍びで来ているのだから騒ぎになるのは避けたい。ならここは爺さんの計らいに感謝しておこう。
「とりあえず、どのコテージを使ってもいいの?」
「うむ、そうじゃな。」
それならばアキは適当に1つ選ぼう。みんなには自由に好きなところを使ってもらえばいいだろう。ただうちの駄エルフの考えは少し違うようだ。
「では誰がアキさんと同室になるかの争奪戦ですー!」
「やめろ、この馬鹿エルフが。」
ソフィーの頭を引っ叩く。
「えへへ!復活ですー!アキさんにもう殴られるの平気です!慣れました!争奪戦再開ですー!」
余計な免疫をつけやがって。今度はおもいっきりソフィーを蹴飛ばす。
「ひゃっ……ちょっとアキさん!女の子蹴っちゃダメですー!」
「蹴られたくないなら余計な事はやめろ。俺は1人部屋だ。」
ソフィーがぶーぶー文句言ってくるが、他の子達はちゃんとわかってますと頷いている。とりあえずこのエルフが突撃して来ないよう見張っておけば問題なさそうだ。
「ミルナ達で1室、ベルで1室、アリア達で1室にする?」
アキが部屋割りを提案する。ベルは王女だし個室の方がいいだろう。しかしベルは少し逡巡し、いいえと首を振る。
「それでもいいですが、女子会も楽しそうなので私はアリアさん達と同室がいいです。」
「そっか、ベルがそう言うなら。じゃあミルナ達、アリア達で2室にしよう。アリア達はエリザとルティアも加わって6人だから大きめの部屋にしなさい。」
これでコテージは割り振れたので、一度部屋まで荷物を置きに行く事にした。30分後に宿屋の受付に集合だ。その後、全員で温泉にでもいこう。アキの提案に特に異論はないようで、全員素直に従ってくれた。ソフィー以外。
「イヤです!私はアキさんと同室って決めてるんですー!」
殴られても、蹴り飛ばされても、めげずにアキのコテージについて来ようとしがみついて来るソフィー。ある意味この根性は凄い。そして自分の感情に素直なところは尊敬できる。だが猪突猛進過ぎる。
「エレン、リオナ、早くこの鬱陶しい駄エルフを連れてけ。」
うちの良心であるエレンとリオナに任せる事にした。
「ええ、わかったわ。ほら、ソフィーきなさい!」
「まったく、ソフィーはしょうがないなー。」
ソフィーの両脇をがっちり掴み、引き摺って行ってくれた。
「エレン、リオナ、はなしてー!いーやー!」
哀れなエルフの断末魔が温泉街に木霊する。
しかし到着して早々なんでこんなバカな事やらされているんだろうか。ミントやリカの笑顔が引き攣っているじゃないか。
「ではアキさんは私と一緒でいいですね?」
そう言えばもう1人、イリアナという面倒なメイドがいるのを忘れていた。
「ミントさんにリカさん。このメイド絶対部屋からだすなよ。むしろベッドあたりに縛り付けとけ。早く連れてって。」
2人はわかりましたと頷いて、イリアナを引っ張っていってくれた。本当にこの2人はアキに協力的なので助かる。これでやっと自分の部屋へと向かえる。
ちなみに爺さんはとうに自分の部屋へと消えていた。イリアナ達も連れてってくれればいいのに、面倒事は全部アキに押し付け、さっさと一服しに行きやがった。あのクソジジイ。
「おい見ろよ、みんなめちゃくちゃ可愛いぞ。」
「ああ、声掛けてみろよ。」
予定通り荷物を部屋に置いた後、温泉街を全員で散歩している。だがミルナやアリア達と固まって街中を歩くとやはり目立つ。ルティアはさすがに恥ずかしいらしく、宿を出てからはずっと影に潜っている。ちなみに男は当然アキと爺さんだけだ。
「リオナ、美人だってさ。」
「う、うん……なんか変な感じ。」
