11
「アキさん見てくださいー!綺麗な街です!」
マリミアの街をみたソフィーは大はしゃぎだ。
予定通りアキ達はミスミルドを出立し、マリミア温泉街に旅行に来ている。聞いていた通り馬車で半日程度で、ミスミルドから割と近かった。ちなみに爺さんはやはり側仕えとしてイリアナを連れてきた。勿論ミントとリカも一緒だ。
「落ち着けソフィー。でも確かに綺麗なところだな。」
アキは馬車から降りて街を見渡す。マリミアは他の街とは全く違う。エスペラルドのミスミルド、ミレーのレスミアなどは平原に街が作られていて、周囲を壁で囲んでいた。マリミアも街を壁で囲っているのは同じ。まあいわゆる魔獣対策だ。ただマリミアは平原ではなく森につくられた街だ。街と森が同化している。地球にはないような巨大な大木が支配する森林。その大木をくり抜いて家にしたり、木の上に屋敷を建てたりしている。そして肝心の温泉は街の奥にあるらしい。森林の中に源泉が湧き出している場所があり、その周囲を発展させていったら、いつのまにかこのような街が出来上がったのだとか。
マリミアも他の街と同様に大昔からある街だ。というより魔獣政策が始まった時代から街は1つも増えていない。まあ新しい街を作っても魔獣転送除外区域に指定できないから、王家も安易に増やせなかったのだろう。つまりこの街も古い歴史があるはずだ。きっと大昔、魔獣がまだこの大陸を闊歩していなかった頃、温泉を楽しむ人々がここに集まり、街を築いた。そしてマリミア温泉街という観光名所になった。
「しかしほんとに綺麗だ。」
ツリーハウスや大木をくり抜いて造った家に心が躍る。男なら誰しもが一度は憧れる秘密基地。それを彷彿とさせるからかもしれない。きっとアキ達が泊まる宿もこんな感じに違いない。爺さんやミルナ達を労う為に連れてきたけど、これはアキが一番楽しむことになりそうだ。
それに素晴らしいのは建物だけじゃない。街路の雰囲気もとてもよく、森林と調和するように作られている。木の上の家に登る為大木の周囲をくり抜いて作られた螺旋階段。大木から大木へ渡る為のつり橋。上を見上げれば、まるで空の上を人が歩いているかのようだ。当然木の上だけではなく地上も活気で溢れていた。大木の根元をくり抜いて作られた店が軒を連ねており、人があちらこちらを忙しそうに行き来している。
なんて立体的で美しい街なのだろう。ファンタジー世界に迷い込んでしまったかのような場所だ。こんなの綺麗どころの騒ぎではない。神秘的な光景とはまさにこの事ではないだろうか。きっと小説に出てくるエルフの里とはこんな感じに違いない。
さらには街のところどころにオイルランプが配置されている。つまり夜にはもっと幻想的な光景になるということだ。これは夜に是非とも散歩をしなければ。間違いなく絶景が広がるはずだ。その時はうちの子達も誘ってあげよう。
「あとで散歩でもしようね。」
「うふふ、はい。喜んで。」
隣にいたミルナ嬉しそうに微笑む。そして何故か手を握ってくる。当然その様子を他の子達が黙って見ていられるわけもなく、一斉に文句を言ってくる。そして空いている片方の手を誰が繋ぐかの争奪戦が始まった。なんでもかんでもすぐに争奪戦をするこの子達はある意味凄い。
「アキさん!私を選んでくださいですー!」
ソフィーが必死にアピールしてくる。ただ争奪戦は最終的には決着がつかず、アキが選ぶ羽目になった。そういうのは一番やめて欲しいのだが。とりあえず今はミルナという事でいいだろう。
「心配しなくても皆と散歩する予定だから、待ってなさい。」
アキがそう言うと、ソフィーが「やったー」と喜び、他の子達も嬉しそうに頷く。ただエレンだけはやはり素直になれないのか、いつものツンデレを発動させてくれた。
「べ、別にアキと行きたくなんてないわよ!」
「じゃあエレンとだけはいかないってことで。」
「ち、ちょっと待ちなさいよ!アキがどうしてもっていうなら……その……行ってあげてもいいわよ!」
本当に素直で可愛くないとこが可愛い。多分アキからお願いしないと彼女はうんと言えないのだろう。仕方ないので甘やかしてあげよう。きっとそれもアキの役目だ。
「エレン、俺はどうしてもエレンと行きたい。嫌かもしれないけど付き合ってくれたら嬉しい。」
「し、仕方ないわね!なら付き合ってあげるわ!」
もの凄い笑顔で頷くエレン。表情だけは素直だ。
「アキさん、馬鹿丸出しの家族漫才はもうそろそろよろしいでしょうか。」
イリアナが呆れた声で話しかけてくる。
「お前もう帰れ。」
