10
「とりあえずエリザおかえり。ごめんね、騒がしくて。」
暫くは休みを取ってくれたので、こっちにいられるが、エリザは学園長としての仕事があるので、基本的に昼間はミレーに戻らなければならない。だがこれからは同じ屋根の下で暮らすことになる新しい仲間だ。改めて彼女を歓迎する。
「ううん、楽しいわ。ずっと1人暮らしだったから、こういうのは憧れてたのよ。」
その気持ちはアキにもわかる。地球ではずっと1人だったからこんな賑やかな今が凄く楽しい。
「それはよかった。でも1個大事な確認を忘れてた。ベル。」
「え、あ……はい。私ですか?」
急に話を振られたベルが慌てて返事をする。
「うん、エリザをこちらに毎晩召喚する事にしたけど、それって国境をものすごく無視してる気がするんだが、両国的に大丈夫かな?」
「あー……そういえば……。」
どうやら言われて気づいたらしい。まあアキも今の今まで抜け落ちていたのでしょうがない。アキがいとも簡単にエリザを召喚したから、国境を越えている事実なんて誰も気にしていなかった。だがいくらエリザがアイリスやベルと顔見知りとはいええ、無許可で勝手に国境を超えるのはいかがなものか。
「そうですね、うーん……ではエリザさんには恒久的なエスペラルド通行許可書を発行します。それであれば問題ないでしょう。正規に国境を超えていませんが、許可されている事には変わりはありませんので。」
まあ許可されているのであれば大丈夫だろう。
「ありがとうベル。助かるよ。」
「いえ、お役に立ててよかったです!」
ベルが嬉しそうに笑う。彼女はアキの役に立つ事に全力を注いでいる。それが自分の存在意義だと言わんばかりの気合のいれようだ。そんなことしなくていい、側にいてくれるだけでいいと何度も言ったのだが、ベルは頑なに譲らなかった。アキの側にいるだけでは絶対嫌だと言って聞かなかった。アキが色々とベルの為に頑張っているのだから自分もそれ以上にアキの役に立ちたいらしい。それがベルの理想とする2人の関係なのだとか。
「じゃあ俺もベルに負けないよう頑張らないとね。」
「うふふ、はい。アキさん。」
彼女の望む関係性がそれなのであれば、アキはそれに従うまでだ。ベルが望む理想の形を実現させてあげたい。
とりあえずこれでエリザの滞在に違法性はなくなった。アイリスとエルミラには後日話を通しておけば問題ないだろう。どうせ召喚はアキにしか使えない。
「そうですね、アキさんが悪用しないとお約束して頂けれるなら父もアイリス陛下も特に問題視しないでしょう。むしろ移動が面倒だからと送り迎えに使われそうです。」
ベルが苦笑する。
確かにその可能性は大いにありそうだ。まあアキに転移を許可してくれるのであればそれくらいの雑務は喜んでしよう。
「ア、アキ君。色々私の為にありがとう、嬉しいわ。」
エリザが頬を染めて嬉しそうにお礼を言ってくる。さらに「尻尾触る?」と付け加えてくれたので、どうやらアキが色々と調整を頑張ったご褒美らしい。もちろん触るに決まっている。
「いや、俺もエリザがいてくれて嬉しいから。それに尻尾が増えた。」
エリザの尻尾をくるくる回しながら喜びを表現してみる。
「だから人の尻尾で遊ぶのやめなさい!それになんで嬉しいところがそこなのよ!確かに尻尾も私の一部だけどなんか嫌よ!」
エリザが頬を膨らませて拗ねる。だが譲れない事はアキにだってあるのだ。
「遊んでない!愛でているんだ!」
「怒るとこそこなの!?ねえ!それにアキ君が感情的になるとこもそこ!?」
なにもおかしくはない、アキにとっては重要な事だ。
「いいか、エリザよく聞け!リオナの尻尾、セシルの耳、エリザの尻尾と俺には最強の三銃士が揃った!毎日いつ、どうやって、どういう順番で愛でようか予定を立てなければならないのだ!」
そういってエリザに予定表を書いた紙を見せてやる。
「何よこれ!おかしいわよ!なんてもの作ってるのかしら!?」
エリザが予定表を見て叫ぶ。
そこには分刻みでどの尻尾と耳を愛でるかが記してあるのだ。まず朝起きて7時からセシルの耳を5分、その後にリオナの尻尾を10分、そしてエリザの尻尾を10分という具合に予定が組んである。
「ちょっとアキ!ほんと何作ってるのさ!ぼく……私まで巻き込まないでよね!」
「そうですよ!なんでアキさんの予定に合わせて撫でられに行かないといけないんですか!」
リオナとセシルも予定表に対して文句をいってくる。何故だ、俺の耳と尻尾なのだから別にいつ愛でても問題ないだろうに。
「「「私のだから!」」」
3人が同時に反論してきた。
「アキさん!だめです!ちゃんと私を愛でる予定も入れてくださいですー!」
そして庭に捨てられたはずのソフィーがよくわからない事で怒り始めた。いつの間にリビングに戻って来たのだろう。
「何言っているんだ、ソフィー。ここをよくみろ。『ついでにソフィーを撫でる』と記してあるだろう。ほら、何の問題もない。」
そう言って予定表の一部を指差す。
「ほんとですー!やったー!」
それでいいらしい。相変わらず単純なエルフだ。
「ソフィー!あなたどう考えても騙されてますわよ!『ついで』って書いてあるところにまず疑問を持ちなさい!」
「そうよ!完全に都合のいい女に成り下がってるわよ!」
ミルナとエレンがソフィーの目を覚まさせようと必死に説明している。さすがにソフィー以外はこの程度じゃ騙されてくれない。