ずっと「レオ」だったリオナ。いつも少年として見られていた。だからこうして女性として見られる視線にまだ慣れていないようだ。
「ベルも美人だってさ。それに王女だってばれてなさそうだ。」
「それはどうでもいいです。」
全く興味を示す様子がないベル。
「でもばれてないのはこの新しい服と髪留めのおかげですね。新しいの嬉しいです!」
一転して笑顔になるベル。
実は彼女の変装用の服と髪留めを新調してあげたのだ。あれはミレー王国で調達した衣服だったので、エスペラルドだと少し薄着で肌寒い。だから爺さんに頼んでベルに1着新しい普段着を用意してもらった。黒のタイツに青のフリルスカート。トップスは白のニットのような厚手の上着を選んであげた。髪留めは前のと一緒だが、色違いの水色。
しかしこうしてベルが髪をあげているところは個人的に結構好きだ。とても落ち着いた大人の女性に見える。
「今日の服、似合ってて可愛い。それに凄く美人だ。」
「えへへ……やった!」
ベルが嬉しそうに腕を絡ませてくる。さっきまで美人と言われても、一切興味を示さなかったのに、アキが言った途端この態度だ。
「当然です。アキさんに言われたら嬉しいんです。他はどうでもいいです。」
当たり前の事を言わせないでくださいと口を尖らすベル。
しかしこうしてベルが腕を絡ませてきたことで、周りからの視線が厳しくなった。アリステールでもあった事だが、まあこれはやはり仕方ない。
「なんだよ、あの男……。あんなに美人つれて。1人くらいこっちに回せよな。」「ほんとだよ、むかつくな。」「あのエルフ、銀髪、それに金髪剣士の子もめちゃくちゃ可愛いじゃねーか。」「それにあの狼の子も美人じゃね?」「あとあの兎の子にメイド達も!」
以前はソフィーとミルナが注目の的だったが、どうやら今日はソフィー、ベル、エリスのようだ。そしてリオナ。勿論セシル、アリアやイリアナ達もそこそこに注目は浴びている。一方エレン、ミルナ、エリザは……。
「あの胸のない子も可愛いけどめんどくさそうだな。」「あとあの猫も美人だけど賞味期限きれてそう。」「胸が無駄にでかい青髪の子は美人だけどなんか足とか臭そうじゃね?」「確かに。でも胸は無駄にでかいな。」
とか散々な事を言われているので、アキが3人を必死に抑えている。
「よし、おまえら落ち着け。」
「アキ君、離しなさい!あの屑どもにおねーさんの怖さを教えてあげるの!」
「アキさん!離してくださいませ!女には殺らないといけない時があるんですわ!」
「ぶっころおおおおす!あいつら絶対殺すうううう!」
エレンはいつもの事だが、まさかミルナとエリザがそんな評価をされるとは。見る目がない連中だなと思うが、とりあえず今はそれどころではない。この子達を落ち着かせるのが先だ。エレンとミルナを撫でて落ち着かせ、そしてエリザに関しては尻尾を引っ張っておく。
「ちょっと!私だけ慰めが雑じゃないかしら!?」
「愛だよ愛。」
「えっ……そ、そうなの?」
相変わらずチョロい猫だ。
それよりも気になっていた事をミルナに尋ねる。
「それで無駄乳。足が臭いのか?」
「そ、そ、そんなことないですわ!後、無駄乳言わないで!」
顔を真っ赤にして怒鳴るミルナ。しかし彼女のこの反応を見るに、事実らしい。あの連中は見る目ないどころか、逆にあり過ぎたようだ。よくもまあピンポイントにそんな事を言い当てたものだ。
しかし段々とミルナの不憫ぶりが可哀そうになってきた。不器用でポンコツだけじゃなくそんな属性まであったとは泣けてくる。
「違うの!アキさん!聞いて!」
涙目になっているミルナ。そろそろ本気で泣きそうだ。
「俺はそんなミルナでも大丈夫だ。」