確かに爺さん達の前で変な家族団欒を見せたのは事実だが、イリアナが辛辣すぎる。もうこのメイドを相手にするのは面倒なので、ミントとリカの方を頼る事にする。
「ミントさん、リカさん、宿まで案内お願いできる?」
「「はい!」」
ミントとリカは元気よく頷き、こちらですと案内してくれる。この2人がいて本当によかった。
「ねえ、ちなみに爺ちゃんはここ来た事あるの?」
マリミアの事を少し知っているような口ぶりだったので聞いてみた。
「昔に一度な。商会長になってからはあまり旅行する事もなくての。まあ仕事で旅をすることは多かったがの。」
商会の仕事で各国を巡る事はあっても、観光目的で旅行する事はないのだろう。きっと仕事で旅をしている分、休みの時は屋敷でのんびりしたくなるのかもしれない。
「もしかして新婚旅行的な感じ?」
「うむ、その通りじゃな。」
爺さんがどこか懐かしそうな目をする。前に爺さんの奥さんは亡くなったと聞いた。事故などではなく病死だったらしい。
「俺がもっと早く来てれば助けて上げられたかもな。爺ちゃんごめん。」
「いいんじゃよ。家内は幸せそうに息を引き取ったからの。あれでよかったんじゃ。」
少ししんみりしてしまった。
爺さんは奥さんの事をとても大事にしていたとイリアナが言っていた。複数人娶る事などせず、その人だけを愛したのだと。
「爺ちゃんはどうして妻は1人だけだったの?」
爺さんクラスの人物ともなれば、複数人を娶るのはこの世界だと普通だろう。商会長ともなれば貴族以上、王族と同等くらいの地位はある。前に王族の嫁の人数は10人くらいが普通だと爺さんは言っていた。ならそれに近いくらいの数の妻が爺さんにいてもおかしくはない。
「うむ、1人の妻だけを愛すのが男の甲斐性じゃ。」
「おい、ジジイ。そう思うのなら人の嫁を増やそうとしてんじゃねえ。」
碌でもない爺さんだ。誠実が一番とかほざいている癖に、人の嫁はやたらめったら増やそうと画策してきやがる。
「ふはは、冗談じゃ。アキのように全員を器用に愛せる自信がなかったんじゃ。見て見るがよい。おぬしのところのお嬢さん方はみんな幸せそうじゃろ?わしには真似できんかったことよ。」
そう言ってミルナ達の方を見るエスタート。
どうやらミルナ達には2人の会話は聞こえていなかったようで、不思議そうな顔を浮かべている。彼女達が幸せそうかどうかはアキにはよくわからないが、首を傾げるあの子達はなんか可愛いとは思う。
「後は彼女達のように純粋にわしの事を慕ってくれるのが妻しかいなかった。それだけじゃ。」
当時の事を思い出したのか、面倒臭そうな表情を浮かべる爺さん。なるほど、商会長ともなれば打算的な女性からのアプローチも多かったのだろう。
「だがあの子達にはそんな裏はないの。」
爺さん曰く、ミルナ達は純粋にアキという人間を慕っている。アキが異世界の人間だとか、お金を持っているとかではない。本当に純粋にアキの事が好きなだけだと。
「なるほどね、俺は幸運だな。」
「そうじゃな。しかし全員虜にしているアキは凄いの。」
「そんなつもりは毛頭ないんだけどね。」
偶然みんなと出会い、偶々慕われただけで、狙ってやったわけではない。自分としてはこんな可愛くていい子達が何故自分を慕うのか不思議なくらいだ。以前本人達に理由を聞いたところ、アキがいつも自分の為に一生懸命に頑張ってくれるからだと言っていた。本当にそれだけだろうかと首を傾げたが、それ以上は野暮だと思ったので詳しくは聞いていない。
「あとは下心なく接しているからじゃろうな。」
アキが不思議そうにしていたからか、爺さんが自分なりの考えを教えてくれた。
アキは最初ミルナ達と出会った。彼女達は慎ましやかで美人で魅力的な子達だった。ただアキはこの世界に順応する事に必死で、彼女達をそういう目で見たりはしなかった。それがあの子達が心を許した要因ではないかと爺さんは語る。今まで接して来た男はそんな連中ばかりだったから、余計安心したのではないかと。
そしてそんなうちの子達と行動をするようになり、アキはアリア達と出会った。ただ既にミルナ達が側にいるからか、アリア達に対して目の色を変える事なく普通に接した。
「つまり美人に慣れてしまってたんじゃな。」
「なるほど、それはあるのかも?」
爺さんの考察に納得する。
「まあ、結局はおぬしの人柄じゃろうけどな。」
エスタートが楽しそうに笑う。
「よくわからないけどね。でもまあ、別にそこは知らなくてもいい事だよね。」
正直そんな事はどうでもいい。彼女達が慕ってくれているという事実だけをちゃんと理解していればいい。
「そうじゃの。それが一番大事な事じゃ。ほれ、そんな事より宿に着いたぞ。」