「まあ、こんなものは冗談で作っただけだ。」
彼女達の事は全員大事だ。誰かを贔屓するなんて出来ない。当然のことだ。
「あの……それならせめてセシルさんの耳を愛でながら言うのやめて頂けませんか……?」
ベルが苦笑交じりに指摘してくる。
「しょうがないだろう。予定では今セシルの耳の時間だ。」
「なんで……本当に予定通りにしてるんですかっ……!あっ、撫でるならもっと優しく……。」
口では文句を言ってるものの、セシルはなんだかんだ好きに兎耳を触らせてくれる。可愛い兎だ。しかしこうやってセシルの耳を触ったりしていても、最近はソフィー達が「お話ですー!」って言ってこなくなった。平和でいいが、あれが無くなるのは少し寂しい。
「そうなんです?お話されたいですー?」
「ソフィー達の話しを聞いているのは好きだからね。内容はともかく。」
「でも、確かに私も『お話』不足かもですー……。」
ソフィーが口を尖らせる。すっかりアキに説教するのが日課になっているらしい。ミルナやエレンもどこか物足りなさそうな表情をしている。しかしそんなに「お話」したいものなのだろうか。
まあそれならばせっかくなのでしてもらうとしよう。
「あ、そうそう。爺ちゃんとの温泉旅行だけど、ついでに爺ちゃんのメイドのミントさんとリカさんも誘ったけどいいよね?」
一応伝えておかなければと思っていたし、丁度いい。
「アキさん!お話ですー!」
待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに叫ぶソフィー。
「ええ、アキさん。お話ですわ。」
「そうね!久々にみっちりお話してあげるわ!」
「アキ、私は悲しいよ!」
ソフィーに加え、ミルナ、エレン、リオナもお話モードに入ったようだ。そうそう、この感じ。すっかりご無沙汰だったので、偶には好きなだけ話をさせてあげよう。ちなみに今日はベル、エリス、セシルも加わるようだ。さらにはエリザも「面白そうね、私も混ぜなさい」と言っている。
「あれ、ルティアも?」
何時の間にかルティアがアキの隣に座っている。相変わらず神出鬼没な子だ。
「すぐ女落とすの、ダメ。」
ルティアはそれだけ言うと、アキの膝に頭を乗せてごろごろし始める。満足したらしい。どうやら彼女の場合は一言いいたかっただけのようだ。
「アリアはしないのか?」
アリアだけは何故か説教すると主張していなかったので聞いてみた。
「私は皆さんが終わってから徹底的にさせていただきます。まず私というメイドがありながら、何故イリアナさんとは違ったさらに別のメイドに手を出しているのか、その辺りから詳しく事情聴取させてください。ええ、もちろん内容を聞いてからどの程度のお話をするか決めます。」
藪蛇だったようだ。むしろ一番説教する気満々のようで、もの凄い威圧感を出している。そう言えばアリアはメイドが関わると本気になるのを失念していた。ミルナ達は楽しくお話出来ればいいと言った感じだが、アリアだけは目が本気だ。殺気すら感じる。
「アキさん!私達以外のメイドなんていりません!」
どうやらシャルもアリア側のようだ。まあでも正直この2人以外のメイドを雇うつもりはないのだから安心してもらいたい。
「違います!エスタート様の屋敷のメイドは油断なりません!隙あらばアキさんに取り入ろうとしてきます!大体あの腹黒メイドみればわかるでしょう!絶対!絶対!篭絡されないでくださいね!」
アリアが必死に説得してくる。
だが心配しなくても、そんな予定など当然ない。
「俺のメイドはアリアとシャルちゃんだけだって。」
何回も言っている事だ。ただどれだけ同じことを言っても、アリアは不安のようで、メイドが絡むといつも感情的になる。いい加減安心して欲しい物だ。
だがアリアは「違います」と頭を振る。どうやら彼女の心配はそういうことではないらしい。
「もしですよ?もし、イリアナさんが泣きながら『クビになりました、アキさんの所で雇ってください。』って懇願してきたらどうですか?断れますか?」
「どうだろう。状況によると思うけど。」
アキは顎に手を当てて考える。あの爺さんがそんな理不尽な事をするのはありえないが、もしそんな状況になったとしたら、確かに雇うかもしれない。
「いいえ、アキさんは間違いなく断れません。お優しいですから。そしてあの腹黒メイドはそれを計算してくるのは確実です!だから心配なんです!わかってください!」
なるほど。確かにイリアナならそれくらい余裕でしてきそうだ。爺さんと結託して解雇を捏造。そしてアキに泣きつけば、きっとアキは雇うだろう。
「それならまだいい方です。先に既成事実を作られて『雇え』とあの女なら言いかねません。それを阻止するのが私とシャルの役目なのです!」
そんなアリアの言葉を聞いてイリアナの不敵な笑みが脳裏に浮かんだ。うん、あのメイドならやりかねん。どうやらアキの考えが甘かったと言わざるを得ない。
「確かにイリアナなら普通にやりそうだな……。気を付けよう。」
そんな大惨事は勘弁してもらいたい。
「あのー、もういいですかー?お話タイムしていいですー?」
ソフィー達は静かに待っていてくれたようで、アリアとの会話がひと段落着いたタイミングで様子を伺うように声をかけてくる。まあアキとしても今回ばかりは説教されるのを少しだけ楽しみにしていたし、好きなだけ聞いてやるとしよう。