「うん……で、でも!く、臭くないですからね!」
「そっか、なら治さなくていいな。そのくらい俺の世界の知識で魔法を使えばなんとかなる。エリスの時と同じだな。」
同じ要領で治してやれるはずだ。まあミルナが必要ないというならしないけど。
「アキさん!治してくださいませ!」
治せるとわかった瞬間、ミルナが必死に縋りついてくる。
「いや、でも大丈夫なんでしょ?」
「うぅ……ばか……言わせないでよ……。」
俯きながら呟くミルナ。認めるのが恥ずかしいのだろう。まあそれも当然か。
「今晩にでも俺の部屋に来なさい。いいね?」
「うん。いく。」
なんだかんだうちの子達の中で一番手がかかるのはミルナかもしれない。
「まあ、それはそうとあいつらにこのまま温泉までついてこられるのは面倒だな。」
どこまでついて来るつもりなのかはわからないが、温泉に着くまでに撒いておかなければのんびりも出来ない。ゆっくり入浴している時に乱入されたら多分殺してしまう気がする。ただミルナ達に声をかけるのは彼らの自由だ。むしろやるなら早くやって欲しい。
「確かにそうですね。どうしましょう。」
ベルが手を顎にあてて考える。
ベルが王女とわかったら不用意に近づいては来ないだろうが、エスペラルドの王女が来ている事を安易にばらすわけにもいかない。アキもどうしたのものかと考える。だがそんな心配は無用だったようで、彼らは直ぐに行動に移してくれた。
大柄な男が前に出て、早速アキを怒鳴りつけてくる。
「おいお前、さっきから見せつけやがって!」
しかし止めた方がいいのにと溜息を吐く。声をかけるならさっさとしろとは思ったが、やるべきではなかった。
「はい、なんでしょう。」
「とぼけんじゃねえ!まあ……だが俺も鬼じゃねえ、そこの女共を置いて消えな。」
「まあ、この子達が貴方について行くというなら別にいいですよ?」
どうするかを決めるのは誘われている彼女達なので、ついていくというなら止めはしない。この子達に限ってそれはあり得ないので、元から心配はしていないが。
「ほう。話がわかるじゃねーか。じゃあお嬢ちゃん達は俺らと楽しもうぜ。」
下卑な笑い声をあげる男達。
「ただ痛い目に遭いたくないなら止めた方がいいです。」
「なんだと!やっぱり女を守ろうっていうのか。」
「いや?この子達に殺されますっていう善意の忠告ですが。」
アキよりこの子達のほうが間違いなく手が早い。特にエレン。まあエリスやソフィー辺りも黙っていないようだろうから瞬殺されるだろう。それに既に、アキとの時間を邪魔されたからか、相当不機嫌になっている。殺気がやばい。ベルやソフィーのゴミを見るような目が怖い。
だからやるべきではなかったのだ。なんせこの子達は恐ろしい。
「くくく、何言ってんだ、俺らが女に負けるわけねーだろうが。」
「いやいや、この無駄乳と賞味期限切れの猫の必殺技は凄いですよ。よしミルナ、エリザ。ファイナルインパクトだ。許す、使え。」
大層な技の名前を言ったせいか、男達が慌てて身構える。
「やらないわよ!こんなとこで使えるわけないわよ!」
「そうですわ!使えませんわ!死にますわ!」
ミルナとエリザは嫌だと必死に首を振る。あとその渾名で呼ぶなとものすごく怒られた。
ただ男達には「死ぬようなレベルの大技」と聞こえたらしく、彼らはさらに表情を強張らせる。まあ実際死ぬのはミルナとエリザなのだが。羞恥で。
しかしそんなやり取りをしていた最中、いつのまにか彼らの背後に回ったイリアナがあっさりと彼らの意識を刈り取ってしまった。
「うるさいゴミですね。ちょっと捨ててきます。」




